16歳-10 強化試合 vsオーストラリア

日本代表VSオーストラリア代表 強化試合 TV中継


佐々木アナ: 「さあ、いよいよオーストラリアとの試合が始まります。オーストラリアはFIBAランク9位の強豪です。日本は現在29位ですので、格上との勝負ということになります。解説はアジア選手権に引き続き松木さんです。松木さん、オーストラリアチームの印象はいかがですか?」


松木: 「オーストラリアは昔から強豪だから層も厚いし、サイズもスピードもあって隙がないよね。ただ、インサイド主体のチームだから、今の日本代表には勝ち目アリだと見ているね。今日は東雲君が居るし」


「そうなんです!今日はリーガABCのシーズン中ではありますが、東雲君が代表に参加してくれています。アジア選手権の中国戦でもヤーマン選手と互角に渡り合っていましたから、インサイドの支配力には大きな期待ができます。さて、今日のスターティングラインナップを画面に示しております」


PG 171cm 斎藤   VS  184cm イーサン

SG 184cm 伊藤(弟)VS  196m オリバー

SF 189cm 伊藤(兄)VS  199cm ウィリアム

PF 203cm 田中   VS  209cm トーマス

C 224cm 東雲   VS  216cm アンドレ


「松木さん、オーストラリアはやはり身長が高い選手が多いですね」


「そうだね。でもまぁ中国ほどではないし、アジア選手権で見た通りインサイドのリバウンドとディフェンスは東雲君がカバーできるからね。そこまで悲観的になる必要はないと思うよ。問題はオフェンスだけど、インサイドでの東雲君の得点はもちろんとして、伊藤兄弟の3Pシュートにも期待したいね。」


「伊藤兄弟はBリーグの試合では大活躍中で、今シーズン40%以上の3P成功率を誇っていますからね。この試合でも期待したいところです。そんなオーストラリアとの強化試合ですが、間もなく試合が始まります‥‥さぁ始まりました!まずは、ジャンプボールを日本が制しています」


「東雲君の瞬発力は凄いねぇ。斎藤選手がボールを運んで・・お、さっそくポストにいる東雲選手にボールが入ったね」


「さぁ、東雲選手がボールキープしている間に、ほかの選手は動き続けます。スクリーンで伊藤兄がフリーになりそうだが・・おっと!東雲選手がアンドレ選手をロールでかわしてダンクを決めました!鮮やかなプレイです」


「いいプレイだったね!東雲くん以外の選手がオフボールで動き回れば、ヘルプディフェンスに行きにくくなるからね。その間に東雲くんは1on1で確実に点が取れるってわけだね」


「そうですね。いやしかし、相手のアンドレ選手もDFとリバウンド力を買われて一時NBAでもプレイしたほどの選手ですから、簡単な相手ではありません。東雲選手の技術が光りました」


「次はディフェンスだね。ポストのアンドレ選手にボールが入ったけど、東雲選手がいいDFをしてるね。あれではゴールに近づけないよ」


「困ったアンドレ選手がたまらずPGにボールを返します。そしてやや強引な態勢で3Pシュートを打ちますが・・・外れました!東雲選手がリバウンドを取っています」


「いやー、ジャンプが高いね。アンドレ選手も非常に背が高い選手だけど、東雲選手の方が40cmくらい上にいたよ」


「斎藤選手がボールを運んで、再びポストの東雲選手にボールが入ります。田中選手が伊藤兄にスクリーンをかけ、コーナーでフリーになりそうです、おおっと!東雲選手からレーザーのようなノールックパスが供給される!伊藤兄がゆっくりとシュートを打って・・入りました。これで5-0です。」


「すごいパスだったね、今のは。片手でボールをつかんで後ろに放り投げてたよ。ハンドボールじゃないんだから」


「東雲選手が持つとボールが小さく見えますね。さて、日本代表の立ち上がりは上々です。このまま良いペースで試合を進めたいですね」




「さて、前半も残すところ1分となりました。ここまでのスコアは58-35で日本代表が大幅なリードを獲得しています。」


「いやー、この日本代表は強いねぇ。インサイドは東雲君が支配できてるし、ゲームメイクもうまいから伊藤兄弟がフリーで3Pを打てている。東雲君のパスが手元にバシッと決まるからシュート打ちやすいのか、伊藤兄弟は3Pを6割以上決めてるよ。外しても東雲君や田中君がオフェンスリバウンド取ることも多いし、高効率で得点を重ねてるね」


「格上との勝負という前情報で始まりましたが、逆に相手を圧倒する試合運びになっていますね。残り三秒、イーサン選手が投げやりな3Pシュートを放って・・おっと、入ってしまいました。これは運が悪かったですね。前半は58-38の20点差で終わりました。」


「うん、まあ運が悪かったけど、それでも20点差があるからね。問題ないでしょう」


「松木さん、前半は日本代表が圧倒しましたが、逆に後半に向けての懸念点などはありますか?」


「うーん・・・なにかあるかなぁ?強いて言えば相手がオールコートディフェンスで来た時、ちょっと危なかったよね。斎藤君がスティールされちゃったし。でも、東雲君が斎藤君の前でDFの邪魔しながらボール運びするようになったら、全く取られないようになったしなぁ」


「そうですね。ひょっとすると、今日はこのまま圧勝できるかもしれません。欧米の強豪を相手に勝利するのは20年ぶりになるようですが・・・え!?」


「ん?どうしたんだい?」


「えー、非常に重大な懸念点が出てきました。たった今もたらされた情報によると・・









・ハーフタイム終了間際 日本代表ベンチ


山田コーチの作戦指示が終わり、試合再開のブザーが鳴った。


「それじゃあ昨日打合せした通り、3Qは東雲抜きで行くからな!田中はアンドレを全力で止めるように!多少ファールになってもいいから全力で腕を伸ばせ!伊藤兄弟は斎藤のボール運びを手伝ってくれ!このクオーターが正念場だ!絶対に点差を詰められないようにするぞ!」


「「「「「はいっ!!」」」」」


俺を除いたスタメンの4人とPFの竹中選手が、コーチの最後の指示に力強く返事をした。そして、コートへと走っていく。


・・・大丈夫かなぁ?

不安だが、このクオーターは彼らに任せるしかないからな。

全力で応援しよう。


さて、なぜ俺が3Q出場できないのかというと、ラバリアから30分のプレイタイム制限がかけられたからだ。

NBA選手が国際試合に出るとき、怪我防止のためにかけられるお決まりのやつである。


二日前くらいまではそんな話全然なかったのだが、ユーロリーグに参加できることが決まって、ラバリアのフロントが日和ったらしい。

昨日の夜にいきなり電話でプレイタイム制限を告げられたのである。

その時の山田コーチの慌てようたるや、すごかったからな。

数分呆然とした後に、ボードに作戦を書いては消しを繰り返していた。

まあ気持ちはわかる。


とはいえ、そもそもリーグ中に強化試合に参加できている時点でかなりの特例措置だからな。

文句は言えない。


「いやぁ・・・大丈夫かなぁ?」


どうやら山田コーチも不安に思っているようだ。

俺と同じ感想を口にした。


「うーん、アンドレと勇太のマッチアップがまずしんどいですよね。身長と体重で圧倒されていますし。ゲームメイクも、今のメンバーだとうまくいくかどうか」


今回召集された日本代表メンバーは、俺がインサイドでゲームメイクすることを前提に選ばれているからな。

その辺りが得意な選手がいないのである。

普通は俺が怪我したときのことを考えて、控えにゲームメイク得意な選手を連れてくるのが定石だが・・・山田コーチは「東雲は怪我せんだろう」ってことでその辺りをすっ飛ばしたらしい。

完全にそれが裏目に出た形だ。


「まさかこんなことになるとはな・・・まぁ良い。ポジティブに考えれば東雲が怪我したときの練習と考えればいいんだ。限りなく薄い可能性ではあるが、ワールドカップでそうならないとも言い切れない・・・いや、やっぱお前が怪我するとは思えないが」


山田コーチがこちらを見ながらそんな事を言ってきた。

俺の頑丈さに対する信頼がすごいな、この人。


「怪我は殆ど経験ないですけど、ハッスルしすぎてファウルアウトとかはあり得ますからね。昨シーズンもラバリアで一回やりましたし」


昨シーズンの終わり際、レアロの本拠地で完全なホーム笛だったとはいえ、一度だけファウルアウトしてしまったのだ。

苦い経験である。


「そうか。シーズン通して一回ならそちらの線も薄そうだが、まあ無いわけではないか。その練習と思おう、ああ!」


突如悲痛な叫び声をあげる山田コーチ。

コートに目を戻すと、アンドレがゴールリングにぶら下がっていた。

どうやらダンクを決められたようだ。


しかも、勇太が手を上げていてフリースローコールってことは、ファウルしても止めきれなくて3点プレイになっちゃったのか。

これは痛いなぁ。


「うーむ、アンドレが強すぎるな」


険しい表情で頭を押さえる山田コーチ。


「勇太との身長差が10cm以上ありますからね。体重差は40kgくらいありそうですし」


俺でも全力で押し合いしないと止められないくらいだったからな。

フィジカルがめちゃくちゃ強い、良い選手だ。



その後も、相手はアンドレ選手を中心にインサイドで得点を重ねてきた。

対する日本代表は、完全に攻めあぐねている形だ。

斎藤選手が頑張ってゲームメイクをしようとしているが、相手DFのプレッシャーがすごすぎてうまくいっていない。

イーサン選手がここぞとばかりにDF強度を上げている。


伊藤兄弟が強引に3Pを打つ場面もあるが、相手DFが振り切れていないので殆ど入らない。たまにブロックもされている。

そして、外れた時のオフェンスリバウンドを全く取れていない。


どんどんと点差が縮まっていき、前半に作った貯金がなくなっていく。

あぁ^~貯金がどんどん溶けるんじゃぁ^~

前世で大学生の時にやったFXくらいの勢いで貯金が溶けている。

やばいなこれ。

ついに62-56。

6点差まで迫ってきた。


「試合が止まらないから全然タイムアウト取れないな・・・いや、取れても指示しようがないぞこれ。これどうすれば良いと思う?」


山田コーチが厳しい表情をつくり、頭を押さえながら俺に尋ねてきた。


「うーん。アンドレはもう止められないので、DFはある程度捨てるしかないかもしれないですね。オフェンスは・・捨てるしかないかぁ?」


「いや、それじゃ勝ち目ないだろ」


真面目な表情でツッコミをいれてくる山田コーチ。

余裕がなさそうである。


まじかぁ。

俺が抜けるだけでここまで崩壊するとは。

ざまぁ系小説みたいだ。

【最強のバスケ選手~プレイタイム制限だからとスタメンを追放されたけど、相手が無双しています!スタメンに戻れと言われてももう遅い!】


いや、もう遅いじゃないんだよ。

出たいんだよ、俺は試合に。



その後、タイムアウトを取ってオフェンスを勇太中心になるように少し修正したものの、点差が徐々に詰まっていきついに逆転されてしまった。

そして悪い流れは続き、3Qが終わるころには65-75と10点差をつけられてしまった。

このクオーターだけで7-37のランをされてしまった。

あと10分で10点差、逆転できるかギリギリのところだな。


「アンドレ選手めちゃくちゃ強い!全然止められん!」


息を切らしながらベンチにやってきた勇太が、座りながら嘆く。


「パワーがとんでもないからな、技術もあるし。」


流石は元NBA選手である。

ヤーマン選手ほどではないとはいえ、あの身長の選手を203cmの勇太が止めるのはしんどいだろう。


「悔しいが、俺には止められんからな。4Qは任せたぞ!」


「おう。前半と同じ流れで行けば勝てるはずだ!」


俺はそう言って周りを見渡すが、伊藤兄弟も斎藤選手も疲れ切った表情をしている。

斎藤選手は控えPGの磯貝選手に代わるみたいだから大丈夫だが・・・伊藤兄弟には復活してほしいところだ。

逆転には3Pシュートが必要になるからな。


「作戦だが、前半と同じで行くぞ!ただ、伊藤兄弟の疲労がたまっているから、東雲の1on1を多めにしてくれ。3Pを打っても構わん」


山田コーチが指示を飛ばしてくる。

この状況なら仕方あるまい。

アンドレはDFも上手いので割と厳しいが、何とかするしかないだろう。



休憩終了のブザーが鳴った。

疲れた伊藤兄弟、勇太と共にコートに戻る。


こちらのスローインからスタートだ。

磯貝選手にボールを渡して運んでもらう。

ボール運びができる磯貝選手が控えにいるのはありがたいな。


ポストに入ると、アンドレ選手がぴったりとついてきた。

どうやら、まだ疲れていないようだ。


アンドレ選手を背にした状態で、磯貝選手からボールをもらう。

俺は直ぐにフェイダウェイ気味のシュートを放つ。

虚を突かれた表情のアンドレ選手を尻目に、ボールはリングに当たることなくネットを揺らした。

今迄にないパターンだったからか、反応できなかったようだ。


「ナイッシュ!東雲!」


磯貝選手が俺の背中を叩いてきた。


「点差がありますからね、急いで取り返しましょう!」


俺はそう返事を返すと、DFのためにインサイドに入る。

相手のオフェンスが始まるが、ゆっくりとガード陣でボールを回している。

くそっ!

どうやら、最大限時間を使って攻めてくるようだ。


ポストのアンドレにボールが入る。

アンドレはそのままフェイダウェイでシュートを打ってきたので、大きくジャンプしてブロックした。

真似で得点は取らせねぇよ!


ボールが磯貝選手のもとに転がっていく。

チャンスだ!

俺は軽く前を指さして、全力で走った。

磯貝選手からロングパスが供給される。

俺はボールを受け取ると、そのままジャンプしてリングに叩き込んだ。


「スラムダンクだ!!」

「ウォー!ナイッシュ!」

「東雲君!そのまま20点取ってくれ!」


日本サポーターから今日一の声援が届く。

異国の地で、赤色のユニフォームを着たファンたちが声を上げて応援してくれている。

この声援がチームの活力になるよな。


声援のおかげもあり、スタジアムの雰囲気が日本側に傾いていてきた。

これで6点差だ。

まだまだ巻き返せる。

俺はすぐに相手コートへと戻り、ディフェンスに備えた。





その後も俺はインサイドで得点を重ねたが、相手がヘルプディフェンスを多用してきたので、オフェンスがやりづらくなった。

フリーの伊藤兄弟や勇太にパスを出すのだが、疲労からかシュートの決定率が悪い。

それでも徐々に点差を詰めていき、試合終了35秒前で83-85。

2点差まで縮めることができた。


相手のオフェンスが始まった。

ここが正念場だ。

あと一本シュートを決められると、正攻法では勝ち目がなくなる。

何としても守り抜く必要がある。


スタジアムに緊迫した空気が走る。

相手はガード陣でボールを回してきた。

時間を使って攻めてくるようだ。


「スリー警戒!」


俺は声を張って作戦を伝える。

2点もまずいが、スリーポイントを決められると負けが確定する。

何としても死守だ。


その時、イーサンのシュートフェイクに釣られて伊藤兄がジャンプした。

すかさずイーサンがドライブしてくる。

俺はヘルプに行き、シュートチェックのために手を上げた。


「アンドレ!」


イーサンは狙いすましたかのように、アンドレにアリウープパスを供給しようとする。

だが、俺はこれを待っていた!


俺は全力でジャンプし、高く投げられたパスをはたきおとした。

ボールが前にはじき出される。


「渡すか!!」


勇太がボールに飛び込んでいった。

相手DFがそれに殺到する中、俺は自陣に向かって走り出していた。


「頼む!」


倒れた状態の勇太が、ボールを前に投げてきた。

勇太とは何回も練習してきたシチュエーションだ。

あいつが忘れるはずがない。


俺はボールを受け取ると、ドリブルでボールを運んだ。

自陣のゴール前には伊藤弟と相手SFがいる。

2対1の状況だ。

ダンクに行くか?

いや、延長戦はまずい。ここは勝負だ!


俺は3Pライン付近にきて減速すると、そのままジャンプシュートを放った。


頼む!

入れ!


呼吸が止まる。

スタジアムが静寂に包まれる。

そして、俺が放ったシュートは綺麗な回転を見せながら、リングへと吸い込まれていった。


「最高だ!やりやがった!!!」

「シノノメ!!」

「お前がナンバーワンだ!」

「よっしゃー!!」


日本サポーターが声を枯らして声援を送ってくれる。

スタジアムには怒号のような歓声が降り注いだ。


「まだだ!ここを止めるぞ!」


試合はまだ3秒ある!

俺はDFに戻りながら声を張った。


相手SFはすぐにイーサンにボールを投げると、イーサンがロングシュートを放つ。


思わず、前半終了間際のシュートが頭をよぎった。

しかし、今回のシュートはリングに届かず、試合終了を告げるブザーが鳴った。


「やったな!!」

「よく決めた!」


ブザーが鳴りやまないうちから、磯貝選手と勇太が駆け寄ってきた。

ハイタッチをして、お互いをたたえあう。

伊藤兄弟や斎藤選手もやってきて、俺の背中を叩いてきた。



前半は楽勝かと思ったが、思わぬ苦戦をしてしまったな。

しかし、まぁ強化試合でこのチームの問題点が露呈したのは、良い事だったのかもしれん。


俺が歓声の響き渡るコートの上でそんなことを考えていると、アンドレ選手がこちらにやってきた。

腕を差し出してきたので、握手を交わした。


『いい試合だったが、負けたよ。個人としては完敗だ。ダイはなんでNBAに行かないんだ?』


アンドレ選手が英語で問いかけてきた。


『年齢制限がな・・いずれ行くさ』


俺はそう返して、日本代表のベンチへと戻っていった。

タフな試合だったぜ・・・


ワールドカップに向けた課題は色々見つかってしまったが、今日だけは祝杯を挙げてもいいだろう。

俺は肩を組んで嬉しそうにしているチームメイト達に、山田コーチの名前で祝勝会の予約をしていることを伝えた。

大盛り上がりする選手たち(山田コーチを除く)。


今日は最高級レストランで贅を尽くした祝勝会だ!

夜が明けるまで祝杯を挙げるぞ!!!



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