12歳-大巨人

12歳になり、小学6年生に進級した俺は、身長がついに200cmに達した。

ここまでくると、大人を含めても俺より背が高いやつはいなくなった。

いっぱしの巨人になれたと言っていいだろう。


それゆえに、日常生活で数々のトラブルに見舞われるようになった。

ここからは、高身長が引き起こす問題を書いていこう。




その1:頭ぶつけ問題(続)


「痛っ!またかよ…」


教室のドアの上枠に頭をぶつけるのは、もはや日常茶飯事だ。

しかも、一度だけではなく、日に何度も同じドアで頭をぶつける。

施設や小学校の友達はそのたびに爆笑している。


「東雲、もう少し気をつけろよな!」


「うるせー、これでも気をつけてるんだ!」


いい加減慣れろよと言われそうだが、前世で30年も身長が低かった経験が邪魔をして全く慣れない。

高身長の宿命だが、変わらず一番の問題である。



 

その2:デスクが小さい


学校のデスクも問題だ。

普通のデスクでは、足が収まりきらない。

膝がデスクに当たって、まるで折りたたまれたジャイアントパンダのような状態になる。


「先生、もう少し大きなデスクってないですか?」


「ごめんね、東雲君。でも、この学校にはこれしかないの。」


先生も困り顔だ。

結局、俺は膝を外側に広げて、机に被さるようにして座るしかない。


「お前、もはや机を抱いてる感じだな.あれだ,ドラゴンカーセック


不名誉なあだ名をつけてこようとした同級生がいたので、粛清した。(高い高いの刑)




その3:洋服のサイズ問題


服を買うのも一苦労だ。普通の子供服は到底サイズが合わない。

今までは院長先生のお古をもらっていたが、流石にサイズが合わなくなってきた。

院長御用達の店で特注の服を作ってもらうことになるが、その度に施設には迷惑をかけてしまう。


「またサイズがきつくなってきたな…」


「また作るから大丈夫だよぉ、最近株価が上がりに上がってウハウハだしねぇ。体がでかいのはいい事だ。かくいう私もこの高身長を活かして高校時代はそれはもうモテたんだヨ。あれは、高2のバレンダインデーの事だった、私は・・・(以降1時間に及ぶ自分語り)」


「さすがっすねー」


院長先生の自分語りを受け流す俺だったが、こんなに投資してもらうのは流石に申し訳なくなってきたな・・・


「2008年前後で株価が急落する夢を見たので、気を付けたほうが良いですよ」


未来の知識を悪用して、一言だけアドバイスを送っておいた。


 


その4:食事量の増加


そして何より、食事の量だ。

以前は8人分だったが、今では10人分の食事を軽く平らげるようになっている。


「お待たせしました!カルビ十人前ですぅ!」


「…あの店長、泣いてなかったか?」


「俺の食べっぷりに感動したんだろう」


たまに院長の奢りで焼肉食べ放題に行くが、90分ずっと食べ続けても腹が満たされないんだよなぁ。

焼肉は焼き時間のロスがあるし。


俺はひたすら食べ続ける。


ウおォン、俺は人間火力発電所。


 


その5:バスケ部でのトラブル


バスケットボール部でも、俺の身長は時々問題になる。

試合中に相手選手が驚くのはもちろん、味方からも「もう少し力をセーブしてくれ」と言われることがある。


「東雲、そんなに強くブロックしなくてもいいから!」


「すまん、つい力が入ってな…」


わざとではないが、試合中に相手選手を吹っ飛ばしてしまうこともあり、そのたびに審判から注意を受ける。


 


その6:学校の行事での困難


学校行事も問題だ。

特に、全校集会の際に体育館に全員が集まると、俺の頭3つ分が飛び出してしまう。


「おい、東雲、後ろに立ってくれないか?前の人が見えないって言ってるんだ。」


先生からも頼まれ、毎回体育館の後ろに立つ羽目になる。

RPGゲームによくある鍛冶屋で、巨大な剣が一本だけ籠の中から突き出しているような感じだ。


そう、それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた。 それは正に鉄塊だった 


 


その7:バスの座席


通学バスの座席も一苦労だ。

普通の座席では足が入りきらず、膝が前の座席にぶつかってしまう。


「東雲、足がぶつかってるよ!」


「すまんな、これでも頑張って折りたたんでいるんだが。」


結果として、俺はバスの後部座席を独占することが多い。


後部座席は足を伸ばせるので、他の生徒たちも文句は言わない。




その8:靴のサイズ


靴のサイズも問題だ。

特注の靴を作ってもらう必要があり、普通の靴屋ではサイズが合わない。


「このサイズは取り扱っていませんね…」


「じゃあ、特注でお願いします。」


既に靴のサイズは32cm。

在庫があったためしがない。

毎回、特注の靴を作るために多額の費用がかかるが、それでも足に合う靴を履けるのはありがたい。


というか、赤ちゃんポストからのスタートで中々ハードだと思っていたが、ひょっとしてこれ当たりの生まれだったのでは?

一般家庭に生まれていたら、バスケシューズも買えずに詰んでいた気がする。




その9:ベッドの長さ


寝る場所も一苦労だ。

普通のベッドでは足がはみ出してしまう。


結局、今はダブルベッドを横に二つ並べて横方向に寝ている。

施設の子は高校生になるまでは相部屋なのだが、俺は1人部屋を利用している状態だ。


「大、1人部屋はずるくね?」


「じゃあ俺と相部屋になるか?ベッドの都合上、居住スペースは7:3の割振りになるが」


「いや、俺が悪かった。何でもない」


嫉妬の声もあるが、1人部屋でも窮屈そうに過ごす俺を見てみんな納得してくれる。


ふぅ。


 


その10:映画館の座席


映画館でも問題が発生する。

後ろの人の視界を遮ってしまうことが多い。


必然的に一番後ろの座席から見ることになる。

健康〇が有るお陰か視力は2.0あるから見えるには見えるんだが、迫力が足りないんだよな…




その11:スーパーでの困難


買い物もまた一苦労だ。

スーパーの棚の高さが合わず、上の方にある商品は簡単に取れるが、下の方にある商品を取るのは難儀する。


「すみません、お兄さん、あの上の棚のもの取ってもらえませんか?」


「いいっすよー」


見知らぬ人から頼まれることもしばしばだが、問題は逆に自分が欲しいものが下の棚にあるときだ。

視界の隅にあるので全然気が付かない。


「チュパチャプスはどこだ・・・?まぁいいか、これ院長の分だし」


結果として買い物失敗率が上がる。

最近は殆ど行っていない。

(代わりに風呂掃除などの当番が増える)


 


その12:施設の掃除


施設の掃除でも、俺の身長が問題になる。

天井に手が届くので、他の子が苦労する天井の掃除や電球交換も俺の担当だ。


「新型電球に変えることになってねぇ・・大、頼むよォ!」


「はあ、まあ…」


結果、施設中の電球を1人で変えることになった。

業者かよ俺は。


と、まぁこんな感じで日常生活には不便なコトいっぱーい、なわけだ。


しかし良いこともある。


10歳までに比べると成長速度が鈍化してきたおかげで、シュートやドリブルも安定してできるようになり、自分のプレーに自信が持てるようになったのだ。


そして迎えた小学校最後の大会、県大会の決勝戦。

対戦相手は因縁の東京リバウンダーズだ。

キャプテンはあの田中勇太の弟である田中勇馬だ、185cmで長身の彼が柱のチームになっている。


そして、このチームには189cmのミャンマーから来たウェンディという助っ人選手もいる。

二人は東最強のツインタワーと呼ばれており、俺たちのチームに次ぐ優勝候補だ。


試合が始まると、両チームは互いに一歩も譲らない接戦を繰り広げた。

リバウンダーズのディフェンスは鉄壁で、なかなか得点を許さない。

しかし、俺は1人でツインタワーと渡り合い、ゴール下を制してチームを牽引した。(こちらのチームは俺を除くと172cmのPFが最高身長なので、割ときつい)


第1クォーター、俺は何度もゴール下でボールを奪い、確実に得点を重ねた。

相手のディフェンスの上から、力強いダンクシュートを決めるたびに、観客席からは歓声が上がった。


第2クォーターに入ると、東京リバウンダーズも反撃を開始した。

田中勇馬とウェンディは俺のマークをスクリーンで外し、ゴール下での得点を量産してきた。

パワーで強引にスクリーンを外せそうな気もするのだが、身長差があるので笛を吹かれやすいのだ。

しかも、今日の審判はファール判定が厳しいタイプだった。


44-44の同点で迎えた前半残り5秒、ゴール近くでボールを持った俺に勇馬とウェンディがダブルチームでプレッシャーをかけてきたが、俺はパスフェイクを一回入れた後パワードリブルで後ろに一歩下がり、そのままバックダンクを決めた。

その瞬間、会場が一瞬静まり返り、次の瞬間には大歓声が響き渡った。


ハーフタイムに入ると、チームメイトたちが興奮気味に話しかけてきた。


「大、すごいじゃないか!あのダンク!NBAみたいだったよ!」


「サンキュー。でも相手の攻撃は止められてないからな‥ディフェンスをどうするか…」


後半戦が始まると、試合はさらに激しさを増した。

俺はリバウンドとディフェンスに全力を注ぎつつ、チームメイトたちと連携プレーを強化していった。

しかし、勇馬とウェンディがゴール下で得点を量産するので差が開かない。68-68、試合は再び同点になっていた。


第三クオーターが終わってベンチに変えると、コーチは斬新な作戦を指示してきた。


「もうあの二人は止められん。しかし、こちらの大のリバウンドも止められていない・・・これから、我々のオフェンスは3P主体でいこう!」


「なるほど、大のリバウンドにかけて、ミスを覚悟で外から打つんですね・・・じゃあ、ディフェンスは?」


「諦めよう」


「オイ!」


俺がツッコミを入れたところで、休憩終わりのブザーが鳴った。

ディフェンス捨てるってマジかよ。

まぁ、やるだけやるしかないか。


第4クォーターが始まり、俺はシュートを頭から外して、ひたすらリバウンドを拾い続けた。

味方の3Pシュートが三連続で外れることもあったが、俺は三回オフェンスリバウンドを拾い、味方にパスを供給し続けた。


もちろん、勇馬とウェンディも俺をスクリーンでゴール下から押し出そうとしてきたが、ロールやフェイントを駆使して、リバウンドを拾いつづけた。


そして、1点づつ地道に点差が開いていき…


試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、俺たち品川エレファンツは勝利を手にした。


「大、やったな!」


チームメイトが喜びの声を上げる。


その日、俺は32得点、35リバウンド、7ブロックという圧倒的なスタッツを残し、東京リバウンダーズに快勝した。


試合後、勇馬が近づいてきた。


「お前、本当にすごいな。負けたよ。」


「ありがとう。でも、お前らコンビもなかなかだったぞ。」


本当に、過去一しんどい試合だった。


勇馬と握手を交わし、お互いの健闘を讃え合った。


そして、ヘロヘロの足取りでロッカールームへと戻る。


リバウンドを拾いつづけたお陰で、俺の体力はつきかけていた・・・



「生涯で最も疲れてるぜ…次の試合が明日とかだったら、動ける気がしねぇぞ」

 


そして、この2週間後に行われた全国大会、俺たちは嘘のようにボロ勝ちした(全国制覇)。

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