二

アンジェリーナがマークと婚姻し、エーデルの勢力は弱まる__はずだった。


__円卓の間にて。

「このままでは、レディートは国諸共滅びてしまう!」

「もう、エーデルに降参するしか……」

「馬鹿なことを言うな! そんなことをすれば、我々も民も、一生奴隷のように働かせられるのだぞ! 大事な妻や子に生き地獄を味わわせたいのか!」

「レディートの領地や食料を分けてはどうだ?」

「そんなもの一時的にしか過ぎないだろう。奴らは次を欲しがるに決まっている」

「なら、どうしろと言うのだ!」

 白熱する議論。深刻な顔をするアルバートの向かい側、アレンは静かに目を伏せていた。

「アルバート様は、どうお考えですか」

 ケルベルトの言葉に、みんなの視線はアルバートに集まる。

「……できれば戦争は避けたいです。みなさんも思われている通り、民を犠牲にするのはもうたくさんです。ですが、エーデルが話し合いに応じるとも思えない」

 なす術がない。今のレディートはそんな状況だ。

 同盟を結び、古くから親交のあるスワン国の王女であるアンジェリーが、予知の才を持つベーベル国のマークと結婚。これにより、スワンとベーベルは同盟が結ばれた。戦争が起こるとなれば、スワンはレディートに軍事支援をするのは明白。ベーベルも、黙って見ていることはしないだろう。そんなリスクがあろうとも、エーデルは勢力を弱めない。

 貴族たちは焦る。

 しかし、アレンには、他の誰以上に、その理由が明白に分かっていた。

 気休めにしかならない。心のどこかでそんなことはなから分かっていたのかも知れない。だからこそ、今、自分はこんなにも心穏やかで、冷静にいられるのだろう。

(予知されるより、俺が恐ろしいということか……)

「するしかないだろう」

 アルバートに向けられていた視線が、一斉にアレンに向けられる。

「するって……何をですか」

 一人の貴族が、控えめにアレンに尋ねる。

「戦争だ」

 その言葉に、円卓の間にいた全員が震撼した。

「本気ですか?」

 いつになく真剣に問うケルベルト。

「この期に及んで冗談を言うとでも? もうそれしか方法がないことくらい、貴様たちも分かっているだろう。早ければ、明日にでも、エーデルは動き出すかもしれないな」

「確かに、戦争は免れない状況でしょう。しかし、我々レディートに、勝ち目があるとは、到底、思えません」

 エーデルは軍事国家。人口、領地、武器、どれをおいても他国がエーデルに勝るものなどない。たとえスワンの支援を受けようとも、ベーベルが手を貸そうとも、ケルベルトの言う通り、今のまま戦争をすれば、レディートは確実に負ける。

「……」

 ケルベルトが意見しているというのに、沈黙するアレン。

 その姿に、みんな唖然として見ていた。

 アレンがこのような様子を見せことは、今まで一度たりともなかったのだ。

「アレン……?」

アルバートの呼びかけにも、アレンは何も言わない。ただ一点を見つめ、何かを、誰を思い浮かべているようだった。

(きっとあいつは、俺を恨むだろうな……)

 遠くを見ていたアレンが、思い耽るのを止める。

 そして、いつものように、冷徹な瞳で、貴族たちを見据える。

「戦地には、我々、騎士団のみ赴く」

 その発言に、円卓の間はざわつく。

「いくらレディート国の騎士団とはいえ、それはあまりに無謀です」

「僕も得策だとは思えないよ。悪いけど、許可出来ない」

 ケルベルトに続き、厳しい視線をアレンに送るアルバート。

 しかし、アレンは目を逸らすことなくいいのける。

「あなたの許可がなくとも可能だ」

 そう言われ、考えるように、意見に皺を寄せるアルバート。

 そして、ハッとしたように大きく目を見開いた。

「まさか……」

 立ち上がったアルバートは、血相を変えた様子で、円卓の間を出ていく。

「アルバート様……!」

 その様子を見て、クラウトも後を追って出ていく。

 混乱する円卓の間。

「会議は終わりだ」

 貴族たちをよそに、アレンは淡々とそう言い、円卓の間を出ていく。


 円卓の間を出ると、誰かとぶつかった。

「すいません」

 花の香り。愛らしい声。

 見下ろすと、予想どり、そこにはエルダがいた。

(タイミングが悪すぎる……)

 エルダはアレンだと気づくと、一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに不安げに聞いてきた。

「あの……一体、何が……」

 どうやら、血相を変えて円卓の間を飛び出していったアルバートを見ていたらしい。

 無視するべきか迷ったが、この際、ハッキリ言っておくべきだと思った。

「部外者のお前には関係のないことだ」

 アレンが冷たくそう言い放つと、エルダは悲しげに顔を歪ませた。

 その表情に、ひどく胸が痛んだ。

「アレン様」

 気がつくと、後ろにケルベルトがいた。

 ケルベルトは厳しい顔をして、アレンに近寄ってきた。

「先ほどのご決断は、いかがなものかと」

 そんなケルベルトに、アレンは顔色ひとつ変えず応える。

「国王陛下の決定だ。異論はないだろう?」

 二人に挟まれ、混乱するエルダをよそに、ケルベルトはアレンの胸ぐらに掴み掛かった。

「ケルベルト伯爵……!」

 エルダが咄嗟に間に入り止めようとするとも、ケルベルトは腕の力を弱めることはしない。

「あなた……死ぬおつもりですか……?」

「え……」

 ケルベルトの言葉に、エルダは言葉を失った。

「……何を言っているのだ?」

 理解に苦しむと言うアレン。

 そんなアレンに、ケルベルトの表情はさらに厳しくなっていく。

「ではなぜ! あのようなご決断をなさったのですか! あなたほどの聡明な方が、今の状況で戦争をしてしまえば、どうなるかくらい、分からないはずがありません!!」

 息が上がるほどに、アレンに問いかけるケルベルト。

 それでも、アレンの表情が変わることない。

(老耄が、こんな時にまで、俺に意見をするなんてな……もう、ほっとけばいいものの)

 緊迫した空気を破ったのは、アレンの重苦しいため息だった。

「老耄に出来ることなど、高が知れている」

 冷めた、冷酷な藤色の瞳。その美しい容姿が、彼の残酷さを、物語らせてしまう。

 ケルベルトの赤い瞳が、光を失ったように冷めていく。

 そして、衰退したように、アレンの胸ぐらから手が離れた。

「アレン様……!!」

 立ち去ろうとするアレンの片手を掴むエルダ。

「行かないで……」

 懸命に願い、縋る声。

 手にぎゅっと力を入れ、強くアレンの手を握るエルダ。

 彼女の気持ちが、痛いくらいに伝わった。

 だが__。

 アレンは、その手を力づくで振り解くと、足早にその場を立ち去った。

 エルダの悲しみに暮れる視線が、背中に突き刺さった。

 人知れず歩き続けると、廊下の壁にもたれた。

 上手く息が出来ない。

 苦しそうに、愛おしそうに、自分を見上げるエルダの顔が浮かぶ。

「……くっ……」

 そのまま、ずるずると引きずられるように、床に座り込んだ。

 鼻の奥がつんとした。目頭が熱い。胸が引き裂かれるような思いだ。

 どうして気づいてしまったのだろうか。どうして知ってしまったのだろうか。こんな想いをするくらいならば、いっそ。いっそ。

(……出逢わなければよかった……)


「どういうつもりなの……!?」

 部屋に入るないなや、アルバートはベッドに横たわるヒーデルを怒鳴った。

 徐に目を開けるヒーデル。

「……なんの、話だ」

「アレンのことに決まっているでしょ! どうして戦争をする許可なんてしたのさ!」

 自分より決定権を持つのは、父親であり国王であるヒーデルしかいない。それに気付いたからこそ、アルバートはここに来た。

 咳き込むヒーデル。アルバートはサイドテーブルに置いてあったコップに水を注ぐと、ヒーデルの背中を支え水を飲ませた。

 水を一口飲んだヒーデルは、か細い声で話し始める。

「おそらく、あいつは死ぬつもりだ」

「死ぬって、なんで……」

「あいつは、自分が死ねば、国同士が争う必要はなくなると思っている」

 人操る才を持っているアレン。そのせいで、エーデルとの関係には壁ができ、レディートを警戒。そして今、戦争が起きようとしている。

 アルバートも、そんなことないと思いたいが、それは事実だ。

 原因である自分が死ねば、全て丸く収まるとでも思っているのだろう。

 だが、そんなものは間違っている。

「そんなのおかしいよ……」

 弱々しく言葉を吐くアルバート。

「私だってそう思う」

 ヒーデルは悲しそうに目を細めた。

「あいつにとって、生きていること。それは……死んでると同じ。辛すぎるのだ」

 呪いの子だと人々から非難され、家族と縁を切られ、居場所もなく、一人で生きてきた。それは、例えようのないほどの孤独だ。

 アレンは優しい。そんなアレンが、自分が原因で国と民、エルダを危険に晒しているとなれば、辛すぎて死にたくもなる。

 アレンの心は、限界を迎えていた。

「でもだからって、見殺しになんてしない」

 何もせずに指を咥えて見ていることは、もうしたくない。自分はあの頃のように、無力な子供ではない。アルバートそう思っていた。

「そう焦るなアルバート。私も、何も諦めてそう言っているわけではない。望みはある」

「……?」

「エルダを、彼女をここに呼んでくれ」


(また、あの日みたいに、遠ざかって行く背中を見ていた)

「エルダ嬢」

 ケルベルトの呼びかけでハッとする。

「あ……すいません。私……」

「いえ……」

 弱々しい赤い瞳。どこか余裕があって、高みの見物をしている姿勢があった彼も、今は心穏やかとは言っていられないようだ。

「それにしても、お久しぶりにですね。お会いするのは夜会のとき以来だ」

「……気付いておられたのですね」

 エルダを気遣って、少し申し訳なさそうに頷くケルベルト。

 さすがは国王陛下の右腕と言われた人物。名前も知っているあたり、エルダが何者かも、アルバートの偽婚約者を演じていたことも、全て知っているのだろう。

(私のこと、分かっていて今まで黙ってくれていた。さっきのアレン様への態度だって、きっとアレン様を心配しているから。ケルベルト伯爵も、悪い人ではないはず)

「あの、さっき言ってた、アレン様が死ぬつもりって……それに、戦争がどうって……」

 エルダの問いに、ケルベルトは顔を曇らせた。

「あなたは、アレン様の才について、ご存知なのですよね?」

「……はい」

「エーデルが恐れているもの。それが、人操の才を持つアレン様自身。そのアレン様がいなくなったとなれば、エーデルは軍事徴兵制度を廃止し、村人たちは解放される。レディートは戦わずにすむ。結果、自国と民は守られる。それが、アレン様の出された答えです」

 それは、エルダにとっても、アルバートにとっても、最悪な結末だ。

「あの聡明なお方が、随分と簡単な結論を出されたものです。……そんなことをしても、誰も喜ばないのに……」

 両手の拳をきつく握り締め、エルダから顔を背けるケルベルト。その横顔は、怒りも感じられたが、アレンを思い苦しんでいるようだった。

(アレン様はきっと知らない。私達が、どれだけアレン様を想い、愛しているのか。アレン様がいなくなってしまったら、悲しむ人はたくさんいる。それをちゃんと知ってほしい)

 遠くから足音が近づいてくる。

 ケルベルトの視線の先、振り向くと、クラウトがこちらにやって来ていた。

「エルダさん、陛下がお呼びです」

 

 部屋に行くと、そこにはアルバートの姿もあった。アルバートは、悲痛そうに顔を歪めている。

(アルくん……)

 ヒーデルは横に来るよう、エルダに手招きをした。

 エルダはベッドの横、両膝をついた。

 ヒーデルがゆっくりと口を動かす。小さな声で、何かを言おうとしている。

 エルダはヒーデルの口元に顔を寄せた。

「引き出しのメモ……」

(引き出し? メモ?)

 弱々しい指先が示したのは、執務机だった。

 エルダは立ち上がり、執務机の引き出しを開ける。

 そこには、正方形型の小さなメモ用紙が一枚、入っていた。

 メモ用紙には、どこかの住所が記載されている。

 メモ用紙を手に取り、再びベッドの横に両膝をつく。

 ヒーデルは大きく咳払いをすると、確かに言った。

「そこに、ダニエラがいる」

「……!」

 ヒーデルの言葉に、エルダは自分の耳を疑った。

「本当、ですか……? 生きて、おられるのですか……? アレン様のお母様は……」

 エルダの目を見て、ゆっくりと頷くヒーデル。

 エルダは手に握られたメモ用紙を凝視した。

 住所は、ここから遠く離れた、町のはずれにある村のものだった。

(ここに、ダニエラ様がいる……アレン様は、またお母様に会うことが出来る……)

 震え出す指先。

 嬉しさから、エルダは胸にメモ用紙を抱いた。

 すると、ヒーデルが微かに笑った。

「泣くほど、あいつが好きか」

「え……?」

 自分でも気づかなかった。

 エルダの頬には、涙が伝っていた。

(あれ、私いつの間に……)

 手で拭おうとすると、ヒーデルの細く骨張った指先が、そっと拭ってくれた。

「も、申し訳ありません」

「……いいや」

 天井を見上げ、浅い呼吸を繰り返すヒーデル。

 その瞳は、どこか遠くを見ていた。

「エルダ」

「はい……」

「あいつを……私の息子を助けてくれ。お願いだ……あいつは、言葉に出来ないだけで、君を、好いている。私に似て、不器用で素直じゃないところもあるが、とても優しい子なんだ。だから……」

 言葉が途切れるヒーデル。

(陛下……)

 ヒーデルがもう長くないこと、それは言われずともエルダは分かっていた。

 エルダは咄嗟に、ヒーデルの片手を握った。

「はい……必ず、必ず……」

 言葉と共に握った手に力が入る。

 涙を堪え、俯くエルダ。

「頼んだぞ……心優しきフローリストのお嬢さん……」

 そう言って、優しく頭を撫でられる。

 瞳から溢れ出てしまった涙が、シーツにポタポタと落ちる。

 ヒーデルは後ろに立っていたクラウトを見据えた。

「……」

「……」

 クラウトはヒーデルを見て、深く頷いた。


__翌日。アレンが予想していた通り、エーデル国は軍を率いて、レディート国へ侵攻を始めた。アレンたちレディート国騎士団も太刀打ちすべく、明朝レディート国を発った。

 戦場ではすでに多くの死者が出ており、中にはレディート国の村人や騎士もいるという。そんな状況の中、エルダは王宮を離れようとしていた。

「本当に良いのですね」

 馬に乗ったケルベルトがエルダに問う。

「はい。覚悟は出来ています」

 そう言ったエルダに、ケルベルトは片手を差し出す。エルダがその手を掴むと、もう片方の手が腰に回される。力強い腕に体を持ち上げられ、エルダは軽々しく馬に乗せられた。

「ケルベルト伯爵。お礼を申し上げます。今回の件、私に一任して下さって」

 これから、エルダは戦地に赴き、エーデルを説得しようとしている。人操の才を持つアレンは、脅威ではないと。

 誰もが不可能だと思うだろう。しかし、そんな無謀な賭けに、ケルベルトは賛同してくれたのだ。

 馬鹿なことをしているのかもしれない。戦地にいけば、生きて帰れない確率が高い。

 それでも、命をかけてでも、エルダはアレンを救いたい。

「いいえ、本当であれば、アルバート様がついていらしたのかもしれませんが、彼も王子。危険からは遠ざかっていただく必要がある。それに……今は王宮にいるべきです」

「……そうですね」

 あれから、ヒーデルは更に衰退した。死期症状が徐々に出始め、今ではほとんど目を覚ますことはなくなった。

 もう時期、命の燈は消えかかろうとしている。アルバートはヒーデルの最期を見送るため、王宮に残ることにしたのだ。

(出来ることなら、私も最期を見送らせていただきたかった。だけど、私には私のやるべきことがある……託された想いだってあるのだから)

 真っ直ぐに前を見つめるエルダ。

「本当に不思議なお方ですね」

 顔を後ろに向けると、ケルベルトは俯きながら笑みを浮かべていた。

「初めてお会いした時は、凡庸そうな可愛らしいお嬢さんとだけ思っておりましたが、今のあなたは、とても勇敢で高潔な女性だ」

「私も、ケルベルト伯爵のことは、危険なお方だと思っていました」

 実際に、アレンにも油断しないようにと言われていた。

 エルダの言葉に、ケルベルトは笑う。

「そんな感じはしておりました」

 夜会では、完璧な令嬢を演じ切ったと思っていたが、やっぱり自分が警戒していたことなど、ケルベルトはお見通しだ。

 だからこそ、今も言葉にせずとも分かってしまっているのかもしれない。

 だが、言葉にするべきだ。思いは、気持ちは、言葉にしなければ伝わらないのだから。

「ですが、今は違います。ケルベルト伯爵がいて下さって、私はとても心強い」

「エルダ嬢……」

 今までもそうだ。何度も打ちのめされそうになった。心が痛いくらいに張り裂けそうな日もあった。悔しくて、どうしようもないくて、やるせなくて、立ち止まってしまった日もあった。それでも、また立ち上がって歩き出すことが出来たのは、みんながいたから。

 一人だったら、ここまで来れなかった。みんながいたから自分は今ここにいられる。それを決して忘れてはならない。

「エルダ」

 聞こえてきた方向に視線を向けると、王宮の入り口からクラウトが、こちらに走ってきていた。

 手には見覚えのあるものを持っている。

「念のため、これを持って行って下さい」

 クラウトが渡してきたのは、弓矢だった。

「使い方は分かりますね?」

「はい」

 弓矢の使い方は、以前、アンジェリーナから教わっていた。夜会で令嬢たちとの会話に困らないように、特技の一つくらいあった方がいいと、アンジェリーナはエルダに行射をやらせていたのだ。

 顔を曇らせるクラウト。

「あなたには、酷なことかもしれません……ですが、その時は迷わず矢を放つのです」

「……はい」

 自分の身は自分で守る。その意識を戦場では持っていなければならない。

 エルダは弓矢を受け取ると、矢筒を背負った。ずっしりと重い感覚が懐かしい。だが、あの頃のように、隣で笑うアンジェリーナはいない。軽々しさなど、到底ない。それは、命の重みを知り、人の命を背負っているということを、自分が理解しているからだ。

「それから、アルバート様から伝言です。『必ず生きて帰ってきて』と。私も同じです」

「クラウトさん……」

「生きて帰って来て下さい」

 手綱を握る力が強まる。

 涙腺が緩む。

 もうここまでくるのに、どれだけ涙を流しただろうか。

(今は泣けない。次に泣くのは、みんなでここへ帰ってきた時だ)

 瞼を擦ると、頬をパシパシと叩いて気を引き締める。

「はい……! 必ず帰ります」

 手綱を引いたケルベルトの一声で、馬は走り出す。

(アレン様。今行きます)

 クラウトはエルダたちが見えなくなるまで、その背中を見送った。

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