第23話 12歳の天罰
この数分間で何人殺しただろうか。
完全に常軌を逸した殺人者のそれのようだが、俺の胸の中には確かに人間らしい感情が息をしていた。
冬が寒いのは仕方がない。だったら厚着して暖かな部屋で過ごせばいいのだ。
ロジックとしてはそれが近いかもしれない。
俺も殺されかけた、というか半ば死んだようなものだけど。
大切な四人の友達も目の前で殺された。
その中には俺の初恋の人も…。
その前にも何人も何人も…、ただ神を生む為の儀式なんだ、仕方がないと割り切ったイカれた大人達によって子ども達の命が奪われてきたのだ。
その立場が逆転して、何か不思議な事があるだろうか?
今度は奪われて当然だ。
俺はかつてみんなが殺された部屋の扉をそっと閉める。
「また…来るね…。」
左手をそっと扉に乗せて、額をドアにくっつけて呟いた。
そうだ…。そうなんだ。
この殺戮で終わりなんかじゃない。
死んでいったみんなをきちんと弔わないといけない。
だから俺は戻るんだ。
必ずここに。
少しの間そのまま目を瞑って、感情を整理していた俺だったが、線路を切り替えるかのように、ガチっと感情のレールを切り替える。
「…再開だ。」
時代劇を3倍速ぐらいで再生していると思って欲しい。
その速度で俺は愚かな大人達に天誅を下して回った。
いや、例えが良くないな。
時代劇であれば一応刀の応酬があるのだが、この殺戮にはそれがない。
地下に降りて、また見覚えのある部屋に着いた。
俺が最後に意識を失った部屋。電気椅子をされたところだ。
この頃にはまるで痛みも悲しみも感じていなかった。
もう神にかなり近かったのかもしれない。
まるで博物館にでも来たかのように、俺が座っていた椅子をまじまじと見つめていた。
実に汚い椅子だ。
真っ黒こげになってしまった血が、その鋼鉄製のシルバーの椅子から完全に輝きを奪ってしまっていた。
その時、ドアの方で聞き覚えのある音がした。
ガチャン!
重たい金属音。
誰かがこの部屋をロックしたのだ。
あーあ。なんというか…。
俺は雷刀を納めて、頭を抱える。
『捕まえたぞ!!!!お…、俺が!!!』
興奮気味にそう叫ぶ男。
勝利の雄叫びをわざわざマイク越しに言ってくれた彼は確か…。
「テツさん…。そりゃあ無理だぁ…。」
脂汗を浮かべて、ガラス越しに勝ち誇った表情を浮かべていたテツさんの表情が曇る。
「え?」
思考を巡らす間もなかったはずだ。
俺はパンとその場で飛び上がり、ガラスの目の前に移動すると、雷刀でガラス越しに一頭両端する。
強化ガラスだろうと、どれだけの厚さがあろうと関係ない。
神の刃を止められるものなら止めてみろ。
残るは二人。
場所は…。屋上か。
地下から屋上までの移動は面倒だな。
「それじゃ…こんな感じ…かなっ!?」
グッと足を曲げてかがみ込んで、全身に雷を纏わせる。
身体より一回り大きなそれは、まるで稲妻でできたレインコートのようだ。
勢いよく地面を蹴って、俺は真っ直ぐ上空へと向かって飛び立った。
厚いコンクリートの床や壁を一気にぶち抜いて、上空へと舞う。
屋上から更に30メートルほど上空まで上がっただろうか、石煙の舞う建物を見下ろして、
「うぉおー…。流石にすごいな。」
なんて感心してしまった。
真っ直ぐ飛び上がっただけ。
何も殴ったり蹴ったりしていないのにこの威力。
実に壮観だ。
神様ってすごい。
俺はそのまま空中で一回転して、体勢を整えて屋上に着地する。
「く、来るなぁああああ!!!!!!」
両目いっぱいに涙を浮かべたそれを確認すると、雷刀を構える。
「とりあえず最後かな。」
最後ぐらい少し派手に行こう。
俺は右足をグッと引いて、抜刀の体勢をとる。
短い呼吸を一つ。そして、
「薙一閃(ナギイッセン)!!!!!」
左脇に構えた雷刀を右方向へ、地面に対して水平に勢いよく振り抜いた。
切先はその男の遥か前方で飛行した。つまり触れていない。
これはただ剣を振るうだけじゃない。圧縮された稲妻の斬撃が超高速で美しく彼の胴体を真っ二つにする。
それだけにとどまらず、遅れて視界前方にあった山が二つ。その頂上を切り飛ばされて、土砂崩れを起こし始めていた。音は聞こえない。ただ舞い上がる土煙が、ただただその威力を物が物語っていた。
「流石にやばいかな…。」
思わず表情が引き攣ってしまう。
一応これでマーキングしたターゲットは全てクリアした事になる。
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