前世と前前世を思い出した悪役令嬢、家出をして平民になる!〜処刑を回避したいご令嬢の奮闘記〜

香月蘭奈

第1話 プロローグ

下界、神界、天界、この3つの世界はどの空間に置いても必ず存在し、神界に在する神々たちは生き物たちが暮らす下界と呼ばれる世界を自由に生み出すことが出来るのだ。

下界を生み出した神はその世界においては創造神と呼ばれる称号を手にすることができ、貢物を一定の期間、一定の割合で受け取れる。


下界を生み出した神は上級アルファの座に着くことができ、神界において発言権を有することが許され、権力を振るうことが可能だ。


そんな上級アルファの座に着いている優秀で、四天王神にも気に入れられている女神『アミューラ』が禁忌を犯したという話がある日、神界を駆け巡った。

流れるような藍色の神に金色に光り輝く目、といった容姿は他の目を引きつけるには充分な程、美しい。アミューラは、優秀な能力を持っているが、その性格は自由奔放で問題児だった。


「アミューラ、此度の事はさすがに見逃すことができんな」

「絶対にあれだけは、やらないと思っていたわよ。アミューラ」


四天王神...神々の中で1番位が高い四人の神々たち。アミューラは今回起こした、前代未聞の出来事についての聴取を受けているところだ。


「神界への裏切りと見なすがそれでよいな?」


彼女は死者の時間を逆行してしまった。1度死んだはずの人の人生をやり直す機会を与えたということだ。

神界において、これは禁忌とされている。人生は1度っきり、この考え方が根付いているのだ。


「そうですね。この事は禁忌です。ただ、一つだけ言わせてもらうとすれば私は知りたい。」

「知りたい、だと?」


さすがに、いくら問題児として名を馳せているアミューラでも今回のことは許されないという自覚はあった。ただ、そのリスクを犯してでも知りたくなってしまったのだ。


「悪と善が交差したらどうなるのか、悪女と呼ばれた彼女は、変わるのかが知りたい。」

「それはなぜ?」


神という存在は結局はどれも同じなのだろうか。あれほど、禁忌を犯した事実を、厳しい目で見ていたというのに、今では話を聞く姿勢を見せている。


「死ぬとき、あの子はとても綺麗な魂をしていたんです。悪女なのに、全く後悔していないようだった。」

「ほう?」


膝をつき、頭を垂れていた彼女がおもむろに立ち上がる。そして、その唇に微かな微笑みををやどしたかと思うと、一言こう言った。


「四天王神様、それでは一つ賭けを致しませんか?」


この賭けの内容を聞いた四天王神たちは、アミューラの処罰を一旦取りやめにし、賭けるものをアミューラの降格とした。


このとき、アミューラが提案した賭けに乗った時点で、定められたシナリオが狂い始めていることも気づかずに.....


♢♢♢


漆黒の闇に包まれ、辺りは全く見えない中、聞こえてくるのは何かが風を切り裂く音。


「俺は強くなってみせる。いつか、大切な人を守るために...」


男がそう呟く。ちょうどその時、何かの雄叫びも共に聞こえてくるかと思ったら、その男が詠唱を唱え始めた。


「氷魔術 第3系統 氷塊」


次の瞬間、何かがドサッと倒れ込む音がした。真っ暗闇で何なのかは判別できない。


「魔術...ほんとに俺は、どこの...誰なんだろうな」


男が呆然としたような悲しむようなそんな声色で呟いた。


♢♢♢


「全部、思い出したけれど...うそでしょおおお!?」



──

女神のイタズラにより、全てを巻き込んだ運命の歯車が新たに周り始めようとしている。その先に待っているのが破滅か、幸福か、それは誰にも分からないのだろう。


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