第20話 本契約に向けての交渉

 俺たちはというと、今抱えている大きなミッションは偶然にも3つあり、全部並行して処理するには負担が大きくなることから、それぞれのミッションについて責任者をおいて、手隙のグループをサポートに付け、仕事を回すようにした。


 そのミッションだが、最重要なミッションが今ではボルネオ王国に対して行われている謀略の打破だ。

 こういった謀略関係に経験があり十分に能力のあるアリアさんに担当してもらうことになった。

 アリアさんは二つ返事で了解してくれ、直ぐに電話で日本にいる外務省の役人である里中さんと連絡を取った。

 これからの計画と、進捗の確認などこちら側の窓口の責任者としてアリアさんが当たることを連絡して了承してもらった。

 この件はエニス王子側も最大の関心事となっているので、サポートに人を回してくれることになっているが、エニス王子にはそれ以上に自分の置かれている状況の整理という最も重要で下手をすると命にまで関わることが待っているので、正直俺たちにキャパはあまり割けないのが現状だ。

 なにせ、やっと王弟殿下の遺産を引き継いだばかりで俺に財産の一部を譲渡したので、自身の抱えている財産の把握とコントロールが確立していない。

 それもスレイマン王国に入れないので色々と難儀しているようである。

 現在、エニス王子の奴隷の女性たち全員が各地に飛んでその対応に当たっていて、どうにか問題を表面化させないことだけは成功している。

 言い換えればあちこちに爆弾を抱えているような状況であるそうだ。

 幸いエニス王子の下には経験を積んだ女性が、今でも30人は入るので、ここに10名ばかり来ていてもどうにかなっている。

 尤も、ここにいる女性は固定化されておらず、絶えずスレイマン王国との間をそれこそローテーションでも組んだように入れ代わり立ち代わりのように行き来しているのが現状だ。


 そんな苦しい状況にも関わらず、この問題の専任としてふたりをつけてくれるそうだ。

 今はそのふたりは抱えている仕事の引き継ぎでスレイマン王国に戻っているのだ。


 この問題の成否はアリアさんにかかってしまったのだが、エニス王子も彼女の優秀さをよく理解しているので心配はしていない。


 話は前後してしまったが、俺のところで抱えているミッションの残りは、以前から進めている海賊興産との本契約関係だ。

 こちらの方は以前から窓口として働いていたかおりさんが引き続き受け持ち、早急に本契約まで持っていくつもりのようだ。

 松の内が開けたら直ぐに海賊興産側の担当役員が条件など、本契約に向けての交渉にここまでやってくる予定になっている。


 最後のミッションは、俺自身は放っておいても構わないとまで言っていたのだが、全女性陣からこの件は我々の最重要ミッションだと言われ、イレーヌさんが代表としてあたってくれるそうだ。

 そのミッションというのは、俺の春からの新生活に備えての拠点作りと体制の構築というものだ。

 俺に言わせれば拠点って住む所だろ、なら賃貸マンションでも借りればそれで済むだろう。

 保証人関係で賃貸が無理なら近くの一軒家でも買えば問題はないだろうと思っていた。

 ただ俺が最後まで分からなかったのが、体制を構築するって言っていたけれど、体制って何だ。

 よくはわからなかったので、張り切っているイレーヌさんに全て任すことにしている。


 そのイレーヌさんからの希望で、俺のメンバー全員が簡単に日本に入国できるようにするためにスレイマン王国と、ボルネオ王国、それに何より日本国に対して便宜を図ってもらえるようにすべてのツテを使って要請を掛けた。


 3つのミッションを同時に対応できる体制ができてからというものエニス王子のところの女性だけでなく俺のところの各チームも各地に出張していくことが増えてきた。

 今までもかなりの稼働率を誇っていた自家用機ではあったが、それからというもの稼働率は商業航路を飛ばしている飛行機と何ら遜色ないレベルの稼働率で各地に飛んでいる。

 特に最近は日本への飛行も増えているのが特徴であった。


 そんな感じで女性だけでなく俺も忙しく働いていた。


 1月も10日も過ぎた頃に日本から海賊興産の藤村さんと花村さんが海賊興産の資源担当役員で常務でもある木下さんを連れてきた。


 ここから本契約のための条件交渉が始まった。

 3日間ほとんど毎日10時間以上の話し合いの結果、条件はまとまった。

 あとは、俺ら側はスレイマン王国に対して承認を取るだけの作業が有り、同時に海賊興産側も会社の役員会の承認を取る作業が残るだけだ。

 俺ら側についてはほとんど問題はないが、海賊興産側についてはまだ契約そのものが白紙に戻るおそれも残っている。


 なにせこの海賊興産という会社は、何かとお上にウケが悪い。

 独立心旺盛な会社で今まで日本政府の助けをほとんど受けてこなかった。

 そのことが社員の誇りでもあり、政府の口出しを極端に嫌う社風を生み出す原因ともなっている。


 そもそも、どの国にも言えることだが、自国のエネルギー政策は国の重要な政治課題になっている。

 そのような状況にあるにも関わらず独自のエネルギー開発にこだわってきたのだ。

 こう言った油田開発の契約時に今までも度々産業省あたりからの圧力を受けてきていた。

 今回もその危険性も十分にあるので、圧力に役員の一部でも屈しようものなら契約そのものが白紙になるリスクを抱えている。

 木下常務はそのリスクの説明を一切包み隠さず話した上で、自分の会社員人生を賭けて契約をまとめると約束してくれた。


 かなり信頼の置ける御仁だ。


 とにかく本契約に向けての最大の山場は超えた。

 俺たちは海賊興産側の人達に対して慰労の意味でささやかな酒宴を西館で開いた。

 俺ら側の参加者は俺を含め女性全員で参加して、エニス王子と数人のエニス王子の女性も参加した。

 海賊興産側は今回ボルネオまで来てくれた3人を招待したのだ。


 仕事の話のような野暮な話はしなかったのだが、藤森部長から気になる話を聞いた。

 例の大明共和国の事件にも関係がありそうな話ではあるのだが、最近になって大明共和国が強力に進めている『海のシルクロード計画』についてだが、最近になって雲行きが怪しくなってきているという噂があるのだ。


 俺は国際政治にはあまり興味がなかったというより、今までは生きることに精一杯でそこまで興味が回らなかったために初めて聞いた話ばかりではあった。

 しかし、世の社会人、特に海外関係の仕事をしている人達にとっては常識の範疇の話ではあるのだが、これがあまりうまくいっていないという噂が最近あちこちから聞いているというのだ。

 それも、今まで強引とも言える力技で発展途上国への資金の貸し付けを進めていったものだが、あちこちで焦げ付き始めているのではという話だ。

 大明共和国の本国でも経済成長の伸び率の鈍化もあって、この計画にかける資金に危険信号が灯り始めて、最近詐欺まがいの手法を使ってでも資金を集めるようになってきているという話だ。


 資源関係の者は特に大明共和国関係の取引については慎重になっている。

 海賊興産も当然そのような動きが有り、いくつか進めていた資源開発の計画を全て一時停止して様子を見ていることも教えてくれた。


 この話だけは見過ごすわけには行かず、もう少し詳細に情報を仕入れる必要を感じた俺ら側の全員は藤森部長に詳細な情報を求めた。


 藤森部長にはこれ以上の話は持っていなかった。

 エニス王子を始め周りの空気が変わったこともあってか、木下常務が自社の利益にも関係が出るということでこの話の調査をその場で約束してくれた。

 また、その対応窓口も花村主任を任命して、今後情報のやりとりに齟齬の出ないようにまで対応してくれた。


 彼らの誠意に対して大いに感じるところもあり、俺はこれからの末永いお付き合いができるように俺の責任において約束を交わした。


 そんな感じであったためにこれ以降は、日本への自家用機を使っての飛行回数も格段に増えていった。


 飛行機の稼働率もそろそろ問題として考えなくてはならなくなってきているのだが、それ以上に近々の課題として、パイロットの負荷が以前とは比べ物にならないくらいに増大している。

 現在自家用機のパイロットはボルネオ王国の空軍から借りてきている。

 ボルネオ王室のお情けで借りている状況なのに、これ以上のパイロットを借りるのは忍びない。


 かと言ってスレイマン王国から連れてくるわけにもいかない。

 それができるような環境だったら少なくともエニス王子はボルネオ王国まで逃げてきていない。


 そろそろ自前でパイロットを確保する必要が出てきている。

 正直この問題には困った。

 フリーランスのパイロットを雇うわけにもいかない。

 理由はスレイマンからパイロットを呼ぶことができないのと同じだ。

 どこの刺客が紛れ込まないとも限らない。

 扱うのは飛行機だ。

 最悪自爆も視野に入れなくてはならないようなので、現在どこにもパイロットのあてがない。

 当分はボルネオ王国空軍のパイロットさんに頑張ってもらうしかない。

 ボーナスは弾むようにアリアさんにはお願いしてある。


 いよいよとなると自前で用意するしかないな。

 1年あれば一応のパイロットの養成はできる。


 この件もエニス王子と相談だ。

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