25.終幕

「ーー非合法な研究所やらノワールやら問題は山積みだが、ひとまずは落ち着いたようだな」


 ふぅむと報告書を眺めながら自室で呟くダリアを、ノアは何とも言えない顔で見下ろした。


「わ、わざと煽ってた……んだよね?」


「あそこまで不安定なのは部隊としても致命症だ。くっつくにしろ離れるにしろ、あの中途半端な関係は早々に精算した方が本人と周りのためだ」


「だ、だからって何だってダリアがそんなこと……っ」


「良く考えてもみろ。フィンがどうにもできなくて、脅威になって、違和感のない相手。俺以上の適任がいるか?」


「いや、いない……けどさぁ……っ」


 それでもまだ納得がいかずにぐずぐずと渋るノアを、ダリアはため息をついて見上げた。


「1番避けたかったのは、不安定になるフィンを一切構わずにソフィアと距離を縮めようとする上に、コントロールもできないヤツ。下手したら学園どころか国が滅ぶ」


「………………」


「その点俺はどうだ。完璧な距離の詰め方だっただろう」


「…………そう思ってるのはダリアだけだと思うよ……」


 謎のドヤ顔をノアに向けるダリアをポンコツめと無言で見下ろし、特大のため息を吐いたノアは脱力する。


「ダリアは自分をわかってないよ。もしソフィアちゃんがその気になったらどうするわけ。天下のダリア団長が言い寄ってくるって意味わかってる?」


「何だ、自分が言ったことを忘れたのか?」


「は?」


「俺は興味を持たれるのが嫌いな女泣かせの変態なんだろう? つまり残念ながら興味を持たれてないってことだ」


「そ、え、ん? え? んん!?」


 1人で慌ただしく目を白黒させるノアを尻目に、ダリアはふうと息を吐いて椅子の背に体重を預けると、窓から見える青空を眺めたーー。






「ーーで、ボクをわざわざこんな所に呼び出してどう言うつもり? お尋ね者さん」


 ルーン王国の外壁より少し離れた昼でも暗い森の中。絶命した魔物を片手に、ノワールがヒタヒタと1人その歩みを止める。


「ーーこないだの大規模討伐、あんたわざとだろ」


「何のことかな」


 ふふと小首を傾げるノワールに、まぁいいけどと、ローブを目深に被った人影はため息をつく。


「あんたがダリアに執着してる変態なのは知ってるよ。だからさ、私に手を貸しな」


「変態とはひどいな。キミだけには言われたくないし。……第一、キミに手を貸してボクに何の得が?」


 スッと細めた銀の瞳を受けて、人影はローブを剥ぐとその姿を晒す。


「ダリアに執着している者同士、手を組みましょうよ。悪いようにはしないから」


 その腕から首、顔に焼け跡の残る肌を露わに、ミレーナはニッと薄く微笑んだーー。






【完】

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