16歳-15 シーズン後半戦


ラバリアがユーロリーグに加入してから約二か月が経ち、3月になった。

リーガABCでの試合が7割、ユーロリーグでの試合が4割程度終わったので、戦績を振り返ろうと思う。


まず、リーガABCでの戦績だが、こちらは22勝1敗とほぼ全勝している。

今季からパブロとエンソが加入したおかげで、チームの層が滅茶苦茶厚くなったからな。

このリーグだと、レアロを除いて敵なしの状態と言っていいだろう。


唯一苦戦しているのがレアロだ。

元NBA選手のラッセルとマウリカが加わった今のレアロは戦力の大幅増に成功しており、リーガABCの歴史の中でも過去最強と呼ばれるほどのチームになっている。

特にラッセルとマウリカのディフェンス力は驚異的で、うちの得点源であるアントニオとルーカスをシャットアウトするほどである。


シーズン初戦では、何故か【ラッセルとエースPGのジェイコフが二人して俺をディフェンスする】という意味不明な作戦を採用してくれたお陰で快勝できたのだが、次戦ではディフェンスを修正してきたため大苦戦した。

こちらも俺のドライブや3Pを増やして対抗したものの、ダブルチームに捕まったり、リズムが悪くなってシュート確率が落ちたせいで、一点差で惜敗してしまったのである。

次にレアロと当たるプレイオフまでに、何か作戦を練る必要があるな・・・


次にユーロリーグの戦績だが、こちらも10勝1敗と好調な滑り出しだ。

リーグ全体としてのレベルはリーガABCよりも高いものの、明確にラバリアよりも強いチームは居ない印象だ。

国外での試合が多いため飛行機での移動が多く大変ではあるが、内容的に苦戦するような試合はほぼない。

唯一負けがついたのもレアロとの試合である。


対レアロの成績は、ユーロリーグで1勝1敗、リーガABCでも1勝1敗だ。

下手したら、両リーグの決勝戦がラバリアVSレアロになるかもしれない。

早いうちに有効なレアロ対策を見つけないとまずいな・・・


やっぱり、元NBA選手のラッセルとマウリカが強すぎるんだよなぁ。

特にラッセル。

彼の今季の3P成功率は6割を超えている。

NBAに居た頃はドライブとミドルシュートに定評がある選手で、3Pの印象は全然なかったのだが・・・

何故か欧州リーグに来て覚醒している。


ルーカスによれば、FIBAルールの3PラインがNBAより1mほどゴールに近いのが影響しているらしい。

ラッセル的にはFIBAの3Pは少し遠いミドルシュートって感覚なのかもな。

あと、やっぱディフェンスも上手いんだよなぁ。

機動力がある上にウィングスパンもあってブロックが上手いから、アントニオがほぼ完封されている印象だ。


スクリーンを使った既存のセットプレイが読まれてきているので、新しいセットを考える必要があるだろう。

後でルーカスと相談しないとな。




そんな感じで反省点はあるが、今のところ順調に勝ち進むことができている。

この調子だと、おそらく両リーグでプレイオフ出場は殆ど確定と言っていいだろう。

これからはレアロ対策をしつつ、プレイオフに向けて体調を万全の状態に整えていくのが重要となる。



というわけで、俺はラバリアのトレーニングセンターに併設されている食堂へとやってきた。

目の前に広がるのは、最新の設備が整った高級感あふれる空間だ。

天井は高く、壁一面がガラス張りになっており、自然光が柔らかく差し込んでいる。

俺たちがギリシャ遠征に行っている間に、アレンさん監修でリフォームしたとは聞いていたが・・・とんでもなく綺麗になっているな。

前も清潔な食堂という印象はあったのだが、ここまで豪華な感じではなかったはずだ。


食堂の奥には、フルーツやサラダが美しく並べられたビュッフェテーブル、そしてシェフが目の前で料理を作ってくれるオープンキッチンが見える。

ビュッフェテーブルの前まで移動すると、最新式のメニュー表示システムが目に飛び込んできた。

巨大なデジタルスクリーンには、今日のメニューが美しい写真と共に紹介されている。

カロリーや栄養素の情報も細かく表示されており、選手たちがトレーニングに最適な食事を選ぶためのサポートが万全だ。


とはいえ、俺の食べるものはアレンさんによってすべて決められているから、あんま意味のない設備なんだよな・・

いつも通り、調理場にいるシェフにアイコンタクトで合図すると、指でOKマークを作って返してくれた。

これで注文完了である。


さて、次はテーブルを見てみるか。

そう思って振り返ると、そこにはビジネスマンが打ち合わせに使いそうなカフェコーナー、更にはリラックスできるソファーエリアも併設されていた。

特に目を引くのは、壁に取り付けられた巨大なスクリーンだろう。

ラバリアの戦術解説動画や試合のハイライトが映し出されており、これを見ながら次の試合に備えた戦略を考えることができそうだ。

これは普通に助かる。


たまには、食事を取りながら選手同士でディスカッションするのも良いかもしれない。

そう思って周りを見渡したものの、昼飯時を過ぎたからかテーブルはかなり空いている。

チームスタッフが何人かいるが、選手は誰もいないかな?・・・いや、居た。

ルーカスだ。

一人で座ってチキンサラダを食べながら、スクリーンに映るアーヴェルとの試合のハイライトを見ているみたいだ。

画面ではちょうど、俺とノアとの1on1の場面が流れている。


俺は軽快な足取りで近づいて、向かい側の席の座席を引いた。


『よっ!俺のスーパープレイ集を見て勉強してんのか?』


そんな軽口を叩きながら、ルーカスの対面に座る。

するとルーカスはちらりとこちらを見た後、ニヤニヤとしながらスクリーンを指差して

『おう!こりゃ勉強になるぜ。やっぱディフェンスは大事だよ』

と言ってきた。


スクリーンを見ると、そこにはノアがドリブルする俺からボールをスティールする様子がスローモーションで流れていた。


『あの試合唯一のミスじゃねえか!残りの1on1は全部勝ったんだから、そこを流してくれよ!』


思わずツッコミを入れる。


『ま、調子に乗らずに精進しろという監督からのメッセージじゃないか?・・・食堂の映像だからアレンさんが選んでいる可能性もあるが』


『だとしたらシンプルにドSの才能を発揮してるだけだな。あの人容赦ないし・・』


俺に毎日キロ単位の野菜食べさせてくるぐらいだからな。

体作りに必要なこととは言え。


『まあ、この試合は勝てて良かったよ。おかげで、ダイを舐めてくる奴は居なくなったし。ユーロリーグの間じゃ、ダイに喧嘩を売ると執拗に1on1を仕掛けられてボコボコにされるって、もっぱらの噂らしいぞ』


『風評被害が過ぎるだろ・・・だから相手選手の腰が引けてたのか』


ギリシャではトンガとかいう毒舌キャラで有名な選手ともマッチアップしたのだが、明らかに目を合わせないようにして避けられていたからな。

キャラ的にノアみたいな差別発言で煽られるかと思っていたのだが、全然だった。

全身にタトゥーをいれた強面の大男がビビっている様子は違和感が凄かったぞ。

中学時代を思い出したぜ。


『お待たせいたしました。チキンステーキと大麦パン、サラダとスムージーでございます』


と、ルーカスと話している間に、調理が終わったらしい。

シェフが今日のランチを持ってきてくれた。

肉厚なチキンステーキに鮮やかなサラダにスムージー、どれも美味しそうだ。


『・・・いつ見てもダイの食事量はおかしいよな。俺も人の3倍食べているという自負があるが、その量は流石に食べきる自信ないぜ』


ルーカスが俺のランチメニューを見てドン引きしている。

・・・今日の料理も8人前ずつくらいあるからなぁ。

サラダに至っては、10人前はありそうだ。

明らかに調理用と思しき巨大なサラダボウルが四つほど並んでいる。


『ま、慣れればペロリと食べれるぜ。シェフの腕がいいから、味は確かだしな』


俺はシェフを褒めつつ(本心)、チキンステーキに手を付ける。

じっくりとローストされた良質なチキンだ。

ナイフを入れるとスッと刃が入り、簡単に切り分けることができた。

味付けも最高で、咀嚼するたびに日本では嗅いだことのない爽やかなスパイスの風味が鼻に抜けていった。

8枚あるチキンステーキがそれぞれ違う味付けなのもありがたいよね。


『あれ?ダイのサラダ、なんか豪華じゃないか?トマトとかパプリカとか、俺のサラダより明らかに瑞々しい感じがするんだが』


ルーカスがこちらのサラダを見ながら、不思議そうな顔で聞いてきた。


『俺は追加料金払って、高級野菜を入荷してもらっているからな。というか、そうでもしないとアレンさんの指示する量の野菜は食べれねぇよ』


俺はルーカスに回答しながら、サラダに手を伸ばした。

うん、旨い!

流石は1食2-3万もする高級サラダだ。

パプリカやトマトの甘みがすごいし、雑味が全くない。


『ほう。アレンさんの指示をこなすのも大変そうだな・・・俺は成長期を過ぎているからか、常識的な食事量しか指示されていないが。どちらかと言うと、エリザベスさんのトレーニングプランがきつい』


と、頭を抱えだすルーカス。


『そうなのか?俺のトレーニング量は全然変わらなかったが』


トレーニングフォームの微修正などはされたが、トレーニング量に変化はなかった。

なんなら、トレーニングメニューの意味を板書で説明してくれるから、前のトレーナーよりも納得ができて好印象だ。

俺の筋肉回復量を計測するときだけ、エリザベスさんの目がガンギマリになって怖いという欠点はあるが。


『マウリカ選手に押し勝つために肉体改造したいって相談しちゃったんだよな・・・それから、トレーニングの量と強度が倍増したんだ』


『そりゃ、自業自得だな』


エリザベスさんは職務を全うしているだけで、全く悪くないだろう。

というか、むしろもっとやってくれ。

ルーカスがマウリカ選手に押し勝てるようになれば、レアロ戦でかなり有利に立てるし。


『ま、だから文句は言いつつ淡々とこなしているよ。エリザベスさん、綺麗だしスタイル良いからトレーニングのやる気も出るからな!』


そう言いながら、ルーカスは爽やかな笑顔を見せてサムズアップしてきた。


『・・・さて、奥さんに密告しとこう』


『やめろやめろ!まじやめろ!今、第二子妊娠中でナーバスなんだから』


途端に焦りだすルーカス。

これだけ良いリアクションを見せてくれると、本気で密告したくなってくるな(冗談)。


『そんな事より、対レアロの作戦を練ろうぜ!』


と、ルーカスが話題を急転換してきた。

エリザベスさんの件、まだ良い味がしそうな話題ではあったが・・・流石に対レアロの作戦の方が重要だな。

乗っかっとくか。


『そうだな・・やっぱセットオフェンスが読まれているのが厳しいよな。新しいセットを思いついたんだが



こうして、俺とルーカスは食事を食べながら対レアロ対策について話し合った。

いくつか面白いセットオフェンスのアイデアも出たので、練習に取り入れることが決まった。

リーガABCのプレイオフまであと1か月半。

それまでに何とか完成させないとな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る