不穏

ジークの村に近い山。その深い森の奥の奥。人間など誰も立ち寄ることのない場所で、ある獣が数百年の眠りから目覚めた。それは今も偶に現れる魔獣と呼ばれる生物。魔獣は起きている間ある一つのことに苛まれ続ける。それは飢餓感。




 鹿を、狼を、熊を喰った。だがまだ足りない。腹が鳴って仕方がない。腹の虫が治まらない。




 空腹による怒りで木や岩を破壊しながら次の獲物を捜し歩いていると、ふと気が付く。




 本当に微かな匂い、嗅いだことのある匂いだ。なんだったか……そうだ。眠りにつく前よく食べた生き物の匂いだ。あの生き物は良かった、体はあまり大きくないが魔力の量が多い。それに一匹いたら近くに何十匹もいる。小さい奴は柔らかくて味もうまい。




 魔獣は味を思い出すとまた腹が減り、怒りが募る。




 行かなくては。あれをもう一度喰べなくては。




 根源的な欲求が魔獣の体を突き動かす。そして魔獣は、あの生き物の匂いのする方へ足を進めるのだった……

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