12-2 強引な看病とお見舞い

「おはよう正太! 迷惑をかけたな」

「おはようございます倫会長。困った時はお互い様ですから」

「……その、気付いたら病院にいたんだが、正太が運んでくれたんだよな、お、重く無かったか?」

「いえいえ(台車でしたし)……まだ少し顔が赤く無いですか?」

「し、しもやけだ! それじゃあ放課後にまた」


 倫がインフルエンザから回復した日、挨拶運動や服装チェックの為では無く、正太に逢うために校門で待ち構えていた倫は、正太がやってくると顔を真っ赤にしながらお礼を言う。意識が朦朧としていた倫は正太が自分をオンブ、もしくはお姫様抱っこをして病院まで連れて行ったと都合の良い勘違いをしており、どさくさに紛れて色々身体を触られたのだろうかと見当違いの事を考えながら正太から逃げ去って行く。そして放課後、いつものように二人きりの生徒会室での業務が始まるのだが、


「正太、具合が悪そうだな、ひょっとして私の風邪がうつってしまったんじゃないか?」

「いえ、全然そんな事は無いですけど……」

「自分の変化は案外自分じゃ気づかないものなんだ。放課後に病院に行こう」

「大丈夫だと思いますけど……」


 家で寝込んでいる時に正太がお見舞いに来なかった事により、逆にお見舞いをしたいという欲求が出て来た倫は、健康そうな正太に対し具合が悪そうだから一緒に病院に行こうと強引に正太を病院に連れて行く。


「どうだった? 風邪か? インフルエンザか?」

「微熱でした、自分じゃ全然気づきませんでした。熱があると言われると何だかぼーっとしてきました」

「会長命令だ、2日程ゆっくり休め。なあに、公欠にしておく」

「お気持ちは嬉しいですが、僕は皆勤賞別に目指してませんよ(そもそも飲酒の時に休んだし)。倫会長には常に清く正しくいて欲しいんです、職権乱用は辞めてください」

「す、すまない……」


 倫の若干邪な願いが通じてしまったのか、正太は風邪気味である事が判明し、お見舞いに行くために無理矢理正太を休ませる倫。そして正太が休んだ1日目の夕方、宿題とお見舞いの品を持った倫は正太の家のチャイムを鳴らし、家族に好印象を与えながら正太が寝ている部屋の前へ。


「正太、入るぞ」

「わっ、会長!? す、少し待っていてください」


 ノックをしてすぐに入ろうとした倫であるが、正太も男であり部屋で暇を持て余している時にすることは相場が決まっている。そんな最悪のタイミングだったようで中からは慌てたような正太の声が聞こえ、倫が入らないようにカギをかけられてしまう。しばらくして諸々の証拠隠滅をした正太は倫を招き入れ、部屋の中で何も如何わしい事は行われていなかったかのように振舞う。正太にとっては最悪のタイミングではあるが、今の正太は倫を女性として嫌でも意識しており、倫にとっては最高のタイミングなのだがそれに気づかない倫は病人にあまり対応をさせるべきではないと良識を発揮し、宿題とお見舞いの品を渡して軽く会話をして帰って行くのだった。


 ◆◆◆


 倫が剣道部で友人に正太のお見舞いをした時の事を話し、友人が倫に何が行われていたかを説明するべきか悩んでいる頃、正太は生徒会室で一人業務を行っていた。たまにチラッとドアの方を見やるが、誰も入って来る様子は無い。少し寂しさを感じた正太はスマホを取り出してSNSを開き、数日前から止まっていた紅露美とのやり取りを眺める。ここ数日紅露美は学校に来ておらず、インフルエンザにかかったであろうことは容易に想像がつくが、SNSのやり取りすら出来ない程に弱っているのかと心配になる正太。自分のせいで風邪がうつったのかもしれないし、お見舞いにでも行こうと住所や連絡先を調べるために職員室へ向かうが、タイミング悪く会議中なのか職員室はもぬけの殻。仕方なく生徒の個人情報がまとめられているファイルを開き、紅露美の住所と両親の連絡先を探すが、


「……」


 緊急連絡先として登録されているのは紅露美の母親だけであることに気づき、以前デートをした際の自分の発言が浅はかだった事を悟る。母親の連絡先に電話をするも電話番号が変わっているのか繋がらず、ひとまず住所を頼りに紅露美の住んでいるアパートへお見舞いの品を持って向かう。チャイムを何度か鳴らすも反応は無く、そういえばカギを盗んでいたなと、緊急事態だし仕方ないよねと不法侵入をする正太であった。


「あー……このままウチ死ぬのかな……」


 一方その頃、紅露美は自室のベッドに横たわり、大量の汗を流して意識を朦朧とさせていた。インフルエンザで心身ともに弱っており、スマートフォンで暇潰しをする気力も無くなり、生存本能からかたまに家にある食料を消費するだけの数日を送り続けるには理由があった。タイミング悪く紅露美がインフルエンザにかかる直前、母親は彼氏と一緒にしばらく旅行に行っており紅露美がインフルエンザに罹っている事すら気づいていない。紅露美は母親に連絡をする事も出来たが、母親の幸せを邪魔するべきではないと一人で耐え忍ぶ事を選んだものの、体力は限界に近づいていた。やがて意識が途絶えて眠りに落ちると共に、不法侵入をした正太が紅露美の部屋を探り当てる。


「紅露美さん、お見舞いに来たよ……」


 何度かドアをノックする正太だが紅露美はそれに気づくことなく、正太も自身の経験から安易に入るべきかと悩むも中から紅露美の呻き声が聞こえて来たため致していたらごめんねと謝りながら部屋の中へ入る。まさかカギを盗んだ正太が部屋に侵入していることなど夢にも思わず、服を汗でびしょびしょにしながら悪夢を見ているのか呻き声を上げ続ける紅露美。


「うわ、凄い汗。とりあえず拭いておくね。別に紅露美さんの肌なんてSNSで見てるし」


 緊急事態だからと正太は紅露美の服を脱がし、タオルで汗を拭いて着替えさせる。脱がした服を洗濯に出し、起きてすぐに食べられるように机に食事を用意し、母親に看病をさせるために紅露美のスマートフォンに手をかける。


「『インフルエンザになった 死にそう 助けて』……と。それじゃ、カギは郵便受けに入れておくからね」


 紅露美になりすまして母親にSOSを発信し、少し容体の良くなった紅露美に別れの挨拶をして何食わぬ顔で家を出て、カギをかけて郵便受けに盗んだカギを返す。こうして紅露美に気づかれぬまま、正太は不法侵入と強制わいせつ行為を遂行するのであった。



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