もしも…

名古屋ゆりあ

今日ほど無事でよかったと思ったことはない

今日は待ちに待ったお笑いの賞レースの日である。


俺が推しているお笑いコンビが決勝戦に勝ち進んだと知った時からこの日がくるのが楽しみで仕方がなかった。


薄型テレビには賞レースのオープニングが流れている。


後少しで賞レースの始まりだ。


ローテーブルのうえに並べられているのはポテトチップスとチョコレート、缶のコーラと氷が入ったグラスだ。


「お菓子よーし、飲み物よーし、後は…」


指差し確認でチェックしていたら、玄関のチャイムが鳴った。


「はいはーい」


俺は財布を手に持つと、玄関へと足を向かわせた。


ガチャッと玄関を開けると、

「お待たせしましたー」


ピザ屋の店員がそこに立っていた。


本日の夕飯でメインディッシュのピザが届いた。


やっぱ、賞レースと言えばピザだよな!


「合計で2800円になります」


「3000円でお願いします」


俺は財布から1000円札を3枚取り出すと、店員に渡した。


店員からピザが入っている箱を受け取ると、

「200円のお返しです」

と、店員が200円を俺に返してきた。


「ありがとうございましたー」


店員に向かってお礼を言うと、俺は家の中へと入った。


「おっ、始まった」


テーブルのうえに届いたばかりのピザを置くと、それを食べながら賞レースを楽しんだ。


 *


「あーっ、結果は3位だったかー」


俺が推しているお笑いコンビは3位と言う結果で終わってしまった。


でもまだラストイヤーじゃないし、まだ来年がある。


来年こそは優勝しますように…と祈りながら、俺は食べ終えたピザの箱を流しへと持って行った。


水を出して箱を濡らしている間にテーブルのうえの片付けをした。


お菓子の袋をゴミ箱の中に捨てて、空いたコップと缶のコーラを流しへと持って行った。


缶の中を洗って乾かしてグラスを洗うと、水に濡れて畳みやすくなった箱を小さく丸めるとゴミ袋に包んでゴミ箱の中に捨てた。


賞レースが始まる前に入浴は済ませたので、後は歯を磨いて寝るだけである。


「さて、明日は仕事だから寝るか」


俺は歯磨きをするために洗面所へと足を向かわせた。


 *


賞レースの余韻に浸りながら朝を迎えた。


いつものように身支度を済ませて朝食を食べ終えると、家を出るために玄関へと足を向かわせた。


靴を履いてドアに手をかけようとしたら、

「…あれ?」


ドアの鍵が閉まっていないことに気づいた。


「何で?」


昨日は家に引きこもって、昼過ぎにやっていた敗者復活戦からの賞レースを見ていたので外出した記憶はない…はずなのに、何でドアの鍵は閉まっていなかったのだろうか?


そう思いながら昨日の出来事を振り返ると、

「あっ!」


心当たりがあった俺は声を出した。


そうだ、ピザ屋がきた時にドアを開けて対応したんだった!


ピザを受け取った後は賞レースに気を取られて…そう言えば、鍵を閉めた覚えもなければ記憶もない。


その後も戸締まりの確認をすることなく後片づけをして歯磨きをして就寝…である。


早い話が、朝までドアは開けっ放し状態だったと言う訳である。


そう思ったら、サーッと血の気が引いたのがわかった。


賞レースの余韻なんてどこかへ飛んでしまった。


幸いにも家の中に入られた形跡は特になかった。


でも、もし誰かが家の中に入ってきていたら…それがもし強盗とか悪いヤツだったらと思ったら、俺は今頃どうなっていたのだろうか?


お金を奪われていたかも知れないし、殺されていたかも知れない可能性もある。


「き、気をつけよう…」


今日からちゃんと戸締まりに気をつけようと自分に言い聞かせると、俺はドアを開けた。


☆★END☆★

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もしも… 名古屋ゆりあ @yuriarhythm0214

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