【フリー台本】呑む【ホラー】

つづり

第1話 呑む

 私とA子はかなり仲のいい友達でした。

性格の相性の良さはもちろん、私はA子の長い髪が特に好きで

どうやったらそこまできれいになれるのーと聞いたり

A子も私に褒められるのが嬉しそうで、ちょっと照れ笑いしながら、私の質問に答えてくれました。


始終一緒で、日曜日に、ご飯食べに行こうよとか

おそろいのアクセサリーを買って、つけあったりして

私達はとっても幸せな関係だったと思うんです。


 でも、その関係はA子に彼氏が出来たことで終わってしまいました。

A子は私といっしょにいても、彼がこうしてくれた。

とっても素敵なんだよと自慢したり、私との時間も以前より格段に短くなっていきました。


 私はそんなことになって、しかたないなんて思えなかった。

A子といっしょにいることが幸せで仕方なかったから。


 だから、ほんと、出来心だったんです。

私から離れていくA子にちょっと痛い目にあってもらおうかと思って

彼女の大好きな彼氏にちょっかいをかけたんです。


 単純な男で、私が甘い言葉やアプローチをかけるだけで

とても有頂天。私はA子がとても大事にしていた彼と

浮気関係になりました。


 もちろん私は、彼に愛情なんてなかったんですけどね。

ただA子が私のもとに戻ってほしかった。

それだけだったんです。


だから慎重に浮気をしても行動してました。

彼が私に夢中になってA子と別れればそれだけでばんばんざいでしたから。

でも、なんでしょう……気をつけたはずなのに、バレちゃったんです。


 A子はおかしくなってしまいました。

部屋から一歩も出なくなって、何があったんだろうと、彼女のお母さんから連絡があるくらいでした。

「何か知らない?」という単純な疑問の声すら恐ろしくなりました。

 だって彼女を壊したのは、信頼していた私と愛してた彼の浮気にまちがいないんですから。


 このまま、このまま……素知らぬふりをしたほうがいいのかと思いました。

そうしたほうが罪悪感を感じつつも、それでも生きていけるんじゃないかなって。

でも、そんな悠長なことを考えている場合じゃなくなったんです。


 A子から連絡が来たんです。

真っ赤な文字で、たくさん、たくさん、画面いっぱいなくらいに


「シネ」という文字が……書き連ねていたのです。


 彼女はそれまで、彼と浮気した私に対して何も言ってきませんでした。

奇妙なくらい静かだったんです。その静けさは不気味さと罪悪感を募らせるだけ十分な態度ではありましたが……。


 しかしそんな中、初めて彼女が出したメッセージは【シネ……】

私はいても立ってもいられず、彼女の家、そして部屋に向かいました。


「ねぇ、A子。ねえ。ごめんね、話をさせて」


 私は部屋のドアを叩きながら言いました。

しかし反応はありません、沈黙を守っているのでしょうかと思っていると。

ドアが、ひとりでに、開いたんです。きぃと音を立てて、まるで私を招き入れるように。


「A子、ごめんね、話を聞いて!!」


 私は彼女の部屋に飛び込むように入って、そして次の瞬間。


「いやぁあああああああ」


と叫んでいました。

 彼女は黒く長い髪を口につめこんでつめこんで、死んでいたのです。

私の方を恨みがましく、目を見開きながら見つめて。


 それはまるで人の遺体……というより、呪物となった何かのようでした。


「嘘でしょ……」


私は彼女の遺体の側の床をみました。

そこには、爪で刻ん様だ赤い傷がありました。


【しね……】とありました。



 今、私は……平穏に暮らしています。

というのも、直感的にA子が死んで終わりと思えなかった私は

有名な寺院に行って、お祓いをうけたのです。

 A子の死んだ姿に衝撃をうけての悪夢を見ることはありますが

それでも、私は無事に……無事……?


 私は手が震えました。


 知らず知らずに伸ばした長い髪を私は口元に持っていって

食べているのです。その量はどんどん増えていき、飲むこむように髪の毛を

口に運んでいました。あまりの量に喉が苦しくなります。


 なぜ、私がこんなことをするのかわかりません。

わかりませんが。背中に寄り添うような気配を感じます。

 懐かしい雰囲気がします。ずっといっしょにいて、今、姿を表したような……。


 私は喉に詰まる感触に苦しんで、倒れました。

やめたい、やめてほしい、誰か、止めて! 誰か!!!

 意識が落ちる最後の瞬間。視界に見えたのは。


 髪の毛を私の口に押し込むA子の姿でした。

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【フリー台本】呑む【ホラー】 つづり @hujiiroame

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