フロクシノーシナイヒリパイリフィケーション
白雪れもん
第1話 運命の出会い
太陽が西の空に沈みかけ、茜色に染まる街並みを見下ろしながら、小比類巻健一は帰り道を歩いていた。彼は小さな港町で生まれ育ったが、この場所にどこか息苦しさを感じていた。広い海がすぐそこにあるのに、日常は変わらず単調で、彼の心は何か別の場所を求めてさまよっていた。
港に向かう途中の坂道で、健一は見慣れない少年とすれ違った。金色の髪に目が引かれたその少年は、まるでこの町には不釣り合いな、異国の風をまとっているかのようだった。少年はそのまま通り過ぎるかと思いきや、ふいに立ち止まり、健一に声をかけた。
「君、どこに行くんだ?」
突然の呼びかけに健一は驚き、立ち止まった。振り返ると、少年は微笑んでこちらを見ていた。彼の笑顔には、どこかミステリアスなものがあり、健一の心をざわつかせた。
「家に帰るところだよ。」
健一は素っ気なく答えたが、少年はその答えに満足したようだった。
「俺は綾小路檸檬。最近、この町に引っ越してきたんだ。」
「小比類巻健一。よろしく…って、なんで声をかけてきたんだ?」
健一は、いきなり話しかけてきた理由が気になっていた。檸檬は少し考える素振りを見せ、そして再び微笑んだ。
「なんとなく、君が面白そうだと思ったんだ。」
その言葉に、健一は少し戸惑った。しかし、檸檬の言葉には不思議な力があり、その場の空気を和らげた。
「面白そうって…俺は普通の高校生だよ。特別なことなんて何もない。」
健一は半ば投げやりに言ったが、檸檬は首を横に振った。
「そうかな?君、さっき海を見てたよね?何か考え事してたんじゃないの?」
その一言に、健一の胸はドキリとした。確かに、彼は海のことを考えていた。広がる水平線の向こうに何があるのか、冒険への憧れをずっと抱いていた。しかし、それは誰にも言ったことのない心の中の秘密だった。
「…まあ、そうだね。海のことを考えてた。」
健一は素直に答えた。それを聞いた檸檬は、満足げに頷いた。
「やっぱりね。君は普通じゃないよ。俺もずっと、海の向こうに何かがあるんじゃないかって思ってたんだ。」
檸檬の言葉に、健一は驚きを隠せなかった。自分と同じようなことを考えている人間がいるとは思わなかったからだ。
「海の向こうに、何があると思う?」
健一は思わず問いかけた。檸檬は少し考え込んだ後、遠くを見つめるように言った。
「わからない。でも、何かすごいことが待ってる気がするんだ。君も、そう思わないか?」
その問いかけに、健一は答えを返すことができなかった。しかし、心の中では強く頷いていた。
その日から、二人は学校で顔を合わせるたびに話すようになった。最初は他愛もない話題が多かったが、次第にお互いの夢や願望について語る時間が増えていった。
檸檬は、健一にとって未知の存在だった。彼は自由で、型にはまらない考え方を持っていた。それが健一には新鮮で、時には羨ましくも感じた。
ある日、放課後の教室で二人はいつものように話していた。窓から差し込む夕日が教室を黄金色に染めていた。
「ねえ健一、俺たちってさ、このままでいいのかな?」
檸檬がぽつりと呟いたその言葉に、健一は少し驚いた。
「どういう意味?」
「俺たち、ただの日常に埋もれて終わっちゃうんじゃないかって思うんだ。何か、大きなことを成し遂げたいって思わない?」
その言葉に、健一は深く考えさせられた。確かに、彼も何かを成し遂げたいという漠然とした願望を抱いていたが、それが何かははっきりしていなかった。
「何か、って何だろう?」
健一は問いかけたが、檸檬も答えを持っていないようだった。ただ一つ確かなのは、二人ともこの日常に満足していないということだった。
「それを探しに行こうよ。」
檸檬の言葉に、健一は目を見開いた。それは単なる提案ではなく、何か大きな決意が込められているように感じた。
「探しに行くって…どこに?」
健一の問いに、檸檬はニヤリと笑った。
「それはこれから考えよう。でも、一つ確かなのは、君と一緒に行きたいってことさ。」
その言葉に、健一は心が大きく揺れた。自分と同じ夢を持つ仲間がいること、そしてその仲間と一緒に冒険に出ることができるかもしれないという期待が、彼の胸を熱くした。
この日、健一は運命的な出会いを果たした。そして、この出会いが彼の人生を大きく変えることになるのだが、それはまだ誰も知らない。
その夜、健一は初めて夢を見た。大海原を渡り、未知の地へと辿り着く自分と檸檬の姿が、鮮明に浮かび上がった。
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