憑いてる僕ら。

雪丸。

プロローグ


午後10時。

とあるマンションの前に人だかりができている。


人々の視線の先にいるのは、一人の男。


男の目は窪み、顔には生気もなく、どこか虚ろ気な状態のまま屋上のへりに立ち、眼下の群衆を眺めている。


マンションの屋上に佇むこの男を、人々はスマートフォンの画面越しに眺め、シャッターを押し、あまつさえSNSに投稿する者もいた。


ドラマのように大声で男に呼びかける者もいない。



「あっ―――!」


一人が男を指差しながら声を上げ、皆が一斉に視線を向けたときには既に、男の身体はマンションの半分ほどのところにまで落ちていた。


スイカを割ったような、湿った嫌な音と同時に、群衆の悲鳴とシャッター音が響き渡った――。




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