【最終章開始】我ら新興文明保護艦隊 ~アンドロイドはモフモフデカ猫の夢を見るか?~

ビーデシオン

プロローグ(読み飛ばし可能)

プロローグ とある此方の奈良公園で……

まえがき


プロローグですので、一度読み飛ばして頂いても問題ありません。

(もし可能でしたら背景色を黒にして、壮大なオープニングテーマを流しながらお楽しみください)

=====











 銀河を束ねる多種族国家、



 アロメダ合星国。



 五千を超える種族から構成されるそれは、



 種族の多様性と、



 文明を持つ種族間の共生を何よりも重視している。


 

 その理念に当てはめられるのは、



 合星国に加盟済みの種族だけに留まらない。



 まあそうは言っても今の時代相互惑星間交流を実現している星の中で合星国に加盟していないところなんて辺境すぎてずっと弱肉強食のバーサーカーどもが跋扈ばっこし続けている脳筋文明くらいしかないわけなのだが。



 ……例外がある。



 それが、ある一定の文明を築き上げながらも、


 

 完全な宇宙進出を果たしておらず。



 異星人の観測も成し遂げられていない星の種族。



 アロメダ合星国が「新興文明」と呼ぶ者達だ。



 そして、そんな種族たちが……



 新興文明が無事に繁栄していけるよう、陰ながら見守り続けるのが、



 我ら新興文明保護艦隊である。



 ……ちなみにこれは先輩から聞いた話なんだけど。



 アロメダ合星国は、新興文明がこっちの存在を知らないのをいいことに、惑星上のそこかしこに観光施設を立てまくっているらしい。



 いわゆるインバウンド狙いというやつで、外星人が利用できる店舗は実質的に全て艦隊が取り仕切っているわけだから、それはもう莫大な利益を出しているそうだ。



 もっというと一部の界隈では保護艦隊エージェントの仕事は新興文明を守ることではなく観光事業で荒稼ぎした後の尻拭いだなんて言われているみたいだ。



 ……そうして得られた儲けによって、艦隊は維持され、運営される。



 まあ、資本主義の汚い話はさておき。



 とにかくこれは、そんな新興文明保護艦隊の中で。



 地球支部は日本国。



 奈良県奈良市担当の、新人エージェントとなった僕が、



 記憶の彼方、幼少期によくしてくれたはずの、


 

 大切な人を見つけるために頑張って働く……



 そんなシナリオだ…………



◇◆◇◆◇



 奈良県某所。地平線に隠れた太陽が朝露を輝かせる早朝。黄緑色の芝生に覆われた斜面を地響きが揺らす。騒々しさの元凶は、とあるただ一つの目標に向けて猛進する鹿の大群。そして、彼らが追い付かんとしている、ただ一つの目標が何なのかと言えば……


「あと何分ですかっ!!」


 それは、僕である。


 具体的には、後頭部を始めとした全身十か所に、専用の再生紙バンドで鹿用おやつせんべいを固定している僕である。悪魔的な魅力で老若男女問わず鹿を引き寄せる、呪いのご当地アイテムを装備させられた僕である。


 僕は今、鹿の大群に追われながら、自然豊かな丘岡を全速力で走っている。それも、昨晩と変わらないリクルートスーツ姿で。


「ネネットによると、あと十分ですね」

「もう十分でしょう!」

「いえ、十分です。てんみにっつ」


 はははこりゃ一本取られたな、じゃないんだよ。本来小鳥がさえずるくらいで済むはずの穏やかな朝を、合戦の喧騒に仕立て上げられてもう数十分は経つ。


 いくらこの辺りが人目に付かない場所であるとしても、そろそろ何かしらの問題が起き始めるんじゃないのか。いくらここの鹿たちが自然環境に慣れているとしても、この大渋滞が事故を引き起こす可能性だってあるんじゃないのか。


「危ない!」


 思考を回しながら、眼前に現れた小岩を飛び越えたところで、そんな声が脳裏に響いた。普段落ち着いているオペレーターさんが声をあげるのだ、大方さっきの小岩で鹿が何匹かつまづきでもしたのだろう。


 というか、僕だって避けられていなかったらペシャンコにされていたかも知れない。やっぱりこんなに危険な体力テストは今すぐ止めるべきですよ。そう思いますよね?


「ふう、せんべいが割れるところでしたよ」

「他にもっと心配した方がいいことありません!?」


 危ないってそっちのことですか。確かにチラッと後ろを見てみても、鬼ごっこから脱落したシカがいるようには見えませんが、僕の心配も無しですか。

 というか、いくら元が機械の体でも擬態状態では無理が利かないんですが、本当にまだ終わらないんですか。


「ほらほら、センサーによれば、現在先頭のシカはそれなりに立派な角を持っていますよ。まだ人の手が入っていないみたいですね」

「そんなことどうでも……ってうわあほんとだ!」


 振り向けば、成長中らしき角を伸ばした頭頂部をこちらに向け、近年稀に見るおっかなさの上目遣いでこちらを猛追するシカが見えてしまった。


「お願いだから早く終わってくれぇ!」


 そんなこんなで、いずれ僕は、全身に鹿せんべいを巻き付けて鹿の大群に猛追されることになるわけだけど。

 その理由を説明するには、一週間前に遡る必要がある。

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