第23話 友人を得る?

「どうしてあなたがジルベール様の助手なの?

 マリーナ姉様でもダメだったのに!」


「マリーナ姉様?」


この令嬢はマリーナさんの妹なのだろうか。

そういえばマリーナさんは貴族出身だったのを思い出す。


「あなたはマリーナさんの妹なの?」


「違うわ。従妹よ。エレーナ・バイイ。

 って、私のことはどうでもいいわ。

 どうしてあなたが助手内定なのよ!」


バイイ家は侯爵家だったはず。

マリーナさんが私に貴族名鑑を覚えさせたのはこういう時のためか。

相手の身分がわかったのはいいけど、

質問の答えはどうしていいかわからない。


「どうして私が助手なのかはわかりません。

 ジルベール様に聞いてきます」


婚約者だから助手にするのか、

保護する名目が必要だったから助手なのか。

理由を聞いていなかったことに気がつく。


「馬鹿にしているの!?」


「いえ、本当に知らないので。

 ジルベール様に聞かないと私にも理由はわからなくて」


どうやら怒らせてしまったようだ。

だけど、何を言えば許してくれるのかわからない。

困っていたら、マリーナさんが教室に迎えに来てくれた。


「エレーナ!?

 あなた、シャル様に何をしているのですか!」


「マリーナ姉様!」


よかった。これで何とかなりそう?

金髪青目のエレーナ様と薄茶色の髪で紫目のマリーナさん。

色は違うけど顔立ちは似ている。


こうして隣にいなければ気がつかないけれど、

並んでいれば姉妹だと言われても納得する。


「シャル様、申し訳ございません。

 従妹がいることを失念しておりました。

 エレーナが失礼なことをしたのではないでしょうか」


「姉様!どうして姉様が謝るのですか!

 別に変なことは聞いていません。

 どうして助手内定者になれたのか聞いただけです!

 だって、姉様だってなれなかったのに、

 どうしてこの人が選ばれたのかわからないから!」


「ジルベール様が認めたから助手内定者なのよ!

 あなたが疑問に思うこと自体が失礼になります!

 それに、もうすでに魔術院に所属が決まっているということが、

 どれだけすごいのか、わからないのですか!」


「え……うそ。もしかして上級魔術師なのですか?」


「そうでなければ学園卒業前に所属することなど不可能です!

 どうしてそういつも考えなしに行動するのですか?

 しっかり反省してシャル様に謝りなさい!」


「そ、そんなぁ……」


マリーナさんに怒られたエレーナ様は、

落ち込んだ様子で私の方に向き直った。

さっきまでの勢いはどこに行ったのか、しょんぼりしている。


「ごめんなさい……」


「えっと、納得してくれたのならもういいですよ。

 疑問に思うのも仕方ないですし」


「うぅ……いい人だった。本当にごめんなさい」


「ふふ。気にしてません」


ちょっと驚いたけれど、マリーナさんのことが好きなのかな。

だから、マリーナさんがなれなかった助手に、

知らない私がなると聞いて気に入らなかったんだ。

その気持ちはわかるから怒る気にはならない。


マリーナさん、優秀だしすごいもの。

こんな人が従姉妹にいたらあこがれるよね。


「エレーナ、あなたが学園にいるのを忘れていたけれど、

 ちょうどいいかもしれないわ。

 何かあればすぐに知らせなさい。

 シャル様に手を出そうとしている者がいれば、

 排除してかまわないから」


「わかりました!私がシャル様を守ります!」


「頼んだわよ」


「はい!」


さっきまであんなに怒っていたのに私を守ってくれるらしい。

それでいいのかなって首をかしげていたら、

マリーナさんとエレーナ様に微笑まれる。


「シャル様はこういう方だから」


「わかりました。全力でお守りします」


「……よくわからないけど、お願いします?」


揉めなかったからいいことにしようかな。

問題がおきればジルベール様も心配するだろうし。


エレーナ様にはまた明日と挨拶をして、

マリーナさんと馬車置き場に向かう。

ベンたちが迎えに来てくれているはず。


階段を下りて、外へ出る通路を歩いていたら、

外に赤いものが見えた気がして立ち止まる。


「シャル様、どうしたのですか?」


窓の外、中庭にドリアーヌがいた。

誰かと言い合いしているようだ。


「あれはシャル様の異母妹ですね。

 ……あの言い合いしている相手は、ジルベール様の従妹です」


「従妹?あぁ!侯爵家の屋敷に居座っている?」


「ええ、もう子爵家に戻ったようですけど、その従妹です。

 名前はシルヴィ・オサール。オサール子爵家の一人娘です」


「どうしてドリアーヌと言い合いしているんだろう。

 声が聞ける場所まで行ってもいい?」


「止めておきましょう。関わらないほうがよさそうですし、

 ジルベール様が待っていますよ。

 あの二人が言い合いしている理由は調べておきます」


「……そうだね。

 ジルベール様を待たせてはいけないよね。

 わかった。魔術院に行きましょう」


「はい」


二人のことは気になったけれど、急いで馬車置き場へと向かう。

もう馬車が迎えに来ていて、ベンたちが私たちを待っていた。

エレーナ様と話していたから待たせてしまっていたらしい。


「待たせてごめんなさい」


「問題ないですよ。さぁ、行きましょうか」


魔術院に着いた時にはお昼時間を過ぎていたけれど、

ジルベール様は昼食を取らずに待っていてくれた。

塔に入るとすぐに抱き上げられて無事を確認される。


「遅かったな。何かあったのか?」


「いろいろとありましたけど、たぶん大丈夫です」


今のところは何も起きてない。

だから、大丈夫なはずだと思ったのは二日後までのことだった。


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