16歳-1 オフシーズン
さて、8月になった。待ちに待ったオフシーズンである。
プレイオフでは惜しくもレアロに負けてしまい悔しさが残るが…仕方がない。
練習を重ねて、来シーズンでは雪辱を果たそう。
来シーズンの優勝に向けては、選手の補強も必要になるな。
今季もルーカスがいればプレイオフを勝ち抜けた気がするし、やはり控えメンバーは重要だ。
セバスチャンに聞いたら『俺に全て任せておけ!』というやけに力強い回答が返ってきたのでまぁ大丈夫だろう。
多分な。
ちなみに、ラバリアの人気は絶好調だ。
俺もPGとして活躍できたので、パロマ島ではヒーロー扱いを受けるようになった。
どこへ行っても握手や肩車や写真をねだられる。
ホームタウンに受け入れられたことを実感できて、嬉しい限りだ。
さらに、スポーツドリンクのCMが放映されたこともあり、島外での知名度もうなぎのぼりだ。
さらにさらに、スポーツメーカーのAbibasがスポンサーを名乗り出てくれたので、バッシュやウェアなどを提供してもらえた。
いよいよ、バスケ業界にも注目されてきたって感じだ。
このスポンサー契約のお金とかCMの出演料など、合わせて数千万のお金がドカッと入ってきた。
これで大金持ちの仲間入りである。
やったぜ!
施設に追加で送金しようかとも思ったが、前送ったお金を院長が投資で増やしたらしく、施設のみんなは不自由してないらしい。
つまり、自分のために気兼ねなく使える金ができたという訳だ。
こりゃもう豪遊するしかないじゃん?
ルーカスやアントニオとマカオへ行って遊びつくすぞ!!
…そう思っていた時期が私にもありました。
俺は今、なぜかとある島の体育館に居る。
気温35度、湿度80%、たまに毒を持っていそうな蛇や蜘蛛が出てくる、最悪の環境である。
そして携帯電話を見ると、ルーカスやアントニオがマカオのカジノや巨大プールで遊んでいる様子が送られてくる‥‥許すまじ。
そもそもなぜこんなことになっているのか。
話は数日前に遡る。
オフシーズンに入ったのを記念して、島で一番大きいホテルのスイートルームに泊まっていた時だ。
夜中10時頃、突然スマホが鳴り響き、画面には「山田コーチ」の名前が表示されていた。
俺は嫌な予感がしつつも、その電話を取った。
取ってしまった。
「もしもし、東雲です。」
「おう、大!山田だ。元気か?」
「ええ、元気です。どうしたんですか、こんなに急に?」
「それなんだが‥‥ちなみに、今週は忙しいか?」
「‥‥…ええ、めちゃくちゃ忙しいですね。多忙なビジネスマンでもここまではいかんだろうというくらいには忙しいです」
「ほう、ちなみにどんな予定が入ってるんだ?」
「まぁ、少しビジネスを。レーティングを見てお金を増やすというか、要は株取引みたいなものですね。俺もAbibasとのスポンサー契約なんかでお金が増えて、管理が大変なんですよ」
「そうか……ちなみに、マカオのカジノは18歳以上じゃないと入れないぞ」
「ええ!?そうなんですか!?」
「…」
「…」
「…」
「いや、違うんですよ」
「予定はないってことだな。じゃあ飛行機のチケットを送るから、現地で会おう」
ということで、俺は今フィリピンのマニラにある体育館で練習に参加している。
この練習の正式名称は、アジア選手権に向けたバスケ日本代表強化合宿だ。
来たる9月、カタールでFIBAのアジア選手権が開催される。
山田コーチには、ここで日本代表初の優勝を果たしたいという強い意志があるらしい。
だが正直なところ、俺のやる気は全然上がらない。
なぜなら、来年のFIBAワールドカップは日本が開催国なので、このアジア選手権で負けてもワールドカップには出場できるのだ。
「なんでわざわざ貴重なオフシーズンに、あんまり意味のない大会で全力バスケをやらにゃならんのだ…」
モチベーションが上がらない…
とはいえ、まぁ負けるのも悔しいし、やるかぁ。
アジア選手権の優勝候補は中国だ。
中国のエースである現役NBA選手のヤーマンは、身長230cm、体重140kgオーバーの大巨人である。
俺の身長が現在223cmなので、7cmも高い相手ということになる。
とんでもないな。ていうか、居たのか俺より高い選手。
今はこのヤーマン選手のディフェンスをポストプレイで突破する練習をしている。
とはいえ、そんな高身長選手は日本にいない(二番目に高い人で202cmしかない)ので、山田コーチが大きなマットレスを掲げてディフェンスしている。
高さは出るのだが、山田コーチはマットレスで顔が隠れてしまうため、こちらの動きがあまり見えていない。
俺の動きについてこれず、右往左往している。
…意味あんのかこれ?
「…意味あんのかそれ?」
淡々と練習をこなしていると、俺の心の声と同じ言葉が聞こえてきた。
声のする方向を見ると、田中勇太がボストンバッグをぶら下げながら歩いてきていた。
「山田コーチ直伝の方法だぞ。文句あるならコーチ言え」
「ははっ!山田コーチはたまにおかしなことやるよな!!」
勇太が爆笑しながらこちらへ歩いてくる。
そして勇太が俺の隣まで来た瞬間、山田コーチがマットレスを降ろして顔を見せた。
「げえっ!コーチ!!…いやー、これよく考えたら素晴らしい練習法な気が
勇太が取り繕ったようなフォローを入れようとしていたが、山田コーチに首根っこをつかまれて体育館裏へと連行されていった。
…あれはマラソン10kmコースだな。
「唯一の知り合いがいなくなってしまったな」
全代表はU15やU18と違って、20歳オーバーのベテランが多い。
本練習は明後日からなので全員そろっているわけではないが、体育館内にいる12人の全員が初対面だ。
周りを見渡すと、1on1の練習をしている選手やシューティング練習をしている選手などがいる。
「…俺もシューティングするか」
とりあえず、山田コーチが返ってくるまでシューティングすることにした。
他の選手に話しかけるなりしてコミュニケーション取った方が良い気もするが、なんか妙に距離を置かれていて難しいんだよな。
そういえば、日本では俺の報道とかされているんだろうか?
ニュース27 「バスケ日本代表特集」
司会進行:五十嵐アナウンサー
ゲスト:後藤(バスケ元日本代表)、熊本(ご意見番)
五十嵐アナウンサー:「皆さん、おはようございます。今朝のスポーツコーナーでは、9月に開催されるFIBAアジア選手権について特集します。注目の選手やチームについて詳しくお話を伺います。ゲストは元日本代表の後藤さんと、ご意見番、熊本さんです。お二人とも、よろしくお願いします。」
後藤さん:「よろしくお願いします。」
熊本さん:「どうも、よろしく。」
五十嵐アナウンサー:「さて、まずは今回のアジア選手権についてですが、日本代表として初の優勝を目指していると聞いています。後藤さん、この大会の重要性についてどう思われますか?」
後藤さん:「そうですね、アジア選手権は日本にとって非常に重要な大会です。特に、来年のFIBAワールドカップは日本で開催されるので、この大会での成果がそのままワールドカップでの自信に繋がります。ただし、今回のアジア選手権で負けてもワールドカップには出場できてしまうので、少し複雑な状況ですね。選手の中には、モチベーションが上がらない人もいるでしょう」
熊本さん:「喝だ!喝!!」
後藤さん:「早くないですか!?まだ本題に入ってないですよ?」
五十嵐アナウンサー:「それでは、アジア選手権の注目選手についてお話ししましょう。まずは、中国のヤーマン選手です。現役NBA選手で、身長230cm、体重140kgオーバーの大巨人。後藤さん、彼の強さについてどう思われますか?」
後藤さん:「ヤーマンは圧倒的なフィジカルの持ち主で、ポストプレイが非常に強いです。彼を止めるのは容易ではありません。彼をどう抑えるかが、日本の選手にとっての大きな課題になるでしょう。」
熊本さん:「確かにそうだが、大きすぎて動きが遅いんじゃないの?」
五十嵐アナウンサー:「そして、日本の注目選手は東雲大選手。現在223cmの身長を誇り、最近の試合でも驚異的なパフォーマンスを見せています。後藤さん、東雲選手についてはどうですか?」
後藤さん:「東雲選手は本当に特別な才能を持っています。正直、日本代表が中国に勝つのは当分のあいだ無理だと思っていましたが、彼がいれば不可能じゃないですよ。」
熊本さん:「そんな選手が日本に居たんだね・・・いや、私は野球以外は詳しくなくてね。東雲選手はどんな選手なの?」
五十嵐アナウンサー:「東雲選手は、ヨーロッパでもっともレベルが高いとされるバスケリーグである、ユーロABCで活躍している選手です。東雲選手とヤーマン選手を比較するためのフリップを作ってきたのでご覧ください。」
東雲大選手 VS ヤーマン選手
身長 : 223cm VS 230cm
体重 : 118kg VS 145kg
ウィングスパン : 218cm VS 228cm
垂直飛び : 108cm VS 50cm
100m走 : 12秒 VS 15秒 (想定記録)
3P : 48 % VS 記録なし
FG : 60 % VS 56 %
FT : 80 % VS 90 %
五十嵐アナウンサー:「身長や体重ではヤーマン選手に一歩及ばないですが、その他の能力は上回っているように見えます。」
後藤さん:「そうですね。体重差があるのでポストでの押し合いは負けるかもしれませんが、ジャンプ力があるのでリバウンドは互角、もしくは東雲選手が有利になると思います。外での能力は東雲選手が圧倒しているのですが、今の日本代表は小柄な選手が多いですから、彼はセンターとしてプレイすることになります。ゴール下での点の取り合いは、どちらが勝つか予想できないですね。」
熊本さん:「へー、凄い選手が居るんだなぁ。日本のスポーツしか見ないから知らなかったよ。」
後藤さん:「彼は才能だけで言えばNBAに行っててもおかしくないですからね。NBAは19歳からでないと入れないので、スペインに行ってしまいましたが」
熊本さん:「え?ってことは彼、まだ未成年なの!?」
五十嵐アナウンサー:「東雲選手は現在16歳ですね。」
熊本さん:「喝だ!喝!!」
後藤さん:「ええ!?なんでですか!?」
熊本さん:「日本代表に喝だよ!!16歳の子供に頼ってるようじゃ、世界と戦えんだろう!」
後藤さん:「ああ、日本代表にでしたか。いや、まぁ確かに子供に頼る形にはなり不甲斐ないところではありますが、彼なしでは中国なんかの強国とは戦えないですからね。僕は逆に年齢を度外視して彼を招集した、日本代表のコーチにあっぱれをあげたいですよ」
五十嵐アナウンサー:「喝もあっぱれも両方出て、盛り上がってまいりました。…あ、そろそろコーナーがお時間のようです。最後に、アジア選手権への期待についてお聞かせください。後藤さん、どんな結果を予想されていますか?」
後藤さん:「日本が初の優勝を目指す中で、中国は強敵ですが、東雲選手を中心に戦えば十分に勝機はあります。あとは周りの選手たちがどれだけ力を発揮できるかが鍵ですね。」
熊本さん:「やはりチームスポーツというのは個々の力だけでなく、チーム全体の連携が重要だからね。大人たちの活躍と、これからの合同練習での連携力アップに期待したいね。」
五十嵐アナウンサー:「ありがとうございます。アジア選手権が待ち遠しいですね。本日は後藤さん、熊本さん、ありがとうございました。」
後藤さん:「ありがとうございました。」
熊本さん:「どうも、ありがとうございました。」
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