奴隷商にて
「いやはや、またお越しになるとは。ありがたいですねぇ」
「俺も来たくは無かったがな」
相変わらず雰囲気が悪い場所だ。3人の従者もこの場所の雰囲気が好きじゃないからか顔が険しくなっている。
「おやおや、あの時の竜種では無い方も従者にいますねぇ。流石は勇者様ですぅ!」
「世間話はいいだろ。俺は奴隷を探しに来たんだ」
「なるほどなるほど。どういった奴隷をお探しですかぁ? 夜のお相手にピッタリの奴隷もいますよぉ!」
「はぁ・・・あまりそっちの話題を出さないでくれ。従者全員から俺が睨まれて大変なことになる」
「これは失礼しましたぁ。では、どういった奴隷がお望みですかぁ?」
「使用人としての奴隷を探している」
「なるほどぉ。でしたら、元気があり体力がそれなりにある方が望ましいですかねぇ?」
「そうだな。家事全般はこちらで教育出来るからそういった奴隷を頼む」
「畏まりましたぁ!」
奴隷商であるジョーカーはそう言うと奥へと走っていった。入り口にいる奴隷は見栄えが綺麗な奴隷ばかりだ。まぁ、入り口はお客がよく目にするところだから当然と言えば当然か。
「妾は、こういった場所は嫌いですね」
「俺も好きじゃないな。国として許されているのであれば仕方ないことではあるが、出来ればこういった場所なんて無い方がいいのにな」
「そうですね。しかし、無くならないということは需要があるということなのですね。何とも闇は深そうです」
「そうだな。・・・来たか」
「お待たせしましたぁ。目ぼしい奴隷を5人ほど連れてきましたよぉ」
連れてこられた奴隷は多種多様な種族であった。1人目は元気そうな女の子だが、どこか目に生気を感じられない。2人目は異様に殺気立ってる青年。3人目はクラフさんと同じドワーフ族の男性。4人目は端整な顔立ちでスラリと高身長なエルフ族の女性。5人目は犬耳が特徴の獣人族の女性。
うーん・・・正直、全員を受け入れればいいんだが、どうしたものか。
「主様、鑑定で全員のスキルを一度調べて貰ってもいいでしょうか」
「分かった」
1人目の女の子の名前はアリス。スキルはシェフ。
2人目の青年の名前はメルト。スキルはバトラー。
3人目のドワーフ族の名前はオルティス。スキルはブラックスミス。
4人目のエルフ族の名前はエレイン。スキルはガーデナー。
5人目の獣人族の名前はミスティ。スキルはウォッチドッグ。
「こんな感じだったな」
「なるほど。主様、全員を雇うことは可能ですか?」
「ん? まぁ、出来ればそうしたいと思ってるけど」
「全員の役割が被っておらず、それぞれに仕事を割り振ることが出来るので妾は問題無いと思います」
「確かにな。・・・よし。ジョーカー、全員を買うことにするよ」
「ありがとうございますぅ! では、全員で金貨10枚となります」
人の売買がたかだか金貨300枚で行われるなんてな。金貨300枚をジョーカーに払う。
「奴隷紋を付ける準備をしますねぇ」
「いや、いい。前回と同じで俺の従者に全員する」
「分かりましたぁ。それにしても便利な能力ですねぇ」
俺は全員の従者契約を完了させて奴隷商を後にする。
そして、宿屋へと戻って各個人の部屋を借りてから仕事の内容を伝える。
「さて、みんなには今度建つ家の使用人として働いて欲しいんだ」
「あの・・・なぜ私たちは奴隷紋がないのでしょうか」
「そうだ! 俺たち奴隷を買った奴らは全員が奴隷紋を付けて、俺たちが逆らえないことをいいことに暴力を振るったりしてきた! お前もそうなん―――」
「主様への言葉遣いを気を付けなさい」
メルトが怒鳴ったのを聞くと、ラピスが圧によって黙らせる。周りにいた使用人たちは顔が青ざめてしまっている。まぁ、使用人たちのステータス平均値は200~500ほどだ。ラピスの平均値は9000オーバーだから死を感じるだろうな。
「ラピス、その辺にしておけ」
「主様、申し訳ありませんでした」
「はぁ・・・さて、俺は君たちを恐怖とか暴力で支配しようとは思わない。奴隷紋が無いのは俺が不便だからだ」
「不便ですか?」
「そう。俺は冒険者でいろいろなところでクエストで出かける。なのに奴隷紋で一緒にいないといけないのとか不便だろ? 俺が君たちを雇ったのは家の維持管理のためなのに」
「そ、それは、確かにそうですが」
「代わりではあるけど、俺のスキルであるマスターサーバントで従者として契約してもらう。まぁ、それ自体に制約とかは何も無いから安心してくれ」
「ふぅむ・・・
「オルティスかいいぞ」
「すまない。ますますそうなると分からぬ。奴隷を買わずとも王都で職を探している人間などいるからそれを雇えば良いのではないか?
わざわざワシら奴隷のような脛に疵を持つ者を雇うこともなかろう」
「あー・・・まぁ、いつか話そうかと思ってたことにそれはなるんだが、俺は異世界から召喚された勇者なんだ」
「「勇者!?」」
使用人たちが全員驚く。まぁ、サクラも驚いてたし当然の反応か。サクラ、うんうんと頷いてるんじゃないよ。
「そういうことなんだ。つまり、異世界から来たばかりでこっちの世界の事情が分からないから雇おうにも勝手を知らなくて出来なかったんだ。
後は、俺なんかが偉そうなことを言える立場じゃないんだが、1人でも俺が救えるなら奴隷を救いたいって思ったんだ。俺の大切な人を救えたように」
「なるほどの。そういう理由なら納得だわ。かなり善人な主の元へ来れたようじゃの。失礼なことを聞いて申し訳なかった」
「いや、何か意見がある時はどんどん言って欲しい。さて、君たちは1人金貨60枚で俺に買われたんだが、それだけ稼いだら正直自由の身になってくれてもいい」
「俺たちが稼いだお金を貯めて自由を買ってもいいということか?」
「その通りだ。長い期間をかけて貯めてくれてもいいし一気に貯めて自由になるのもいい。そこら辺はみんなが決めてくれればいい。
重要なのは後は給料か。こっちの世界の給料ってどれぐらいが相場分からないんだよなー。エレイン、そういうの詳しくないか?」
「な、なぜ私に聞くんです?」
「エルフと言えば長命だからいろいろと知ってるかなと思って」
「知ってはいますが、ここで私が嘘を言う可能性を考慮しないのですか?」
「そう言えばそうか。うーん・・・まぁ、知識がない俺が悪いから君たちを全面的に信じるよ。そもそも俺にそういうことを聞いてくる時点で騙そうとしていないことは分かる」
「不思議な方ですね。私たち奴隷を買った人がどんな人かと思ったら、買った時の金額を渡せば自由になってくれてもいいと言うし私たちを信じていると言う。
とても優しい人なんだと分かります」
「そうなんだよ! グレンお兄ちゃんは優しいの。奴隷だった私を救ってくれたんだ」
スカーレットは満面の笑みを5人に向ける。奴隷だったと思わせない雰囲気に5人は俺に対しての見方がかなり変わってきているようだった。
「グレン様、奴隷に対しての給料ですが、どの職業においても銅貨5枚ほどになります」
「銅貨5枚!?」
1ヶ月の給料が銅貨5枚っていくら何でも少なすぎるだろ。金貨100枚稼ぐのに何年かかるんだよ。しかも、そこから生活費もって考えるとなかなかキツイだろ。
不自由なく生活して欲しいからなー。
「よし。給料は銀貨5枚で」
「「銀貨5枚もですか!?」」
5人全員が一斉に驚く。奴隷に銀貨を出すこと自体がそもそもあり得ないのに、銀貨5枚もとなれば事件だったとのことだ。
「ぐ、グレン様、私たちは嬉しいですが銀貨5枚はさすがに多いかと・・・」
「1ヶ月の給料が銀貨5枚でも少ないと思うけどなー。料理は自炊で何とかなるにしても、娯楽だとか生活に必要な物を買うってなったら足りないだろ」
「奴隷の身分で望む方がダメなのですが」
「奴隷じゃなくて従者な。君たちは俺の従者。だからってことでいいじゃん。あと、君たちのスキルが磨かれて出来る仕事が増えたら昇給も勿論するから」
「そこまでのことをしてくださるなんて・・・」
「まぁ、とりあえず働き出せるのは1週間後の家が完成してからになるから。それからラピスの教育を受けながら仕事をして貰う。
最初は家事全般とかで大変だと思うが、慣れてきて余裕が出てくるようなら好きなことをしてくれていいから」
「好きなこと?」
「そう。休んでもいいしスキルを磨くための何かでもいい。何でもしてくれればいい」
通常の奴隷の扱いとは規格外過ぎて5人は固まってしまった。まぁ、奴隷商の雰囲気と奴隷紋の感じからすると、奴隷の扱いはこの国ではよくないんだろう。
5人には幸せになって欲しいものだ。
「さて、俺たちは1週間も時間があって暇なのと金を稼がないといけないからクエストを受けてくるが、君たちはどうする? 一応はやることがないから何をしててもいいんだけど」
「主様、でしたら妾は残って先に教育をしてもよろしいでしょうか」
「ん? まぁ、俺たちだけでクエストは問題無いだろうから大丈夫だけど」
「ありがとうございます。家事全般の教育の前に身だしなみや所作並びに言葉遣いがダメな方が多いようなので、徹底的に教育したいと思っております」
「ひっ!」
メルトを睨みつけながらラピスは教育をすると宣言した。あー・・・ラピスはあの言葉遣いが気に入らなかったのか。
「まぁ、ほどほどにな。メルト・・・頑張って生き残れよ」
「い、生き残れ!? グレン、どういうことなん―――」
「言葉遣い!!」
さっそくラピスの厳しい教育が開始される。最初は威圧されていた他の4人だったが、その様子を見て笑うようになっていた。
何だかんだ上手く行きそうで良かった。
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