体
「……」
ゆっくりと目を開いた僕の頭上には、見慣れない赤の天井があった。
辺りを見渡してみると、付いている灯りは小さなランプだけ。
そのランプからさらに視線を流すと……そこには。
高身長で深紅の髪。
大人びた綺麗な顔つきに、胸元の開けた服に黒タイツ。
そして黒のヒールの靴を履いた、眼光の鋭い女性────マーガレット・ヴァレンフォードの姿があった。
「っ!!」
ヴァレンフォードを視界に収めた瞬間。
僕は、ついさっきまでのことや、そして僕がヴァレンフォードによって意識を奪われてしまったことを完全に思い出し体を起こ────
「っ!?」
そうとするも、両手……だけじゃない。
両手両足が、僕が今横になっているベッドに鉄の拘束具で拘束されており、身動き一つ取ることができなかった。
「目が覚めたようだな」
ヴァレンフォードは僕と目を合わせてきて落ち着いた声色で言うも、僕は反対に力強く言った。
「僕は何をされたって、情報なんて吐かない!」
「情報……?あぁ……勘違いしているようだが、私は君を拷問するつもりはない」
「何……?」
僕が聞き返すと、ヴァレンフォードは僕の横になっているベッドと距離を縮めてきて言う。
「確かに君の有しているサンドロテイム王国の情報にも興味はあるが、私はそれ以上に君個人に興味がある」
「僕……個人に?」
「そうだ……私は、約二ヶ月ほど前からサンドロテイム王国が突然防衛体制に入り出した時から、サンドロテイム王国が自らの国すら囮として陽動を行っている可能性を考えていた」
「……」
「その陽動の内容だけがずっとわからなかったが、今日ようやく辿り着いた────その答えが、君だ」
僕の横になっているベッドに座ると、ヴァレンフォードはさらに続けて言う。
「まさか、奴隷としてこのエレノアード帝国に潜入して来ていたとは思ってもいなかった、思いついたとしてもそう簡単にできることじゃない……そして、仮に実行したとしても、私の元まで辿り着ける可能性は限りなく低い────が」
ヴァレンフォードは、僕の顔に自らの右手を添えて。
「君は、この私の元まで辿り着くことができた……愛国心と敵対心、優しさと冷徹さ、それらを持ちここまで来た君のことを、私は尊敬している」
敵である僕を、尊敬……?
意味がわからない……けど。
ヴァレンフォードの目を見ると、その言葉が嘘であるとは思えない。
「加えて、私は戦略というものを愛している……そして、文字通り私にとって未知の戦略というものを体現している君のことも愛している」
「っ!?あ、あなたは、何を言って────」
「理解できないのも、無理はないのだろう」
ヴァレンフォードは僕の顔から自らの手を離すと、自らの体を両腕で覆うようにして頬を赤く染めながら言った。
「だが、矛盾した感情をその身に宿し、未知の戦略によって私の元までやって来た君という存在を私は愛している……君の考えていることや、君がある事象に直面した時にどのような反応を見せるのか、そして私によって君がどんな変化を見せるのか、それらのことを全て知りたいと思っている」
何なんだ、この女性は……
このエレノアード帝国に来てから、異常と思えるような人物、出来事に遭遇して来たけど────間違いなく、このヴァレンフォードもその類だ。
「友人であるセシフェリアには異常性癖などと評されたことからも、この感覚が理解を得られないことはわかっている」
異常性癖……初めて、セシフェリアに共感できたような気がする。
だが、僕にとってはセシフェリアも異常であるため、そのことを本人にも自覚して欲しいところ────
「っ!?」
と考えていると。
ヴァレンフォードは、僕の紳士服の上着のボタンに手を掛けた。
「何をするつもりだ!?」
「君の体を見せてもらう……ふふっ、体を見せてもらう、か……男の体を見たいと思ったことなど、生まれて初めてだな」
可笑しそうに言いながら、僕の紳士服の上着を外していくヴァレンフォード。
抵抗しようとするも、両手両足が鉄の拘束具で拘束されてしまっているため全く抵抗することができない。
やがて、ヴァレンフォードは上着だけでなく中に着ている服のボタンまでをも外すと、僕の体を見て言う。
「これが、君の体か……私もある程度鍛えているつもりだったが、女の私とはやはり筋肉の付き方が違うな」
「っ……」
続けて、僕の上半身に手のひらで触れてくる。
「相当に鍛錬を積んでいるようだな、あれだけの剣の腕にも頷ける……顔は中性的だと思ったが、体はしっかりと男のようだ」
「……」
「男と言えば────君も、女の体に興味はあるのか?」
「っ!?」
じょ、女性の体!?
「ぼ、僕はそんなものに興味なんて無い!」
「ふふっ、君は嘘が下手だな……顔が赤くなっているぞ?」
「い、いきなりそんなことを聞かれたら、誰だって……」
僕が声を小さくして言うと、ヴァレンフォードは頬を赤く染めながら小さく口角を上げた。
そして、僕の膝上辺りに跨って言う。
「今から、君に私の体を見せよう……今まで男に見せたことはないが、君は特別だ」
「っ!そんなことしなくてい────」
そう言う僕の制止を聞かず。
ヴァレンフォードは上着を脱ぐと────上半身の下着姿を露わにした。
見てはいけない、見てはいけないとわかっているのに────僕は、思わずその姿に目を奪われた。
「……」
とても大人びた、ラグジュアリーな感じの黒の下着に、綺麗にくびれができた色白な体。
そして、あのセシフェリアよりもさらに一回りぐらい大きな胸に、腹筋に薄らと見える筋。
その体には、セシフェリアやレイラとはまた違った肉体美があって────思っていると。
ヴァレンフォードは頬を赤くして、恥ずかしそうにしながら言った。
「私の体を見せるとは言ったが、あまり長々とは見ないでくれ……そんなにも長い間見られると……恥ずかしいだろう」
「っ……!す、すみません、そういうつもりじゃ……!」
と、咄嗟に目を瞑ってしまった僕……だったけど。
すぐに目を開いて力強く言う。
「って!そっちが勝手に見せて来ておいて、そんなことを言われたって困る!」
「そうだな、すまない……この程度のことで羞恥を抱くなどそれこそ戦略家の恥だが、私もやはり君のような男の前ではただの女に過ぎないということか」
恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに言うヴァレンフォード。
……僕が今まで一番理解に苦しんだのはクレア・セシフェリアという女性だったけど、このマーガレット・ヴァレンフォードという女性も大概だ。
思考回路が全くわからない……!
「しかし、先ほどの君は愛らしい反応をしていたな……おそらく、あの優しく純朴な雰囲気が本来の君なのだろう?なら、私にもそう接してくれて構わない」
「そんなこと、できるわけがない!」
「それは残念だ……そして、もう一つ君にとって残念であろうことがある」
僕にとって、残念であろうこと……?
「何の話だ……?」
「……未知の戦略との出会い、君という男、君という男の体、そして初めて男に自らの体を見せているという状況────それらのことによって、どうやら私はもう、この興奮を抑えることができそうにないらしい」
「興奮を抑えることができない……?どういう意────」
僕が聞きかけた時。
ヴァレンフォードは、僕の紳士服のパンツに手を掛けると……
息を荒げながら、求めるように言った。
「ルーク……私と一つになり、君の全てを私に感じさせてくれ」
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