15歳-8 間話 地元の反応

・9歳 レオの一日


なんの特徴もない、つまらない島。


これが、パルマ島に9年間住んだ俺の感想だ。


この島には大自然の絶景や城や教会があり、観光客もそこそこいる。

だが、テーマパークや繫華街といった盛り上がる場所が全くない。


右を向いても左を向いても絶景だらけ。

しつこいほどの絶景だ。

ありがたみも薄れてくる。



そんなこの島で楽しいことと言えば、スポーツをすることだ。

空地と子供が多いので、ストリートサッカーとストリートバスケがそこら中で勃発している。


俺も3年前から、近所の友達に誘われてストリートバスケを始めた。

これがめちゃくちゃ面白い。


シュートがきれいに入ったときの気持ちよさ、ドリブルで相手を抜いた時の爽快感。

俺はとりこになった。


来る日も来る日もバスケに明け暮れ、バスケ中心の生活だ。


お陰で1on1の強さは地元一になった。

流石に大人には負けるが、同年代で俺に勝てるやつはいない。

友達からは羨望のまなざしだ。


しかし、そんな俺の天下も長くは続かなかった。

皆が、バスケスクールに通い始めたのだ。


どうやら、最近地元バスケチームであるラバリアが強くなり、バスケ熱が高まっているとか。

それで大量のバスケスクールが出来たらしい。


友人たちはみな、バスケスクールで新しい技術を身に着けてくる。

効果的なシュートフェイクの入れ方から、クロスオーバーステップ、ユーロステップのやり方。

スクリーンを利用したオフェンスなどなど。


どれもストリートバスケじゃやってこなかった技だ。

俺は対応できずに、右往左往する羽目になった。

最近は1on1の勝率もめっきり落ちてきている。


俺もバスケスクールに入りたいのだが、我が家には金がない。

父ちゃんは俺が生まれてすぐ亡くなったらしくて、うちは母ちゃんと二人暮らしだ。


母ちゃんはレストランでまじめに働いているが、給料は良くないんだとか。

といっても母ちゃんは優しいし、料理は美味く話も面白い。

自慢の母ちゃんではあるのだ。


しかし、お金に関しては期待できない。

なまじ優しいから、俺がバスケスクールに入りたいと言えば、無理に仕事を入れて体を壊すかもしれない。

そんなのは嫌だ。


だから俺は、自作のバスケシューズと友達に貰ったバスケットボールで、ひたすら練習をしている。

と言っても、友達がバスケスクールに行ってるから、最近はシュート練習とドリブル練習しか出来ていないけど。



「つまんないな・・・」



愚痴をこぼしながらシュートを打つと、リングに当たって弾かれた。


転々と転がっていくバスケットボール。

その先にはとんでもなくデカい男がいた。


いや、デカすぎるだろ…

周りの木と同じ背丈だ。

220cmはあるぞ。


あと、顔がかっこ良すぎる。

何だあの顔は。

眼と髪の色からしてアジア人だが、ハリウッドスターのような顔つきをしている。

アジア人は顔が平たいとテレビで言っていたが、あれは嘘だったのか?


「坊主、ドリブル上手いな」


俺が驚愕していると、巨人が話しかけてきた。

どうやら、少し前から見ていたらしい。


「まあね。でも、ボールなんて地面にたたきつければ、手に吸い付いてくるんだ。こんなの誰にでも出来るよ」


そう言い返すと、巨人は驚いた表情をしている。


「そうか・・・坊主、それは得難い才能だ」


そう言うと、巨人は俺の足元を見てきた。


う・・・恥ずかしい。

最近は激しい動きが多いからか、自作のバスケシューズがすぐボロボロになる。

かっこ悪いんだよな。


「坊主、サイン欲しくないか?」


巨人は唐突に変なことを言ってきた。


サイン?

・・ってことはこの巨人、スポーツ選手なのか?


そういえば、少し前にテレビで巨大なアジア人がラバリアに加入したとか言ってた気がする。

巨大なアジア人、目の前の人物にぴったり当てはまる言葉だ。

なるほど、巨人はバスケ選手だったのか。


とはいえ、俺はプロバスケ選手にあまり興味はない。

バスケは見るより、実際にやるほうが楽しいのだ。


「まあ待て、今書いてやろう」


俺がどう断ろうかと迷っていると、巨人は勝手にサインを書き始めた。

いや・・・いらないのだが。


「さて、二枚サインをやろう。一つは家に飾っておけばいい。もう一つは売り払って、その金でバッシュを買うんだ」


そう言って、巨人は色紙を二枚手渡してきた。

なるほど、売るという発想はなかったな。


本人が良いと言ってることだし、一枚は近所の質屋に売るか。


「サンキュー、兄ちゃん。バスケ見るときは応援するよ、何て名前なんだ?」


「ダイだ。じゃあな坊主」


ダイはそう言うと、俺の頭を乱暴に撫でて去っていった。


後ろ姿を見つめていたが、なかなか小さくならない。

いやいやいや、改めてデカすぎるでしょ。

プロバスケ選手になるには、あれくらいの身長がいるのかな?


「・・・まあいいや、とりあえず質屋へ行こう」


近所の質屋はまだ空いているはずだ。


俺はバスケットボールと一枚の色紙を家において、質屋へと走った。










・58歳 ウゴの一日


ドアが開き、ベルが小さく鳴る。

顔を上げると、目の前に一人の少年が立っておった。


たしか、近所に住むレオじゃな。

たまに金に困った母親と一緒に服や食器を売りに来るから、なんとなく覚えておる。


レオの手には、乱雑に掴まれた一枚のサイン色紙があった。


「いらっしゃい、レオ。今日は何を持ってきたんじゃ?」


ワシは母親が隣にいないことを疑問に思いながらも、親しげに声をかけてやった。


すると、レオは自信なさげな表情で

「これ、売りたいんですけど・・・売れますかね?」

とサイン色紙を差し出してきた。


そこに書かれたサインを見て目を見張った。


「こりゃ、ラバリアのシノノメ・ダイ選手のサインじゃないか!」


ダイ選手と言えば、今やこの島一番のスター選手である。

そして、彼はサインをしないことで有名だ。

ファンサービスはやたら良いのにサインだけしないから、スペイン語が書けないんじゃないかと言われていたが‥‥


ん?

これ、本物じゃろうか?

一瞬疑うが、サインの右下にある赤色のジャパニーズハンコを見て考え直した。

これは前にテレビで見たものと全く同じじゃ。

複雑な模様でスペインの加工技術ではなかなか再現できないとか言われていた気がするの。


顔を上げてレオの方を見ると、何やら驚いた表情をしておる。

もしかすると、ダイ選手のことを知らないのかもしれんの。


「これ、どうやって手に入れたんじゃ?」


ワシがそう尋ねると、レオは少し困ったような表情で

「空き地でバスケをしてたら、一方的に貰えたんです。二枚貰って、一枚は売っていいと言ってました」

と答えた。


ふむ・・・なるほど、そういう事か。

色紙をよく見ると、ダイ選手のサインとは別に、才能ある小さなバスケットマンへという言葉が添えてある。

レオの才能に目を付けて、サインをプレゼントしたのじゃろう。


「これは売れるぞ!」


ワシは大きな商売の気配を感じて、思わずそう叫んだ。


なにせ、この島で今一番人気のあるダイ選手のサイン。

しかも彼のサインはまだ出回っていない。希少性は抜群だ。


最近、スポーツドリンクメーカーのCMに出たことで、スペイン中で人気が高まっているとも聞くしな。

バスケが上手くて高身長で、顔も絶世の美少年ときた。

売れないわけがないじゃろう。


それに、添えてある言葉も良い。

オークションに出すときに、

「このオークションの代金は才能ある小さなバスケットマンへ送られます」

と言えば、金でサインをコレクションすることになる落札者の後ろめたさもなくなる。

どころか、才能ある選手を応援した優しい人物と評されることになるのだ。

金持ちどもがこぞって欲しがるだろう。


さて、問題は買取金額をどうするかだ。

ダイ選手の人気、希少性、付加価値、将来性。

全て揃っているとなると…


「買取額じゃが、10万ユーロでどうじゃ?」


ワシがそう声をかけると、レオは目をひん剥いて驚いた。


「え!10万ユーロ!?冗談きついぜ、じいさん。それだけあればうちなら10年は生活できちまう」


レオはこのサインの希少性が分かっていないのか、そう反論してきた。


「気持ちは分かるが、嘘偽りない金額じゃ。なんなら、もっと高くても良いかもしれんが、オークションの流れが読めんからな…金額が上振れしたら、追加で金を渡そう」


ワシがそう言うと、レオは真剣な表情で悩んで

「母ちゃん呼んでくる!」

と言って店を飛び出していった。


よほど気が動転していたのか、サインをワシに預けたままである。

まぁ、ダイ選手のことを知らなければ信じられんのかもしれんな。


「さて、それじゃあ準備でもしておくかの」


レオの母親は優しい子じゃからな。

手に入ったお金を全てレオの為に使おうとするじゃろう。

となると、バスケットボールやバスケシューズを用意してやらんとなるまい。


ワシは昔の買取を思い出しながら、レオのサイズに合うシューズやボールを探し始めた。








【パルマ新聞の記事】

・人気絶頂のチームラバリア、今季の成績ふり返り


 今シーズン、ラバリアは多くの困難に直面しながらも、初のプレイオフ進出を果たすという輝かしい成果を上げました。

シーズン開始当初は負けが続き、折り返し地点で17位となり実力不足が露呈していました。ラバリアへの批判は多く、特にセバスチャン監督のBIG4システムは、全く機能していない、高さだけで勝てるほど甘くない、スピード感がまるでない、と批判殺到でした。


 しかし、そんな批判の中でセバスチャン監督は見事な補強をしました。今やリーグ一の人気選手となった日本出身の巨人、ダイ選手を獲得したのです。ダイ選手は非常に優れたゲームメイク能力を有しており、彼がPGを務めるようになってからリーグでの勝率はなんと100%、破竹の11連勝を記録しています。今シーズン、ラバリアがプレイオフに進出できたのは、間違いなくダイ選手のパフォーマンスによるものでしょう。彼のおかげでセバスチャン監督のBIG5システムが完成、ラバリアに欠けていた最後のピースが揃ったのです。

 しかし、スタメンの5人以外の選手の補強が出来ていませんでした。これによりスタメンがほぼ出ずっぱりの状態が続き、疲労となって蓄積。ルーカス選手が怪我をしてしまいます。この状態でもリーグトップのレアロと互角の戦いを繰り広げますが、惜しくも3勝4敗で敗れる結果となりました。


・セバスチャン監督の補強


 来シーズンに向けては、ルーカス選手の復帰と新たな選手の補強が必要です。特に、シックスマンとしての役割を果たせる選手が数人必要と言われていました。

 そんな中、セバスチャン監督は203cmの大型ガードであるパブロ選手と、212cmの大型センターであるエンソ選手の獲得を発表しました。来期は彼ら二人を加えたBIG7システムでリーガABCを圧倒するとの目標を掲げています。


 ファンは今シーズンのラバリアの奮闘を称え、来シーズンへの期待を膨らませています。特に、ダイ選手の活躍は、ラバリアの未来を明るく照らしているように感じます。次のシーズン、彼がどのようなプレイを見せてくれるのか、そしてラバリアがどのように成長するのか、期待せずにはいられません。


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