10歳-巨人
10歳になった俺は、ようやく巨人の仲間入りを果たした。
身長は190cmに達しており、施設の中や街中で俺より高いやつは殆どいない。
院長が188cmあったので上から説教が降ってきて癪だったのだが、ついにそれも終わりだ。
これからは下から来る説教に耐えれば良いのだ。
さて、高身長によって前世では見られなかった景色を得たおれだったが、その高さが問題になることもしばしばだった。
ある日のこと、施設の廊下を歩いているときに、事件は起こった。
「痛っ!」
俺は頭をぶつけた。ドアの上枠にだ。
こんなこと、普通の10歳児にはあり得ないが、俺には日常茶飯事だった。
そして、体格が良いのも災いしたのか、その衝撃でドアの上についていた窓ガラスが割れてしまっている。
院長の説教確定だなこれ…
「またぶつけたのか、大。」
「あっちがぶつかってきたんだよ。」
ちなみに、俺の名前は大である。
3歳になっても親が現れなかったので院長が名付けてくれたのだが・・・センスゼロだろ。
デカいから大って。
それからというもの、俺はどこに行っても頭をぶつけることに気をつけるようになった。
学校でも同じだ。
教室のドア、トイレの入り口、さらにはバスケットゴールのリングにまでぶつかることがあった。
「お前、身長が高すぎるんだ。頭が高いしな」
「身長はともかく、頭は高くはないだろ。」
「なら敬語を使え!先輩だぞ俺は!」
いきり立つ先輩には悪い気がするが、元30歳のおっさんだから子供に敬語使う気にはなれないんだよな…院長とかコーチくらい年がずっと上なら無意識に敬語が出るんだが。
しかし、問題はこれだけではなかった。
俺の食欲も異常に増加していた。
施設の食事を8人分平らげるのは当たり前のことになっていた。
「またあいつが全部食っちまうぞ!」
「成長期だからしょうがないよ、むしろ君ら食欲なさすぎじゃない?」
「そんなわけないだろ・・・お前、本当に胃袋は一つか?」
「俺の胃袋は宇宙だ。」
「フードファイターかよ。」
そんな冗談を言いながらも、俺はひたすら食べ続けた。
幸いにも、施設は食料が豊富だったので、俺の食欲にも対応できた。
バスケでは、ついに活躍できるようになってきた。
190cmという高さは、リバウンドで圧倒的なアドバンテージを持っている。
しかし、ハンドリングはいまいちだった。
「お前、またドリブル足に当たってるぞ!」
「すまんな、まだ体が追いつかないんだ。」
俺の得意技はリバウンドからのゴール下シュートだった。
リバウンドを取ったら、そのままゴール下でシュートする。
シンプルイズベスト。それが俺の戦術だった。
「よし、リバウンドだ!」
俺はいつものように空中でボールを取り着地、そのままジャンプしてシュートを決める。
敵チームのディフェンスも俺の高さには太刀打ちできない。
ゴール下でシュートを決めるたびに、チームメイトから、そして何故か相手ベンチからも歓声が上がる。
「お前、本当に10歳か?」
「たぶんな…」
相手チームの選手とは、そんな会話が日常茶飯事だ。
ここまでくると、チームメイトは俺の成長には慣れてしまっている。
施設でも同じだ。
俺の食欲には驚かされることが多かったが、それでもみんなは俺を応援してくれていた。
順風満帆に思えるが、一つ問題がある。
バスケがまだまだ下手なことだ。
前世でバスケをやっていたから分かるが、デカいだけの選手が通用するのは中学まで、高校からはそれに加えて技術が必要になる。
まぁ228cmになれば高さだけで圧倒できるかもしれないが、それも高校までだ。
NBAを見据えた場合、あのリーグの平均身長は2m超だからな、技術が絶対に必要になる。
それから俺は、ドリブルやシュートの練習にさらに力を入れるようになった。
体のバランスを取りながら、正確なミドルシュートや3Pシュートを決めるための努力を続けた。
そして、ある試合の日。
俺はついにその努力が実を結ぶ瞬間を迎えた。
「ヘイパス!」
俺は3Pラインの外でボールを受け取ると、フェイクを入れてディフェンスを躱し、そのまま華麗なジャンプシュートを放った。
そのボールは放物線を描いて飛んで行き、リングに当たることなくネットへ吸い込まれていった。
チームメイトからの歓声が上がる。
俺はその瞬間、自分が少しずつ成長していることを実感した。
「お前、外も打てるようになったのかよ!本当にすごいな!」
「サンキュー。でも、まだまだこれからだ。」
そんな会話を交わしていると、監督がタイムアウトを取った。
おっと、どうやら監督も俺の活躍をほめたたえたいらしい。
なぜか険しい顔つきの監督の元へと向かう。
「大、なぜ3Pラインの外にいたんだ。リバウンドはどうした?」
「・・・」
「交代、七番」
おかしいな。
いつになったら俺の大活躍が始まるのだろうか?
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