戯曲風「忠治」(chuji)
鬼伯 (kihaku)
第1話 ナナちゃん
戯曲風 「忠 治(ちゅうじ)」
作・鬼伯(kihaku)
△01 七(なな)ちゃん
・ショパンの「革命のエチュード」が幽かに聞こえる。
・誰かがささやく。
誰か「ショパンは歌謡曲だ」
・それに誰かが反応する。
誰か「国定忠治とは合わねえ」
・上野(こうずけ)のくに国定(くにさだ)の地から赤城山(あかぎやま)が見
える。屏風のようにそびえる赤城山の遠景。
・JR両毛線の国定駅から女子高生が何人かおりてくる。その内の二人、
お徳(徳美(とくみ))と小町(町葉(まちは))が駅舎を出ると立ち止ま
る。
・お徳が赤城山にむかって、左手で通学カバンをつきだし、右手を刀の
ように高くかかげて、声をあげる。
お徳「きょうも赤城という強え味方が――」
・その恰好が奇天烈で小町がわらう。
小町「なにそれ?」
お徳「きょうの音楽、面白かったァ」
小町「嫌いじゃなかったン? 音楽」
お徳「クラッシックっつうの、あんなの嫌えだよ。バッカがどうのモーがどうのベ
ーがどうのなんて退屈じゃんじゃん。それがサーきょうはサー」
・目を光らせるお徳。
・バッカはバッハ、モーはモーツアルト、ベーはベートーヴェン。
お徳「音楽の今浜(いまはま)先生が体調不良で早引けしたの。急なことで振替授業も
ままならないってんで、空き時間だった担任の七(ナナ)ちゃんが、『おれが音
楽の話をしてやる。それで音楽の時間になるだろ』って、なったわけ」
小町「じゃーハチャメチャで面白かったってわけ? 七ちゃんは国語で、スーパー
音痴で、おれはカラオケが好きだなんてやつの気が知れん、知れん知れんだ
から」
・七ちゃん=畑津守(はたつもり)七雄(ななお)、クラス担任教諭。
・小町は七ちゃんの真似をしてケケケとわらう。
・お徳は芝居がかった口調をつづける。
お徳「それがさ、人って分からねえよな。めっぽう面白かったんでござんすヨ」
小町「それが、強え味方が――になんの?」
お徳「七ちゃんが、まあこうよ、『諸君、よーく見たまえ、聞きたまえ』っていっ
てね。パチンと両手をたたくと手の先から鳩のようにCDが出てきて、その
マジックにみんな、へーえええって、一コロ・二コロ・三コロロ、四五六(し
ごろ)がなくて七つ七ちゃんパッパカパー」
・次の「前へー!すすめ」は体育の号令のように。
小町「わかった、四(し)の五のはいいから、前へー!すすめ」
お徳「七ちゃんがCDをかけて、七ちゃんつづけまーす」
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