第8話 連絡
だから……というつもりではなかったが、勝手に結月は「樹里亜さんはこの別荘という存在が苦手」なのだと幼いながらに不思議に思っていた。
ただ何となく「聞いてはいけない事」と割り切っていたところもあってあえて聞く様な事もしなかった。
そもそも樹里亜さん自身も結月に会う事を目的としていた訳でもないだろうから「単なる偶然」という事も否定は出来なかった訳で……。
しかし、そういった事を踏まえて考えてみても、樹里亜さんがここを宿泊先として提案するとは思っていなかったのも事実だ。
「……」
ただやはり小さい頃の話とは言ってもここは「思い出のある場所」というのは事実であって、再びこうして来る事になるとは思っていなかった。
だからこうして来ると……何とも言えない気持ちにもなるし、そもそも「自分たちの問題に巻き込んで申し訳ない」という気持ちもなってしまって、樹里亜さんの提案にも最初は渋ってしまった訳なのだが……。
「とりあえずここは好きに使っていいから」
樹里亜さんに案内されたのは月と遊んでいた時によく使っていた二階の部屋……ではなく、大きめのリビングの様な場所だった。
「……」
月と遊んでいた頃は一階なんてほとんど足を踏み入れた事はなく、すぐに二階の月の部屋だと思われる場所に直行してゲームなどをして遊んでいた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございまーす」
樹里亜さんにお礼を言う二人に結月がそんな過去を持っている事を知るはずもないだろう。そもそもそんな話などしてすらいない。
「……」
この二人とは「仲の良い友人」という関係にはなれたと思う。しかし、それはきっと「学校で会った時に軽く話す」くらいの関係。
多分。学校でいつも一緒に行動している人たちと比べると結月は優先度的にはきっと下のはずだ。
しかし、別に悲観している訳ではない。
そもそもクラスが全然違うからなかなか仲良くなるのが難しい事くらいはさすがに分かる。
それに、今回誘われたのがたまたまであったとしても、こうして「完璧な美人」と言われる彼女のちょっとした秘密が知れた上に友人として遊びに行けただけで十分嬉しかった。
そんな結月が複雑な心境を抱えている中。水崎さんたち二人は樹里亜さんが点けたテレビをBGMにし、スマホを操作しながら情報収集に勤しんでいる様だった。
ちなみに樹里亜さんはテレビを点けてすぐに「――冷えちゃったわよね。ちょっと暖かい飲み物準備してくるからテレビでも見てちょっと待っていてね」と奥のキッチンへと姿を消した。
「――ありがとうございます」
テレビではちょうど夕方のニュースをやっている時間だったらしく、大雨が降り続いているこの周辺で出された警報や注意報に関する情報が流れている。
「……」
山の近くでは土砂崩れが発生している場所もあり、川の数位も上がっているといった情報も流れていて……どうにも実感がわかない。
なぜならつい一時間くらい前までは晴れているとは言えないモノのちょっと雲が厚くかかっている程度だったのだ。
それがまさかここまでになるとは……。
結月たちがいる別荘は山も川も近い場所にはないためそういった心配はなかった。
ただ、この時の結月の心境としてはどうにも現実味がなく「放心状態」というのが正しかったかもしれない。
「あ」
ふとニュースを見てスマホで連絡を取っている人の映像を見てようやく結月は親に連絡していなかった事を思い出し、慌ててスマホを見ると……。
「う……わぁ」
画面には結月を心配する母親からの電話やメッセージなどの通知が大量に入っており、思わずそれを見て結月は軽く引いてしまった。
いや、今の今まで連絡をせずに心配させるような事をしたのは自分でもよく分かっている。
ただ、 正直、ここまで大量の通知を見たのは……ドラマでしか見た事がない。しかし、こうして大量の通知を目の辺りにしてしまうと……引いてしまうのは仕方ないと思って欲しい。
「ふぅ」
とにかく気を取り直して……結月は今まであった事。
つまり、無事にショーが終わった後。お祭りに行った友人とコンビニに行く事になり、そこで樹里亜さんと会ったところで大雨に遭い、途方に暮れていたところ。樹里亜さんの提案で月と一緒に遊んでいた別荘で一泊する事になったという事を伝えた。
「お」
連絡を入れて数分もしない内にメッセージが入り、そこには「樹里亜さんが一緒なら安心ね」と言った旨の内容が書かれていた。
「樹里亜さんなら……か。ふーん」
先程の飲み物の準備にしてもそうだ。
昔から樹里亜さんはちょっとした細かい事など色んな事に気が付ける人だった。
それこそ周りの人の体調不良に限らず髪を切った事などの髪型や服装の変化などなど……。
水崎さんも周りの人から「美人」と言われているけれど、樹里亜さんも「美人」と呼ばれる人だった。
しかし、二人は雰囲気も含めて似ても似つかない別の種類の「美人」だと思う。
何と言うか……樹里亜さんは「近所の優しくキレイなお姉さん」と言った柔らかい雰囲気を感じられる人で、幼少期の結月とってはずっと「あこがれの存在」で、大体結月と同じ年代の子たちもみんなそうだった。
ただ、樹里亜さんが大学に入学をした事を機に実家を離れてからは疎遠となり、こうしてまた再会して話す様になったのは……ほんの三か月前の事だ。
実は樹里亜さんが結月のアルバイト先であるカフェのアルバイトの面接を受けに来た事がきっかけだった。
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