同胞
「……ところで、殿下」
「何ですか?」
片膝をついたままのオリヴィアさんが、疑問があるといった様子で話しかけてきたためそう聞くと。
オリヴィアさんは、僕の後ろに立っているレイラの方に視線を送って言った。
「私の今までの記憶上、そちらの女性はお見受けしたことがありませんが、どなたでしょうか」
「あぁ」
レイラにオリヴィアさんのことを紹介はしたけど、オリヴィアさんにレイラのことは紹介できていなかったため、僕は口を開いて言う。
「彼女はステレイラと言って、エレノアード帝国の生まれですけど、その教会の聖女としてサンドロテイム王国との戦争反対を掲げ続けてくれていたんです」
「なんと……!何故そのようなことを……?」
オリヴィアさんがそう聞いてくると、レイラが一歩前に出て言った。
「私は数年ほど前、このサンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争が始まるより以前に、アレク様に一度命を救っていただいたことがありました……以来、私はアレク様に恩を返すべく、アレク様のためだけに生きてきましたので、そのアレク様のお住まいになられているサンドロテイム王国との戦争を反対するのは当然のことです」
「実際、彼女はエレノアード帝国潜入中の僕にとても協力してくれて、僕がこうして無事に帰ってこられたのも間違いなく彼女のおかげだよ……そして、彼女のことは、父上もサンドロテイム王国への滞在を認めてくださった」
「陛下もですか……!?……ならば」
オリヴィアさんは立ち上がると、レイラに右手を差し出して言った。
「君はもう私の同胞だ、エレノアード帝国潜入中のアレク様を支えてくれたことを心より感謝する……そしてこれからは、共にアレク様に忠を尽くすものとして、よろしく頼む」
騎士団長然とした凛々しい雰囲気で。
だけど小さく口角を上げて言ったオリヴィアさんに差し出された手を握り握手を交わすと、レイラは頷いて言った。
「はい、こちらこそ、よろしくお願い致します」
「……」
オリヴィアさんは、僕や父上のことを長い間悩ませているエレノアード帝国を恨んでいると言っていたから、もしかしたらエレノアード帝国生まれのレイラのことを受け入れてくれないかもしれない。
────なんて思っていたけど。
今互いに、優しい表情で握手をしている二人を見ていたら、そんな心配は必要無いことがよく伝わってきて、僕は心から安心した。
やがて二人が握手をするのをやめると、僕はオリヴィアさんに言った。
「今から僕とレイラは夕食を食べに食堂に行くんですけど、オリヴィアさんも一緒にどうですか?」
「っ!無論、私も殿下にお供致します!」
そう言ってくれたオリヴィアさんも含めて、僕たちは三人で食堂へ向けて王城内の廊下を歩き始める。
すると、僕の後ろを隣になって歩いている二人が話しを始めた。
「オリヴィアさんは、アレク様の剣術指南を担われているのですよね」
「そうだ」
「……ということは、アレク様よりも剣を扱えるのですか?」
「当然だ」
迷い無く言うオリヴィアさん。
だけど、実際その通りであるため、僕は特に何も異を挟まない。
「殿下の才は凄まじいものがあり、私が今まで剣を交えた相手の中で最も強かった者と言われれば、私は間違いなく殿下だと答えるが────殿下を守るために存在する私が、殿下に剣で遅れを取ることなど許されない」
「っ……!」
「私は常にそう思いながら鍛錬を積んでいる……故に、私はこれからも、殿下に剣で遅れを取ることはない」
僕に対して謙遜などすることなく、それこそが自らの役目だと力強く言い切ったオリヴィアさん。
その言葉を聞いたレイラの様子が気になって少し振り返ってみると、レイラは何かを考え込んでいるように沈黙していた。
そのレイラの様子が少し気に掛かったけど────その頃には。
僕たちは食堂に着いたため、僕たち三人は、レイラとオリヴィアさんが僕を挟む形になるように席に着いた。
目の前には、たくさんの料理が並べられている。
「サンドロテイム王国の料理……本当に、久しぶりだな」
この料理の香りや、王城で使われているお皿、ティーカップも。
何もかもが久しぶりで、僕は思わず感動を覚えながらも、早速二人と一緒に目の前にある料理を食べ始めた。
「っ……!美味しい……!!」
エレノアード帝国で料理を食べた時も美味しいと思ったことはあったけど、これはそういう美味しいじゃない。
サンドロテイム王国を感じる味、とでも表現しようか。
とにかく僕は、思わずその美味しさに声を上げていると、隣の二人も口を開いて言った。
「サンドロテイム王国の料理……本当に、美味しいですね」
「またこうして、殿下と共に食事をすることができているとは……久しく、食事が本当に美味に感じられます」
それからも、しばらくの間三人で一緒に食事をしていると。
「殿下!」
突然、オリヴィアさんが僕のことを呼んできたため、オリヴィアさんの方を向くと────
「っ!?」
オリヴィアさんが、フォークで刺した野菜を僕の口元に差し出してきた。
「殿下!あ〜んです!口を開いてください!」
「え!?い、いや、僕はもう子供じゃないですから、そんなことしなくても────」
「あ〜んです!殿下!!」
目を輝かせながら言ってくるオリヴィアさん。
僕だけではとても手に負えないと思った僕は、レイラの方を向いて言う。
「レイラ、悪いけど、レイラもオリヴィアさんの説得を手伝────っ!?」
レイラに、僕にあ〜んをしたいというオリヴィアさんの説得を頼もうとして振り返った……その瞬間。
レイラは、僕の口元に、同じく野菜の突き刺されたフォークを差し出してきて言った。
「セシフェリアさんたちから逃げるべく宿に泊まっていた時は、それどころではありませんでしたのでできませんでしたが……私も、オリヴィアさんのお話を聞いて、アレク様に料理を食べさせて差し上げたくなりました」
「え!?」
そんなレイラに驚愕して、僕は思わず視線を逃すように反対方向を見るも、そこからはオリヴィアさんが僕に料理を差し出そうとしてきていた。
「殿下!!」
「アレク様!!」
「……」
二人の様子を見るに、知らない間に、僕は二人から差し出された料理を食べるしかない状況に陥ってしまっていたため……
僕は恥ずかしさを感じながらも、大人しく二人から差し出された料理を口にした。
これで少しは、二人も落ち着いてくれるはず……と思ったけど────
「あぁ……!私の手で、直接アレク様にお料理を食べさせて差し上げられるとは……!これもまた、アレク様の傍に居るものとしての務めであり、アレク様の傍に居るものにしかできないこと……!このようなことをさせていただけるなど、私は本当に一体どれほど幸せ────」
「殿下がまた、あの頃のように私があ〜んをして差し上げた料理をお口に……!そこからは幼少の頃とはまた違った可愛らしさや愛らしさというように形容することのできるものがあり、殿下のことを幼少の頃より傍で見守らせている身としてこれほどまでに────」
レイラもオリヴィアさんも、頬を赤く染めながら、各々さらに落ち着きがなくなっていき……
しばらくの間、おかしな様子のまま何かを呟き続けていた。
僕は、しばらくの間この二人との生活が大丈夫だろうかと不安に思ったけど、普段は本当に真面目な二人だから、きっと大丈夫だと自らに言い聞かせることにした。
────この時の僕は、セシフェリアとの再会がもう間近まで迫ってきていることを、まだ……知らない。
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