サマービスケット

蛇トロ

サマービスケット

「サマービスケット」


ーーー中学3年生の常野日夏は、今日もまた友人たちに彼氏がいないことをからかわれながら、放課後の教室を後にした。彼女の心の中には、一人の少年の姿が刻まれていた。同じクラスの相葉勇斗。勉強に勤しむその姿は真面目で、運動する姿は爽やかだったが、彼にとって日夏はただのクラスメイトでしかなかった。そんな思いを隠しながら、日夏は帰り道、いつものように口笛を吹いた。


「♪~」


木々のざわめきと、どこからか聞こえる蝉の鳴き声が、彼女の頭上で混ざり合う。相葉のことを思いながら歩いていると、突然、世界が遠のくような感覚に襲われた。意識が薄れていき、彼女の視界がゆっくりと暗転していく。


目を覚ますと、日夏は自分の部屋のベッドに横たわっていた。窓から差し込む朝日が彼女の顔を優しく照らす。時計を見ると、昨日と同じ、夏休み直前の日付を示していた。デジャヴのように繰り返される一日。友人たちのからかい、相葉への密かな想い、そして口笛を吹く帰り道。


この不思議な現象に戸惑いながらも、日夏は次第にこの状況を受け入れるようになっていった。そして彼女は決意する。何度も同じ日を繰り返すこの時間を使って、相葉の心を掴んでみせる、と。


初めての告白は、緊張と共に訪れた。相葉に思いを伝えると、彼は静かに首を横に振った。「ごめん、今は勉強に集中したいんだ。」失望を感じながらも、日夏は諦めることを知らなかった。相葉の趣味を知ろうと努力し、彼が好きな運動に挑戦する。少しずつ距離を縮めるうちに、二人の間にかすかな友情が芽生え始めた。


夏が深まるにつれ、日夏は毎日少しずつ相葉の側にいることが楽しくなっていった。相葉が部活の練習で疲れているとき、日夏は水筒を持ってきて、彼の肩に軽く手を置いて「お疲れ様」と声をかける。相葉は最初は驚いていたが、次第にその優しさに心を開いていった。


ある日、日夏が相葉の家で宿題を手伝っていると、彼が集中して問題に取り組む姿を見て、心の中に温かい感情が湧いてきた。相葉が問題を解決すると、彼は笑顔で「ありがとう。君がいなかったら、ここまで来られなかったよ」と言った。その言葉に、日夏は心の奥底から嬉しさがこみ上げた。


ある夏の夕暮れ、日夏は公園で相葉と一緒に過ごしていた。穏やかな風が吹き、空には美しい夕焼けが広がっている。日夏は少し緊張しながら、相葉に言った。「最近、君といる時間がすごく楽しいんだ。」相葉はしばらく黙っていたが、やがて微笑んで言った。「俺もだよ、日夏。君といると、なんだか特別な気持ちになる。」


その言葉を聞いたとき、日夏の胸は温かい感情で満たされた。相葉が自分のことを少しずつ好きになっているのを感じた。彼の目が、自分に向けられるその優しい視線に、日夏は確かな感情の変化を感じ取った。


ついに、日夏が再び告白をすると、相葉は微笑んで言った。「君といると楽しい。付き合ってみようか。」


日夏の胸は歓喜に震え、その夜は幸福感に包まれたまま眠りについた。しかし、目覚めたとき、彼女は病院のベッドに横たわっていた。周囲は白く清潔な空間で満たされ、彼女の体は動かず、意識が朦朧としている。医師から伝えられたのは、交通事故に遭い、重傷を負ったという事実だった。


病室のドアが開き、相葉が静かに歩み寄る。彼の目には涙が浮かんでいたが、その声はどこか遠く、冷たく響いた。「日夏、正直に言うと、俺は君といるのが楽しかった。でも、それ以上の気持ちにはなれなかった。ごめん、君にはただずっと『友達』で居たかったんだ。」


その言葉は、日夏の心を凍りつかせた。彼女は、相葉が心から愛してくれると信じていた全ての希望が砕け散ったことを感じた。涙がこぼれ落ち、彼女はただ静かに呟いた。「私のすべてが、あなたに捧げられたのに…。私の愛は、ただの幻想だったの?」


絶望と虚しさが彼女を包み込み、日夏は静かに瞳を閉じた。その瞬間、彼女の夏は永遠に閉ざされた。

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サマービスケット 蛇トロ @ageagesan

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