流れよ我が涙と悪魔《ゆうしゃ》は言った。
鍛冶屋 優雨
第1話
僕は騎士や冒険者、神官、魔術士など20名ほど率いてゴブリンロードの討伐を行っていた。
本来なら千の軍勢を率いるとされているゴブリンロードだけど、まだ成り立てだという情報を得たので、大群のゴブリンや魔物を率いる前に、急増で少数の部隊を編成し、一応、勇者とされる僕(僕よりもランクが上の他の勇者達は別の任務で出払っていた。)が率いて討伐に乗り込んできたというわけだ。
戦闘は朝早く日が昇り始めた頃から始まり今はもう昼前だ。
粗方、魔物は倒したので、後は、ゴブリンロードの率いる軍勢の中核を残すのみだ。
そして、僕はゴブリンロードを発見したので、走りながら、父親の形見であり、愛用のハンマー(片側は鶴嘴になっている)を振り上げ、ゴブリンロードに迫る。
「うりゃぁぁ!」
僕はあまり迫力のない掛け声とともに握っているハンマーを横振りにしてゴブリンロードを打つが、ゴブリンロードは手に持った剣で僕のハンマーを軽く防ぎ、ニヤリと笑う。
短命種のゴブリンといえども人間種を捕らえて、その肉や血を喰らい、女を抱いて子を成すと寿命が延びる。
そうして、何年も生き続けることで、レベルが上がり、普通のゴブリンからゴブリンウォーリアやゴブリンジェネラル、そして僕の目の前にいるようなゴブリンロードにまで成長してしまう。
これより上位種だと万の軍勢を率いる知能を持つようなゴブリンキングなんかもいる。
ゴブリンには雌はいないので、奴らは、攫った人間の女性や動物の雌を母胎とし繁殖をするので、忌み嫌われている存在だ。
他にもこの世界には、人の力をはるかに凌駕する魔物が数多く存在する。
僕みたいな神官が所属する神殿や魔術士が所属する象牙の塔、騎士や戦士が所属する国軍や多種多様な冒険者が所属する冒険者協会などは、魔物の情報を得ると協力して全滅させる。
しかし、何回全滅さしても、魔物は何処からか湧き出してくるように出てくる。
僕はゴブリンロードを睨みつけると、ゴブリンロードは怯んだのか、剣に込める力が弱まったので、ゴブリンロードの腹を蹴ると、思ったよりゴブリンロードは遠くに倒れ込んだ。
僕はチャンスと思い、倒れたゴブリンロードの頭に向かってハンマーを振り下ろす。
ゴブリンロードの頭は熟した果物のように砕けた。
「ふぅ~。」
僕はゴブリンロードを倒したことで気を許して、戦闘中にも関わらず、兜を脱いで、汗に濡れたオレンジ色の髪をかき上げる。
その時、索敵を疎かにした僕の隙をついて、死角からゴブリンウォーリアが斬り掛かってきた。
僕はとっさにハンマーを投げ捨て鉄の小手をはめた手でゴブリンウォーリアの剣を防ごうとした。
「こりゃ手は持っていかれるな。」
僕は自分の愚かさで、その手を失うことを悟り、諦めの境地で訪れるであろう痛みを待つ。
しかし、いくら待っても、両手には痛みはこず、戦闘中にも関わらず瞑ってしまった目を恐る恐る開けると、僕に斬り掛かろうとしていたゴブリンウォーリアの動きが停止していた。
まるでゴブリンウォーリアだけ時間が止まったみたいだ。
すると、
「おいおい、みんなの希望である勇者様がそんなに簡単に諦めんなよ。」
と、聞き覚えのある声が、動きの止まったゴブリンウォーリアの後ろから聴こえてきた。
その声と同時に目の前ゴブリンウォーリアの、上半身がゆっくりとズレ始めて、ドシャっという音とともに崩れ落ちた。
「クリス様!助かりました。ありがとうございます!」
ゴブリンウォーリアを真っ二つにしたこのクリス様というお方は、僕のパーティーの1人で、ザンネック伯爵の長子であり、王国軍に所属している騎士で本来なら、騎士と名の付くとおり、馬上で戦うことを得意とするのだが、馬から降りても、その戦闘力は落ちないという素晴らしい騎士だ。
「さすが!閃光の騎士ですね。全く剣筋が見えなかったです。」
僕がそう言うと、クリス様は
「お前は目を瞑っていただろうが、そんなんじゃ、何も見えないはずだろう。」
と言って、ニヤリと笑う。
まったく顔が良い人はどんな表情をしても似合うから羨ましいな。
クリス様は貴族で『閃光の騎士』と呼ばれている。
これは単なる剣速の速さからそう評されているわけではない。
クリス様が、神から与えられる役職(クラス)『閃光の騎士』を発現させたからである。
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役職(クラス)・・・、それは神が人間を守護するために与えてくれる役職のことである。
人によって発現時期はバラバラだが、多くの人は成人(15歳)頃に発現する。
『剣士』などの戦闘的な役職や『鍛冶士』などの生産的な役職、
『閃光の騎士』などという、普通とは異なる役職も存在する。
このような異なった役職の場合は、複数の役職が合わさっていることが多く、取得できるスキルも簡素な役職よりも数が多くなっているそのため、一般的な役職より上位の役職として扱われる。
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