第21話 再びの日本へ

 とにかく、これといって決まったことをしていたわけじゃないのだが、俺も忙しく働いていた。

 時間の許す範囲で、ボルネオ空軍に頼んでパイロットの養成コースを受講も始めた。

 1月中旬から始めて2月末までの間でどうにか自家用レシプロ単発エンジン機のライセンスの取得まではできたが、今うちが使っているジェット機のライセンスまではもう2ステップの壁を超えなければならない。


 俺はとにかくここボルネオに拠点を置いているので、これから出来る限りのことはしていく覚悟でとにかく今は時間の許す限りパイロットライセンスの取得に向け頑張っていた。


 そんな感じで時間を過ごしていると3つあるミッションの内、油田鉱区の本契約について動きがあった。


 年の初めの会談で取り決めた条件はスレイマン国王の許可が割とスムーズに下りて、現在は海賊興産の動きを待っている状況だ。


 なかり大きなお金が動くので、取締役会や株主や取引銀行への根回しなど、かなりやることが多いと、割とちょくちょく訪ねてくる花村さんから聞いたことがある。


 その中で少々厄介なのが産業省との付き合いだとも教えてくれた。

 なにせ海賊興産は社風からしてお上に逆らうような感じの会社であると社員だけでなく周りからも思われているので、中東の大規模油田鉱区の契約となると国のエネルギー政策に関わるとかなんとか言い出して、国策会社と共同受注しろとか言い始めているそうなのだ。


 そうなると先に取り決めた条件ではとても飲めそうにないとか言い出しているそうだ。


 別に輸入元に関しての制限される法律などないのだが、とにかくめんどくさい。


 それを聞いたかおりさんが産業省対策を始めたそうだ。

 具体的には参加する会社が増えたのなら条件を引き上げるという内容の噂を産業省あたりに外務省からばら撒いてもらった。


 なにせうちには別のミッションで外務省や首相官邸と直接繋がっているコネクションがあるのだ。

 かおりさんがそれを見逃すはずはない。

 別に首相に一言関係者に囁いてもらうだけでもよさそうに感じて俺は以前かおりさんに聞いたところ、そういった力技は無用な敵を作るので最後の手段にとってあるのだそうだ。


 今回はコバンザメのように利益に群がってくる雑魚の処理なのだから、噂だけでも大丈夫だと言っていた。


 結果はその通りで最近まで皇国石油や新日本石油の役員の方が産業省の役人を引き連れてここにちょくちょく訪ねてきていた。


 かおりさんが涼しげな顔をしながら、

「参加されるのは大賛成です。

 御社が参加される場合、御社1社の契約額が3000億円、即金でお願いします。

 それと、汲み出される原油のうち30%をスレイマン王国へ、35%が私どもの会社の取り分となりますが」

 なんて話すと、大抵の場合に怒って帰っていった。


 かおりさんは他とは契約するつもりがないようだ。

 中にはスレイマン王国に対して悪態をついていく産業省の役人もいたが、この場合にはきちんとボルネオに駐在している日本国大使館を通して名指しで抗議している。


 時々連絡をよこす中里さんから笑いながら「もう少し、お手柔らかに頼む」などと言われる始末だ。


 そんなかおりさんの策が功を奏したのか1月も終わる頃には他からのちょっかいは急に少なくなり、2月中旬には海賊興産1社での契約ということで日本国も大筋で認めてきている。

 2月25日に東京の海賊興産本社で本契約を結ぶ運びとなった。


 タイミング的には非常に都合が良かった。

 3月1日には俺の卒業式を控え、また、ボルネオ王国にある日本国大使館員の調査もある程度までまとまってきている。

 結果は予想よりも悪かった。

 なんと、大使館丸々すべてが汚染されていたそうだ。


 通信関係はすべて傍受されており、ボルネオ王国と日本政府とのやりとりは大明共和国に筒抜けだったそうだ。

 不正行為を暴いて公に糾弾してもいいことは何一つないと俺には説明を受けているのだが、どうしても納得ができないでいる。

 それでもカオリさん達から丁寧に説明を受け、感情的にはどうしても受け入れられないが、政治とはそういうものだと無理やり理性で納得させている状態だ。

 そもそも、まともに勝負しようものならば国内政治が荒れるし、大明共和国の国民感情も悪くなると今後の外交にも関わるとかで、今は、現状を理解した上で利用している。

 具体的には在ボルネオ日本大使館を利用してさんざんガセネタを流しているそうだ。


 そんな感じの現状なので、当初の計画通りにお忍びでハリー殿下が俺たちと一緒に訪日する運びとなった。

 表向きの理由は友人となったスレイマン王国の貴族でもある俺の卒業に合わせての帰国に際し同行して、日本観光を一緒に楽しむためとボルネオにある日本国大使館を通して日本政府に連絡を入れている。


 俺もしばらく日本国大使館周辺を観察していたが、この話が上がった時の日本国大使館周辺はかなり慌ただしくなっていたようだ。

 アリアさんからの報告では同時に大明共和国の大使館も慌てていたそうである。

 そのまま計画が進んで2月23日にボルネオを出発した。

 その日のうちに羽田についた。


 今回はボルネオ王国専用機である中型旅客機の自家用機だ。

 俺たちがパリから逃げ出すときに俺たちを乗せて助けてくれた飛行機だ。


 これは、俺は1度乗ってその快適さをよく理解している超豪華仕様の内装を誇る流石に王室専用機だといえる飛行機で、飛行時間の5時間は用意されている個室に女性たちと篭って時間を潰した。


 それも1時間毎に二人ずつメンバーを変えてのお楽しみ時間を楽しんでいた。


 同乗している王子たちは今回もそれどころじゃないみたいで、機上でも忙しくしていたのだが、アリアさんたちの気配りで、俺は一切気がつかず、本当に天国のような時間を過ごしていた。


 今回の訪日には俺に同行するスタッフには、かおりさんはもちろんのことアリアさんとイレーヌさんもいる。

 3つのミッションを今回の訪日で同時にカタをつける意気込みで乗り込んでいた。

 そのため彼女たちの手足となるスタッフとして常設している3つのグループのうち2つが同行しており、前回訪日した時についてくれたウサギさんチームはボルネオでお留守番だ。

 尤もボルネオに残ったウサギさんチームもゆっくりとしているわけじゃなくスレイマン王国へ出張に出る者や各種書類の対応などでかなり忙しいと聞いている。


 なので、前回訪日の際に入国できなかったアイさんたちには気の毒なことをしたのだが、その反省を生かし、先に日本政府との交渉で俺の抱えているスタッフ全員が入国できる権利を有しているので、同行している女性16人全員が入国することになっている。



 夜もかなり遅くなった時間に羽田についた専用機は前回同様自家用機専用の駐機スペースに誘導され、そこで停止した。


 空港スタッフのご好意により、タラップを出してもらい俺たちが羽田に降り立ったのは深夜を少しばかり過ぎた時間であった。


 そんな時間にも関わらず、駐機スペースには外務省から政務官や高級外務官僚が目立たないように待機していた。


 この人たちのごく一部しかボルネオ皇太子の訪問理由は明かされていないのだが、いくらお忍びでの訪問といっても、資源関連の重要国家の王子ふたりの訪問とあって、日本国政府も無視するわけにはいかないとの配慮が働いている。


 夜中であることをいいことにVIP待遇で入国処理を済ませ、そのまま外務省の用意した車で宿泊先の皇国ホテルに連れて行ってもらった。


 日本での活動時間は俺の卒業式もあり3月2日までとしている。


 今回の訪日では、宿泊先及び今回の司令部を皇国ホテルに置きたかったのだが、それが叶わなかった。

 ここのロイヤルスイートはボルネオ王国の皇太子が使い、デラックススイートをエニス王子が使うことにしている。


 おふたりがお忍びということもあって、政府関係者との会見は目立たないようにこの皇国ホテル内だけという話になっている。

 表向きの案件での面会も多少はあるが、これがかえって本当の目的の隠す良いカモフラージュになりそうだとアリアさんは喜んでいた。


 俺は流石にこのメンバーに同宿するとなると悪目立ちすぎるということと、どこかの外交団並みの人員を連れている関係で、皇国ホテルに部屋が確保しきれなかったために、俺たちだけが別のホテルに泊まることにしている。

 俺は日本国政府の役人がホテルを引き上げたあとにタクシーを使って予約しているホテルに向かう。


 夜中だと皇国ホテルから俺たちの宿泊するホテルまではタクシーで10分とかからない距離だ。


 俺は、基本的に卒業式を除くと王子たちと行動を共にするので、連絡は十分に取れるように手配してある。


 今回同行しているスタッフの多くは別行動になる予定だ。

 俺に常に同行するのはかおりさんだけである。

 アリアさんやイレーヌさんもそれぞれ自身が抱えているミッションの対応のため必要に応じてスタッフの手を借り各地に散らばることになっている。


 皇国ホテルから目立たないようにバラバラとタクシーに乗り込みホテルに向かった。


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