第49話 今日子さんとの一夜
かおりさんに帰宅の報告を入れた後に一緒に住居であるペントハウスに向かった。
かおりさんが何か言いたそうにしていたので、エレベーターの中でかおりさんに聞いた。
「何かあるの。
かおりさん、何か言いたそうにしているけど、あまりいい話じゃないのかなあ。」
「いえ、そういうわけじゃ。」
「だったら教えてよ。」
「わかりました。
…… 今日子さんをサポートしていた葵からの伝言ですが、彼女をあまり待たせるのは良くないそうです。
あまり待たせるようなら不安ばかりが大きくなるからと言っておりました。
私もそう思います。
彼女を迎えてから1週間ばかり経ちましたが、直人様はあれから彼女にはお会いしていませんよね。
どうですかこの後のご予定がなければ彼女とお会いしませんか。」
「誰、今日子さんって」
「え?
北海今日子さんです。
事務所開きの時に愛人として受け入れた彼女ですよ。」
あ、そういえばそんな話だったよね。
彼女の名前は今日子というんだ。
苗字しか覚えていなかったよ。
これは彼女に知られるわけにはいかないな。
今後は下の名前で呼び合うだろうから、よし、覚えたぞ。
でも、不安ってなんだ。
初めての男性たちとの生活では不安も覚えるか。
それも、こちらに迎えてから1週間も音沙汰なしではやはりまずかったかな。
「わかったよ。
彼女に予定がなければすぐにでも会うよ。
呼んでくれるかな。
それとも僕が彼女のところに向かった方がいいの。」
「ありがとうございます。
すぐに呼びますので、リビングでお待ちください。」
俺はそのままエレベータから降りるとリビングのソファーでだらしなく座っていた。
すぐにここ担当しているラナがやってきて暖かなおしぼりを手渡してくれる。
「ありがとうラナ。」
それを受け取り、おやじのように顔を拭きだした。
「なにかお飲み物をお持ちししましょうか。」
「あ、そうだね。
いや、いいや。
もうすぐ今日子さんがやってくるからその時に一緒に頼むわ。」
「わかりました」
割とすぐにかおりさんに連れられて今日子さんがリビングまでやってきた。
彼女の顔にはかなりの緊張がみられる。
待たせたのは悪いことだったと今更ながら反省していた。
「直人様。
今日子さんをお連れしました。」
「そこで立っていてもなんだから二人ともソファーにでも座ってよ。」
二人をソファーに座らせると先ほどのラナがやってくる。
「二人ともなにか飲む。
というか、これからラナにコーヒーを入れてもらうから何か好きなものでも頼んでよ。
何ならお酒でもいいから。
僕一人だけだと何だか落ち着かないからね。」
かおりさんが緊張していて何にもアクションの取れない今日子さんを促した。
「それでは私たちも何かもらいましょうか。
もう7時近くになるのですね。
それならお酒もいいですね。
私はビールを貰いますけど今日子さんは。
今日子さんもいける口なんでしょ。」
「あ、でも、本郷様がお飲みにならないのに。」
「気にしなくても大丈夫よ。
直人様はまだ未成年ですからお酒を控えているので。
でも、私たちには勧めてくるのですよ。
酔わせなくとも求められれば喜んでお相手しますのにね。」
おいおい、何を言い出すんだ。
確かに彼女は愛人として預かったのだが、彼女が嫌がるのなら無理して襲うとは思っていないぞ。
「そ、それでしたら、私もかおりさんと同じのをお願いします。」
本当によくできた奴隷たちだ。
頼んだそばからすぐに飲み物を持ってきた。
俺には薫り高いコーヒーを、いったいいつ入れたのやら。
かおりさんと今日子さんには驚いたことに生ビールをジョッキで持ってきた。
ここにはビールサーバーまであるのか。
俺はふたりにとりあえずビールを飲んでもらい、今日子さんの緊張が少しほぐれてから話しかけた。
「今日子さんでしたっけ。
迎えてから1週間ばかりほっておいてなんですけど、あれからあなたを無視したような感じにしてしまい申し訳ありませんでした。
愛人にすることにしましたけれども、あなたが望まないことはしませんよ。
誰に何を聞いたかはわかりませんが、俺には性的なことをできる女性には不自由していませんから。」
なんだかキザったらしい言い回しになってしまったな。
俺は慌てて言い直した。
「何やら先ほどからえらく緊張していたから、ここでそういったことをされるのかと思ったのでしょう。」
「いえ、一応の事は社長から聞いております。
また、そのうちの事務所の先輩たちとのその、……そういったことをしたというのも聞いています。
私は大丈夫です。
私も談合坂の先輩たちのようにしてください。」
「え~~っと、彼女たちは、そうだよな、枕営業だったんだよね、最初は。」
「最初って、何ですか。」
「え? あの時のことじゃないの。」
「あの時って、それって、何かあったんですか。」
え?
藪蛇ってやつ。
彼女たちの少なくとも昨日の5人は、先週は自発的だったよな。
だって俺が望んでもいないうちからどんどん脱ぎだしていって、あの時は完全に逆にレイプされたような感じだったような。
別れ際には自分たちからセフレと言っていたし、俺との経験からああいった行為に興味を持ったような感じだった。
少なくとも、吉井会長はあの部屋だったら大丈夫だからこれからもよろしくと言っていたけど、これってやはり枕なのかな。
「本郷様。
談合坂の先輩たちと、何かあったのですか。」
俺が答え難そうにしていると、かおりさんが代わりに軽く答えてくれた。
「先週の事務所開きでのパーティーの際にミニコンサートを開いてくれたでしょ。
その後で、直人様に彼女たちがご褒美をねだったのよ。」
「ご褒美ですか。
ご褒美って……もしや…」
「あなたの想像通りですよ。」
「え?
誰とですか、あの時は5人いましたよね。」
誰も答えないと彼女は自分から言ってきた。
「も、もしかして5人全員とですか。」
俺は黙ってうなずいた。
「直人様を軽蔑しましたか。」
彼女は顔を真っ赤にして黙ってしまった。
これは完全に軽蔑されたかな。
「本郷様って、その、……複数とするのがお好きなのですか。
私一人ではだめですか。
………
やはりだめですよね。
私経験がありませんから、本郷様を満足させることができる自信が。」
それって、彼女はまだ処女なのか。
もっと芸能界って盛んかと思っていたよ。
そういえば談合坂のみんなもほとんどが処女だったしな。
「私じゃだめかもしれませんが、一生懸命頑張ります。
本郷様の言う通り勉強もしますので、私にも……」
最後は顔を真っ赤にしてよく聞き取れなかったが言いたいことは分かった。
「気持ちは分かった。
もう二度と聞かないけど、今からする。
いや、今まで待たせたので悪かったけど、今から君としたい、今日子。」
「……はい。」
俺はそういうと、かおりさんが今日子さんを寝室に連れて行った。
すぐに後を追うようにソファーから立ち上がると今までここに居なかった葵が俺の前まで来て俺を止めた。
「直人様。
しばらくここでお待ちください。
準備が整いましたらお呼び致します。」
「え、葵がそういうのなら別に待つことは構わないが、準備って何?」
「そこは女性の秘密ということでお許しください。」
何か期待を持たされるようなことを言われたが、急に言い出したのに準備って何だろう。
この場で30分ばかり待たされただろうか。
その間に梓からスマホにメールが入った。
『今日はありがとう』
て本当に短いメールだ。
とりあえず『どういたしまして、また連絡するよ』って返したけど、これが後30分も遅かったらこのメールを見るのって明日の朝だな。
絶対に梓から何か言われるよ。
タイミングが良いのか悪いのか。
これから別の女を抱こうかというタイミングでデートのお礼を言われたよ。
なんだかとっても複雑な気持ちだ。
俺って本当に最低の人間だな。
そんなちょっとばかりブルーが入ったところで、寝室からかおりさんが出てきた。
きれいにウエディングドレスを着飾った今日子さんを連れてだ。
本当に綺麗になっていた。
先ほども充分に美人ではあったが、今の彼女はきれい、美人の言葉だけでは表せないくらいにきれいになっていた。
さっきまで入っていたブルーが一挙に飛んで行った。
「あ、あれって…」
「はい、何分急な話でありましたので、サイズがほとんど同じ私のを渡しました。
かおりさんが後でもう一度私用に作ってくれるそうですので気にせずにお楽しみください。
彼女も初めてですので、思い出になるようにお願いしますね。」
「ど、どうして。」
「もう彼女も私たちの大事な仲間なのです。
私たちのような奴隷ではありませんが、気持ちの上では私たちとほとんど変わりません。」
この一週間の間にすっかり彼女たちと仲良くなっていたらしい。
そういえば彼女はシェアハウスのように同じ部屋で生活していたのだ。
待ちぼうけをくらわしていた間の不安な気持ちを葵たちによく相談していたようだ。
本当に悪いことをしていたな。
俺は今日子さんの顔の前にあるベールをめくり、軽くキスをして、今日子さんを寝室に連れて行った。
あとは、ほとんど、いや全く初夜の儀と同じことが一夜をかけて行われた。
翌日目を覚ますと、そこにはもう彼女は居なかった。
葵が寝室に入ってきて、俺を起こすと教えてくれた。
「今日子さんは朝3時半に起きて4時半には家を出ました。
今朝の番組に出演するために、平日は毎日こんな感じだそうです。
テレビ局に向かう直前まで直人さんに申し訳なさそうにしてましたよ。」
「え、なんで。」
「やはり、初めての朝は一緒に迎えたいじゃないですか。
私の時は絶対に一緒にベッドから起きて直人様におはようって言いたいです。
彼女は、直人様にありがとうって言っていました。
本当に優しくして頂いてうれしかったようです。」
そんなものかな。
でも良い思い出になるのならそれもいいかな。
ベッドで体だけを起こして眠気を覚ましていると、葵が部屋の大きなテレビをつけて教えてくれた。
「直人様。
そろそろ始まりますよ。」
何が始まるかというと、今日子さんが朝の番組で天気予報を伝えるコーナーだった。
「さすがに今朝はちょっと疲れたような顔をしていますね。
昨日はほとんど寝ていませんでしたからしょうがないかもしれませんが、これからは気を付けた方がいいかもしれませんね。」
何を、どう気を付ければいいというのだ。
まあ、これからは彼女たちがいいようにマネジメントしてくれるだろうから、任せればいいだろう。
………
やっぱり、俺って最低だな。
朝からまたブルーが入った。
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