夜の外出許可

「夜……外に出たい?」


 僕が夜の外出許可を求めると、セシフェリアは冷たい目と暗い声色で呟く。

 すると、仕事中で椅子に座っていたセシフェリアは椅子から立ち上がると、僕との距離を縮めて言った。


「ちょっと前は、私との約束の時間破って夜に帰ってきたことを私に嘘吐いてまで弁明しようとしてたのに、ほんのちょっと時間が経っただけでよくそんなに堂々と私に夜外に出たいなんて言えたね……私はルークくんと仲良くなりたいとは思ってるけど、だからってルークくんが夜外に出て女と遊ぶことなんて絶対に許してあげないよ?それとも、私だと満足できないっていう当てつけなのかな?だとしたら、今から強引にでもルークくんのこと気持ち良くしてあげてもう二度とそんなこと言えないように────」

「待ってください、僕が夜外に出たいと言ったのは女の人と遊ぶとか、そういう理由じゃありません」


 仮にも娼館という場所が近くの街にある状況で夜外に出たいと言えば、そう解釈してしまうのも無理は無いが、それにしても相変わらず突飛な思考をしているセシフェリアの言葉を僕は止める。

 そして、続けて言う。


「今日の夜、教会で身近な人の幸福を祈るという会があるそうなんです」

「幸福を祈る会……?そういえば、そんな紙届いてたような……」

「そうです……それで、今日の夜は教会に赴いて、セシフェリアさんの幸福をお祈りしようと思ったんです」

「え!?わ、私の!?」


 そう伝えると、セシフェリアは冷たい目と暗い声色をやめ、目に光を、声に明るさを取り戻して驚いた様子だった。

 そんなセシフェリアさんに対して、僕は頷いて話す。


「はい、セシフェリアさんには普段からお世話になっているので、僕もお礼に、セシフェリアさんのために何か小さなことでもできたらと思いました」

「っ〜!」


 嬉しそうな表情で声にもならない声を上げたセシフェリアは、その調子のまま僕に向けて言った。


「え〜!ルークくんがそんな風に思ってくれてたなんて、私嬉しいな〜!でも、私はルークくんがわざわざ教会まで行って出向いてくれなくても、傍に居てくれるだけで幸せだよ〜!」

「いえ、傍に居るだけじゃなくて、僕はしっかりとセシフェリアさんの幸福を祈りたいんです!」

「ルークくん……!でも、いくら私のためって言っても、夜にルークくんのことを外に出すなんて……そうだ!ルークくんを一人で外に出すのが不安なら、護衛も付けてあげたり、単純に私がついて行けばいいよね!」

「幸福を祈りたいと思っている本人との同伴はダメだそうです、遠くから祈ることに意味があると聞きました」

「何それ〜!!」

「でも、大丈夫です……今日は、教会の人たちが街や教会周辺の警備をしてくれているそうなので、何か揉め事が起きても心配ありません」


 いつもだったらセシフェリアに言いくるめられてしまっていたところだと思うけど、今回はレイラにしてもらったからそうはいかない。

 協力の内容は、急遽レイラに幸福を祈る会というものを開催してもらうということと、そのことの喧伝。

 それらは全て、僕が今日夜外に出る口実のためで、セシフェリアのためという動機付けがあれば、頭ごなしに否定はしてこないと踏んでいた……つまり、ここまでは全て予定調和ということだ。

 できれば、これだけで外に行く許可を出してもらいたいところ……だが。


「そうは言っても、やっぱり夜外にルークくんのことを外に出すのは色々と心配になっちゃうなぁ、ルークくんが娼館に行ったらすぐに私に連絡が来る手筈にはなってるけど……」


 娼館でそんな連絡網が作られていたのは知らなかったが、僕は娼館に行く予定は今後も一生無いため、特に覚えておかなくても良い情報だろう。

 それはそれとして────やっぱり、これだけだと外出の許可を出してくれはしないらしい。


「……どうしたら、僕が外に出ても良いと許可を出してくれますか?」

「……ルークくんが、私を安心させてくれるような適切なをしてくれるか、それとも私のを聞いてくれるかのどちらかで許可してあげる」


 どちらも僕にとってはハードルが高いが、前者は能動的に、かつ的確にセシフェリアの思考を読まないといけないのに比べて、後者は受動的にセシフェリアの願いを聞き届け実行するだけで良い。

 それがどんなものになったとしても、この先にサンドロテイム王国を救うための一歩が待っているのだとしたら……!


「セシフェリアさんのお願いを、聞かせてください」

「いいよ……じゃあ、二人で寝室行こっか」

「……はい」


 わかっていたことだが、セシフェリアのお願いというものが寝室以外で行われるような僕にとって優しいものであるはずもなく、僕たちは二人で寝室へ向かうとセシフェリアのベッドの上に座った。

 すると、セシフェリアは僕の方を向いて言う。


「今日は、ルークくんが私の服脱がせて?」

「……え?」

「今までルークくんから私の服脱がせてくれたこと無かったから、憧れてたんだよね〜!全部脱がせてくれたら、あとは私がおっぱいしてあげるの……それをさせてくれたら、今日私以外の女とそういうことはしないって信じてあげる」


 受動的な答えを選んだはずが、まさか僕の方からセシフェリアの服を脱がせることを要求されるなんて……それも、上の服を全部。

 そんなことをさせられるなんて、絶対に嫌……だけど、そうしないとサンドロテイム王国を救えないって言うなら、僕は……!


「……」


 恥ずかしいと感じながらもセシフェリアの貴族服のボタンを外して脱がせると、次に下に着ているブラウスのボタンを外していく。

 次々にボタンが外れていっていると、セシフェリアが頬を赤らめて言った。


「ルークくんにこうして服を脱がせられるの、ルークくんの方から求められてるって感じがして良いね……癖になっちゃいそう……」


 頼むからそんな癖は作らないでくれ。

 心の底からそう願いながらもボタンを外すと、ブラウスも脱がし終えて、あと僕が脱がせないといけないのは下着だけとなった。


「ルークくんに脱がせられちゃった……あとは下着だけだね!」

「……はい」


 僕はできるだけセシフェリアの体に僕の手が触れないよう慎重にセシフェリアの背中に両手を回した────その時。

 セシフェリアは、突如僕のことを抱きしめてきた。


「セ、セシフェリアさん!?」

「ねぇねぇ、これ、今私たち抱きしめ合ってるみたいじゃない!?ほら、ルークくんも、私のこと抱き寄せるように強く抱きしめてくれて良いんだよ?」

「し、しませんから!」

「あっ」


 そう言って引き離すと、僕は続けてセシフェリアの下着のホックに手を掛けて、それを外すとセシフェリアの下着を脱がせた。


「あ、ルークくん目閉じてる〜!見てくれても良いのに、本当可愛いね〜!でも、いつかはおっぱい見てほしいなぁ、私大きさにも形にも自信あるから!」


 敵国の女性の胸なんて直接見られるわけがないし、絶対に見ない!


「まぁ、でも今は……ルークくん、よく私のこと最後まで脱がせてくれたね〜!偉いよ〜!お礼に、ちゃんとおっぱいしてあげるからね〜」

「お礼って、これはセシフェリアさんが────っ」

「は〜い、おっぱいで包んであげるね〜」


 反論しようとしたところで、抱きしめられると同時に、僕の顔は柔らかなものに包まれてしまった。

 それにより口が塞がれてしまうと、セシフェリアは嬉しそうな声色で言った。


「前も同じことしたけど、ルークくんに脱がせてもらってやってると思うと全然違う感じだね……ルークくんも、思う存分おっぱい堪能してね!」

「……」

「……ルークくん?返事は?」

「……はい」


 この状況でセシフェリアの機嫌を損なうわけにはいかないためそう答えると、セシフェリアは僕のことを抱きしめる力を強め、僕の頭を撫で始めながら言った。


「ちゃんとお返事できて偉いね〜!そんなルークくんには、おっぱいしてあげるだけじゃなくて、ちゃんと頭も撫でてあげるからね〜」


 ……徐々にだけど、セシフェリアの行うことの過激さが増している。

 早いところ決着を着けないと、とどうなってしまうかわからない。

 ……こんな状況を打破するためにも、今夜は必ずレイラと一緒にペルデドールを抑えてみせる!

 嬉しそうな声でずっと何かを呟いているセシフェリアの胸の間に居ながらも、僕は心の中でそう意気込んだ。

 ────この時の僕は、ペルデドールを抑えることしか見ていなかった……だから、まかさこの夜が原因となって、レイラの僕に対する想いが溢れ、後日になってしまうとは、全く予想だにしていなかった。

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