第25話 神の帰還
ぽっかりと口を開いた大穴からは、まるで火山の噴火のように岩や砂が飛散していた。
そりゃあれだけの高出力でいきなり地形が変わったんだ。こういう風になってもおかしくない。
「あーあ!…くそっ!」
俺は茶色く淀んでしまった空を見上げて叫んだ。
大人達が全員イカれている事は良く分かった。
それでも俺は彼らに育てられたのだ。
絶望に歪んだ表情でシュウジおじちゃんが最後に言っていたように、彼らに育てられ、勉強を教わり、安心して毎日を送る事ができた。
それが全てこの儀式を行う為の準備過程であったとしても、俺の記憶には十年近い思い出が確かにあるのだ。
リュートやダンダ、ツキコにハナ。それ以外にもいっぱい友達がいた。
この事実を知るまでは、一緒に暮らした大人達ですら友達だと思っていた。
この感情は積み重ねきた時間が形成したものだ。
いくら血で染め上げようとしても、記憶を塗りつぶしてなかった事にすることはできない。その一時一時で感じた感情は、未来となった今では上書きできないのだ。
それなら最初から俺達をいっそ奴隷のようにして育ててくれたらよかったのに。
そう思った。
そしたらあんな楽しい時間も、温かな思い出も生まれる事はなかったはずだ。
悪役なら悪役らしくしろってもんだ。
「だーめだ…。まだ終わってないや。」
俺は両手で頬をパンパンと叩く。
村の大人の総数とは、殺した数がとても合わない。
つまり俺は村へ戻り、また虐殺を再開しなければならないのだ。
ハナとの約束は終わりじゃない。それまで俺は休まない。
「早くいこっと。」
俺は地面を力強く蹴って、空高くへと飛翔する。
俺達は意識を失った状態でここに連れてこられている。
まずは村の方角を明確にしなければならない。
上空に留まって、左右をぐるっと見渡す。
駐車場。車。村にいる大人達が沢山出入りするこの施設。
ここから推測するに、村まではそう遠くないはずだ。
「予想通りか。」
ここから山を二つ超えたところ。見慣れた建物のシルエットが確認できた。
間違いない。孤児院だ。
俺は目的地を明確に確認すると、自分の身体そのものを稲妻へと変えて移動する。
質量を伴わない、ただのエネルギー体でしかないそれは、光速で移動しようとも、衝撃波一つ伴わない。
稲妻となった俺は村のちょうど入り口に落雷となって着地する。
激しい閃光と轟音。そして…。
「ゲホゲホッ…。こりゃきついな。」
神の鉄槌(カミノテッツイ)ほどではないが、それも俺の神としての力。やはり地面に隕石が落下したようなクレーターを作ってしまう。加えてこの土煙。勘弁してほしいものだ。
見慣れた正門の向こうでざわざわと声がする。
何度もシュウジおじちゃんのトラックを見送った正門。
反対側から見るのは初めてだった。
その扉が開いて、ゾロゾロと大人達が出迎えに現れた。
「ラ、ライラ…!?」
困惑するその声に俺は
「やあ。帰ってきたよ。」
と笑って応えた。
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