16歳-13 ユーロリーグ初戦2
アーヴェルの作戦も、俺たちと同じアイソレーションのようだ。
右サイドには俺とノアだけが残されて1on1の状況が作られた。
ボールを保持したノアと相対する。
身長差があるので、それほど近くでディフェンスをする必要はない。
俺は1mほど離れた場所で、足を大きく広げてノアの反応を伺う。
ノアが小刻みにシュートフェイクを入れてきたので、手で軽くチェックしてプレッシャーをかける。
身長差があるので飛ぶ必要はない。
フェイントの効果は薄いな。
すると、ノアは右にドライブのフェイントをかけた後、クロスステップで俺を左サイドから抜こうとしてきた。
が、スピードが遅い。
俺は回り込んで正面で受ける。
すると、ノアはたまらずロールして距離を取ってきた。
あと10秒ほどで、24秒バイオレーションの時間だ。
ノアの表情に焦りが見える。
今度は右側からドライブをしかけてきたので、プレッシャーをかけながら右コーナーに追い込んだ。
ノアは苦し紛れのシュートフェイクを入れてきたが、冷静にシュートチェックを入れる。
そのまま強引にシュートを打ってきたので、少しだけジャンプしてボールを叩き落とした。
ラバリアのサポーターの歓声と、アーヴェルサポーターの落胆の声が聞こえてきた。
アイソレーションのお陰で右コートには誰もいなかったので、転がったボールを全力で追いかけてキャッチした。
慌てたアーヴェルのメンバーがディフェンスに戻り始めるが、その時には俺は既にシュートモーションに入っていた。
大きくジャンプしつつ、ボールを体の前で一回転させ、片手でリングに叩きこんだ。
『ウィンドミルダンクきたー!!』
『良いぞダイ!もっと魅せてくれ!』
『ダンクコンテストかよ!』
ラバリアのサポーターの大歓声が聞こえてくる。
アーヴェルのサポーターのブーイングも聞こえるが、少し勢いを失っているようだ。
続くオフェンスでも、相手はアイソレーションを選択してきた。
ノアがドリブルをしながら小刻みにドライブのフェイントを入れてくる。
そして目線を左に入れた後、右サイドからクイックドライブを仕掛けてきた。
が、追い付けない速度ではない。
俺は回り込んでノアを正面で受けると、相手は苦し紛れのスピンムーブで左へ方向を変える。
それに対しても完璧に追従し、プレッシャーをかけ続けた。
するとノアのドリブルがおぼつかなくなったので、ボールを右手ではじきだした。
弾かれたボールはルーカスが回収してくれた。
ボールを戻してもらい、再びこちらのオフェンスが始まる。
こちらのオフェンスはもちろん、アイソレーションだ。
ノアはドライブを警戒しているのか、下がり気味で腰を落としたディフェンスを敷いてきた。
身長差があるので普通にフリーで3Pシュートが打てるのだが、ここまでドライブを警戒されると逆に抜きたくなってくるな・・・
俺は左にボディフェイクを入れ、素早く右にドライブを仕掛けた。
ドライブを読んでいたのかノアが回り込んできたので、大きめのスピンムーブで左に躱し、完全に抜き去った。
たまらずアーヴェルのセンターが横からヘルプディフェンスにくるが、俺はもうシュートモーションに入っている。
そのまま相手センターの腕を弾き飛ばして、スラムダンクを決めた。
『よっしゃー!圧勝!!』
『おい!今のファールだろ!どこ見てんだ審判!』
『三点プレイだろ!』
大きく湧きたつラバリアサポーター。
俺も完全にファールだと思ったが、審判は腕を振って流している。
・・・まぁ、相手のホームコートなので多少笛が寄るのは仕方ないか。
ってことは、こっちのゴール下でのブロックはファール吹かれる可能性が高いな。
リングに近づけずに止めてやるぜ!
@実況席 TV中継
佐々木アナ:「さて、これで第一Qが終わりました。ここまでの試合、いかがですか松木さん?」
松木:「いやー、今日の試合は完全にノア選手VS東雲君だね!お互いにアイソレーションで1on1の状況を作っているよ。でもまあ、流石に東雲君に1on1は分が悪いよね。ここまで東雲君は21得点、ノア選手は2得点。もはや完全に勝負ありって感じだね!」
「ノア選手の二点も、東雲君のクリーンなブロックに対して何故かファールを吹かれてのフリースローですから。直接対決では、東雲選手の完全勝利ですね」
「そうだね。ノア選手は試合前の差別発言があったせいで、ラバリアや我々日本サポーターから反感を買っていたからね・・いやぁ、痛快な展開だよ!」
「アリーナのラバリアサポーターも大盛り上がりしていますね。東雲選手がドライブでノア選手を抜き去ったり、ダンクを決めたりする度に、大歓声が響いております」
「東雲君も珍しく実力を見せつける様な動きをしているからね。ドライブはシャムゴッドにクロスオーバーにと、外連味があるというか、魅せてくるプレイだよね。フィニッシュもスラムダンクにリバースダンク、ウィンドミルダンクと、まるでダンクコンテストみたいになってるよ!」
「この二人の勝負は東雲選手の圧勝で終わりそうですね。ノア選手はアーヴェルのエースで1on1も上手いという前評判でしたが、全く寄せ付けていません」
「そうだね・・・いや、ノア選手も下手な選手ではないんだよ?2mオーバーの長身ガードで、スピードや俊敏性、ハンドリング、ジャンプ力も平均以上だ。実際、ユーロリーグではNo.1ガードにも選出されている。ただ・・・まあ東雲君とは相性が悪いね」
「と、言いますと?」
「東雲君と彼はタイプが同じなんだよね。そのうえで、すべての能力で東雲君が上回っている。ノア選手のユーロリーグでの戦法としては、身長が低い選手にはポストプレイでの勝負を、ビッグマンがついてきたときはスピードを活かしたドライブで勝負をしてきた。平均値が高い選手だから、自分が勝る部分で勝負をしてきたわけだ。でも、東雲君には通じない」
「東雲選手の方が高いし、スピードがあるからですね?」
「その通り。だから、ドライブでも当然抜けないし、ポストプレイなんて尚のことだ。東雲君に勝つには、身長は低いけどスピードが早い選手、まあNBAでいうアリソンのような選手じゃないと厳しいよね。もしくは、ヤーマンみたいに身長が圧倒的な選手とか、シャッコみたいなフィジカルで圧倒する選手とか、なにか突出していないと厳しいよね」
「なるほど。ノア選手は突出したものがないですからね」
「第一Qの時点で26-6だからね、流石にアーヴェルはアイソレーションをやめてオフェンスを修正してきそうだけど・・・どうだろう?」
「ただいまコート上に選手が出てきましたが・・・おっと、ノア選手は一度ベンチに下がるようです。第二Qは通常の試合展開に戻りそうですね」
・第二Q
「さて、第二Qは通常の試合に戻ったように見えますね。アーヴェルはピック&ロールを主体に攻めており、ラバリアはスクリーンプレイとアントニオ選手の3Pを軸にして攻めています」
「うん、どちらも戦い慣れた戦術にもどしたみたいだね。ただ、アーヴェルの控えPGのロイ選手は185cmと身長が低いし、ハンドリングも今一つだなぁ。ピック&ロールしたときにダブルチームでプレッシャーかけられて、ターンオーバーになるシーンが多いよ」
「アーヴェルのピック&ロールは非常に強力だという前評判でしたが、ノア選手の身長とハンドリング能力があってこそだったのかもしれません・・・おっと、ベンチに動きがありました!ノア選手がコートに戻ってくるようです」
「ベンチで少し頭を冷やせたかな?35-12と20点差以上ついてしまっているけど、まだ2Qだからね。彼が戻って本来のアーヴェルのオフェンスができれば、まだまだ追い付くのも不可能ではないかもね」
「さて、ノア選手がボールを運んでオフェンスを開始しますが・・・なんと!またアイソレーションを仕掛けています!」
「こりゃ驚きだね。てっきり修正してくるかと思ったけど・・試合の勝敗は置いといて、とにかく1on1で勝ちたいのかもね。相当な負けず嫌いだ」
「細かいポンプフェイクを仕掛けていますが、東雲選手が冷静にチェックしています。おっと、緩急をつけて右ドライブで抜きにかかった!しかし東雲選手が並走!フック気味のレイアップは・・ブロックだ!東雲選手がボールを叩き落としました!」
「いやぁ、あのシュートをブロックできるのか。さすが東雲くんだね!ノア選手も一歩目の右足で踏み切ることでタイミングをずらして、かつフックでシュートを打ってと、ブロック対策はしてるんだけど・・・完全に東雲君がその上を行ったね」
「すさまじいブロックでした。ラバリアのサポーターからはもちろん、アーヴェルのサポーターからも感嘆の声がこぼれています」
「さて、次はラバリアのオフェンスだけど・・こっちもアイソレーションだ!東雲君もやる気だねぇ!」
「東雲選手が左右不規則にドリブルをしています。レッグスルーをはさみながら相手の出方を伺って・・・右から鋭いドライブを仕掛けます!そして、ストップ&ジャンプ、いやもう一度右ドライブ!ノア選手が転んだ!ダンクでフィニッシュです!」
「すさまじいドライブだ!緩急がとんでもないよ。あの身長であのクイックネスは、ちょっと見たことがないな」
「ノア選手が完全にアンクルブレイクされていました。いやはや、東雲選手がまた凄まじい、芸術的なプレイを見せてくれました」
「彼も熱が入っているよね。この1on1を楽しんでいる節があるよ」
「東雲選手は普段の試合ではダブルチームを仕掛けられることが多いですからね。会見での差別発言も影響しているとは思いますが、珍しい状況にモチベーションが上がっているのかもしれません」
「ノア選手もある意味凄いよね。ここまで負けると萎えちゃいそうだけど、まだまだアイソレーションを仕掛けるつもりみたいだ。この試合はもう、バスケの試合というよりは東雲君とノア選手の1on1を楽しむような感覚で見た方が良いのかもね」
第三Q
「さて、第三Qも序盤はノア選手が外れていましたが、後半から戻ってきました。そして、アイソレーションを仕掛けています」
「もはやここまでくるとノア選手の意地だろうね。何としても一勝はしたいっていう。二人とも1on1を楽しんでいるし、試合前のいざこざは忘れているように見えるよ」
「後半に入ってから、アーヴェルサポーターの東雲選手に対するブーイングは止まっています。逆に、ラバリアサポーターもノア選手にブーイングしなくなりましたね」
「会場全体が、二人の1on1を楽しんでいる雰囲気があるね。僕もノア選手は嫌いだけど、一度彼が点を決める瞬間も見たくなってきたよ」
「おっと、東雲選手がまたダンクを決めました。ラバリアサポーターからは大歓声が、アーヴェルのサポーターからも感心するような声が聞こえています」
「もう点差は40点以上離れているし、ラバリアの勝利で決まりだね。この試合の楽しみはもう、ノア選手が東雲選手に一度でも勝てるかどうかってところだね」
第四Q
「さて、最終Qもアイソレーションが続いています」
「東雲君が次はどんな攻めを見せくれるか・・・おっ!珍しい、東雲君のドリブルが乱れて、あ!」
「ノア選手がスティール!そのままドリブルで速攻を仕掛けます!東雲選手も全力で追いますが・・追い付けない。ノア選手、この試合初めてとなるダンクシュートを決めました!」
「いやぁ、一瞬の隙をついたね。ノア選手、めちゃくちゃ喜んでるよ」
「アーヴェルのサポーターが大歓声でノア選手を讃えています。ラバリアサポーターからも、拍手が送られています」
「ここまで、フリースローを除くと54-0で完敗だったからね。なんかもう可哀そうな感じになってたし、ここで一点でも取れたのは、アーヴェルサポーターとしては良かっただろうね」
「最後に東雲選手が3Pを決めたところで・・ブザーが鳴りました。試合終了です。松木さん、試合を振り返っていかがでしたか?」
「一言で言うと、東雲選手の圧勝だった。これに尽きるだろうね。とはいえ、相手のノア選手もクリーンなプレイをしていたし、試合自体は楽しめたかな」
「ラバリアとしても、大事なユーロリーグの初戦を勝利することができました。おっと、MVPが発表されています。当然ですが、東雲選手に決まったようです。インタビューが始まりました」
「スペイン語か・・・誰か翻訳できないの?」
「少しすれば翻訳原稿が来るはずですが、あ。ただいま到着しました。えー、『まずは、ユーロリーグの初戦、勝つことができてとてもうれしいです。ラバリアサポーターの皆さんが応援してくれたおかげで、敵地でも安心してプレイできました。ありがとうございます。事前会見でのノア選手の発言は、謝罪があるまで許すことはできませんが、ガッツがある選手だったので1on1は楽しかったです。次の試合も1on1がしたいなら、挑戦は受けます』」
「いやー、しっかりしたコメントだねぇ。ラバリアサポーターが嬉しそうにしてるよ。大きな拍手でたたえているね。あと、ノア選手の扱いについても、人間ができているというか、流石だよね」
「ノア選手にもインタビューが行われています。原稿が来るかな?・・あ、来ました。読み上げます。『まずは、事前会見での差別的な発言について、謝罪します。申し訳ありませんでした。そして、1on1で負け続けてしまったことを、アーヴェルのサポーターに謝罪します。次の試合では勝ちます!おい、そこのジャパニーズ!首を洗って待ってろよ!』」
「あっはっは!次の試合でも1on1をやる気みたいだねぇ。アーヴェルの監督が頭を抱えているよ」
「東雲選手が手を挙げて応えています。次の試合も変則的な形になりそうですね」
「そうだね。いやぁ、ノア選手は相変わらず口が悪いし、まだまだ若いねぇ。ま、彼はまだ19歳で、10歳から16歳まではスラム街で賭けバスケをしながら生計を立てていたらしいから、口が悪いのはある程度しょうがないかもね。差別用語は絶対使っちゃだめだけど」
「東雲選手が大人な対応を見せたことで、事前会見の問題は収まりそうですね」
「東雲君は人間ができているよねぇ。まだ16歳でノア選手より三つも下なはずなんだけどね・・・全然そうは見えないよ」
「さて、ここで放送終了の時間が来てしまいました。三日後の試合も、我々二人の実況解説で、TV中継いたします。ご視聴、ありがとうございました」
「ありがとうございました。三日後が楽しみだね」
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