紅露美ー2 自己分析と売春
「案外真面目に勉強したら大学とかも行けるかもしれないしな。Fランなら学費免除になるかもしれねえ」
進路希望の調査票も提出せず、面談も無視し続けていた紅露美ではあったが、母親からも正太からも自立すべく真面目に机に座って様々な資料を眺める。キャンパスライフにも憧れがあった紅露美は、まずは自分の学力を知ろうとサボっていた模擬試験の問題集を解き始め、自己採点をして近場の偏差値の低い大学に入れそうかどうかを調べる。
「うわっ……私の学力、低すぎ……?」
日頃Fランだなんだと馬鹿にしていた近場の偏差値の低い大学ですら、自分からすれば雲の上の存在である事に気づき愕然とする紅露美。いかに自分が馬鹿なのかを自覚し焦った紅露美は、これから1年近く真面目に勉強すれば合格するはずだと翌日から授業も真面目に聞いて家でも勉強しようとする。しかしながら、
「宝条。寝るなら受験組の邪魔だ。帰れ」
「す、すいません……」
今までが不真面目過ぎた紅露美にとって、さぁ勉強しようで真面目に勉強が出来るかと言えば当然そんな事は無く、いつものように授業中に寝るかスマートフォンを開くかで、かつては一緒に不真面目な生徒としてつるんできた友人達も、高校三年生という節目を迎えて少しずつ真面目になってきており授業中に一番前の席で寝る紅露美に冷ややかな視線を投げかける。そんな状態で友人達と一緒に勉強をしようなんて持ち掛けることは紅露美には出来ず、一人で勉強しようとしては気づけば遊んでしまうといういつもの日常を繰り返してしまうのだった。
「最近生徒会長と一緒にいないな。別れたのか?」
「まぁ、別れたというか、無意識にフってしまって激怒されたというか……タイミング的にもう生徒会の仕事がほとんど無いのが不幸中の幸いだったよ」
そんなある日、紅露美が廊下を歩いていると前方から倫にやられた傷も治って来た正太が友人達と歩いているのを見かけ、身体が自然に壁の方を向いて気づかれないようにしようとしてしまう。正太達が図書室で勉強会をしようとしている事に気づいた紅露美は正太と一緒に勉強をしている自分を想像する。自分は一人では勉強が出来ない人間であり、友人にも見捨てられているような状態。けれど正太なら、自分が頼み込めば勉強に付き合ってくれる……そんな確信があった紅露美ではあったが、それをしてしまえば正太に自分が依存してしまうという恐れから、正太の存在は完全に無視をすると決め込んでそれからもしばらく一人での勉強という名の時間の消費を繰り返すが、
「大学だけが全てじゃねえ!」
とうとう限界が来たようで、問題集をゴミ箱にシュートしながら求人情報誌を手に取る紅露美。肉体労働は無理だ、頭脳労働も当然駄目だと自分に出来そうな仕事を探す紅露美であったが、今までのアルバイト経験と言えばRMTや裏アカウントといったどうしようもない事ばかりであり何の役にも立ちそうに無い。そんな時、家のドアが開き派手な化粧をした母親が帰宅する。
「おかえり母さん……キャバ嬢って楽しい?」
「楽しい事もあれば辛い事もあるけれど、仕事はどれも大変よ。なあに紅露美、アンタ水商売目指そうって言うの? まだ若いんだから今からでも真面目に勉強して短大でもいいから入るなり、ちゃんとしたとこで働いて一般常識とかを身に着けた方がいいわよ」
仕事で多量に飲酒をしたのか顔を赤くしている紅露美の母親は、化粧を落とすとすぐに寝室に向かう。父親と離婚するまではOLだった紅露美の母親は、シングルマザーとして紅露美を育てるために稼ぎのいい水商売の世界へと入っていた。そんな母親をずっと見て来た紅露美は、母親が寝ている間に化粧道具を借りて自分も綺麗になれるのだろうかと色々試していく。
「ウチは母さんみたいに綺麗じゃ無いし、スタイルも悪いし無理だな。話術だって、ウチの話を長時間聞いてくれるのはアイツしかいねえよ……」
日頃からあまり化粧をしていない事もあり、鏡に映った自分の顔と、ついでに膨らみのあまり無い首の下あたりを見てげんなりする紅露美。自然と正太とファーストフード店等で語り合った日常が思い起こされ、辛くなった紅露美は水商売なんて向いてないと化粧を落として自室へ籠る。スマートフォンを何気なくポチポチと押していると、先日削除した裏アカウントに載せるために撮っていた、スタイルの悪さを露出で誤魔化した自分の姿。
「……勉強も出来ない、綺麗でも無い、会話も出来ない……春を売るしかねえのかなぁ……」
自分のような人間には結局そういった道しか無いのだろうと嘆いた紅露美は、数日間かけて決意を固めた後、キャミソールにミニスカートと薄手の衣装に着替えて夜の街へと繰り出していく。ラブホテルの近くで客待ちをしている女性が何人か立っている中に混じり、春の夜は今の紅露美の衣装からすれば寒いからか何度もくしゃみをしながら男を待つが、いざ男性が女性達の方へ向かって来ると怖くなってその場から離れてしまったり、そもそも紅露美のような子供は相手にされなかったりと時間だけが過ぎて行き、紅露美のくしゃみの回数は増え続ける。
「ウチは身体にすら価値が無いのかよ……人間失格女失格……」
買われていく同業者を眺めながら凍えながら落ち込み、こうなったら自分から声をかけよう、初物がおっさんは嫌だから若い男に声をかけようと辺りを見回し、自分とそう変わらないであろう若い男に後ろから声をかける。
「お兄さん、ウチどう?」
「……紅露美さん? どうって、どうしたのさその恰好。寒く無いの?」
「!?」
運命なんてモノを信じていなかった紅露美であるが、振り返ったその男が正太である事に気づき硬直する。両親が結婚記念日でデートに出かけているから外でご飯を食べようと思ってぶらついていたという正太は、寒そうだし温かいモノでも食べようよと近くのラーメン屋を指差す。促されるまま正太と共にラーメン屋に入り、カウンターで正太の横に座り無言で鼻水とラーメンをすする紅露美。
「……自分を大事にした方がいいと思うよ。勉強は捗って……無いんだろうね。生徒会の任期も終わるからさ、少し時間が空くんだ。良かったら、一緒に勉強しようよ」
紅露美の服装から色々と察した正太はジャケットを脱いで紅露美に着せる。そんな正太の優しさに色々と限界だった紅露美の感情は爆発し、ボロボロと涙を流しながら正太に縋りつく。
「ウチ、駄目な人間なんだよ……父さんがいなかったからさ、その反動で多分男に依存しないと生きていけないんだ。何でもするからさ、お前の人生を駄目にさせてくれよ……」
正太の胸の中でワンワンと泣きじゃくる紅露美。そんな紅露美を左手で抱きしめ、右手でよしよしと頭を撫でる正太。こうして正太と紅露美は、お互い口にこそしなかったものの恋人関係となるのだった。
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