第4話 やっぱり見られている
ホームルームで説明されたことは、七月に行われるバス旅行について。
後日行われる職員会議で決まる為、班を決める方法は決められていない。
好きな人同士で自由に組めるのか、先生に決められるのか不明となっている。
にも関わらず、
正確に言えばAクラスで幸介に次ぐ人気を誇る関くんが、ホームルーム終了直後に
けれど、その出来事以外は普段と変わらない時間が過ぎて行き昼休みとなった。
一番前の席から幸介が弁当箱を片手に持ち近付いてくる。
「はあぁ……。今日も
「
気さくなところは幸介の良いところだ。
けれど目上の人である先生を下の名前で呼ぶには抵抗がある為、それを訂正しつつ、朝ご飯でも食べた玉子焼き、他にきんぴら、冷凍のおかずを詰め込んだ弁当をカバンから取り出し質問した。
「年上がというより美緒先生が! いいんだよなあ……。クールで落ち着いていて、大人の色気? 芸能人に憧れるような感じが美緒先生にはあるんだよ。だから彼女に求めているのとはまた別の話」
訂正という名の注意を送ったけど、幸介には伝わらなかったようだ。
「幸介の言い分は分からないけどさ、ひと先ず彼女が誰なのかは知りたいな。僕の知らない内に失礼な態度取りたくないし」
幸介は上近江さんと同様にとてもモテる。
小学生の頃から今まで多くの人から告白されている幸介。
クラスメイトや先輩、後輩。
同じ事務所で働くモデル仲間、それこそ芸能人だ。
その全てを断ってきた幸介に初めてできた彼女がこの学校にいる。
僕はただでさえ多くの人から嫌われている。
だからこそ、知らぬ間に幸介の彼女へ失礼な態度を取りたくないから、教えてほしいという訳だ。
「いや、俺もさ?
眉尻を下げながら困ったように笑い、教えたくとも教えられないと言う幸介。
さらに、人間関係作りに控えめな僕に対して棘を差そうとしてきたが、携帯に通知が届いたことで阻止される。
携帯を見て顔を歪ませた幸介は、残りの弁当を掻き込み一気に食べ切ってしまう。
色取り取りで美味しそうなお弁当に見えただけに勿体なく思うが、何か急用でもできたのだろう。
「――悪い。その彼女と会う用事ができたから行ってくる」
彼女からの連絡だったようだけど、それならどうして顔を歪ませたのかと疑問が浮上する。
けれど、二人の問題なのだから僕が首を突っ込むのは止した方がいいだろう。
それに幸介なら、何かあれば相談してくれるだろうから尚更だ。
「いってらっしゃい。彼女さんに関しては話せるようになるまで待つよ」
「おうっ! あっ、でもその前に――玉子焼きだけ食わせてくれっ!!」
「ご自由にどうぞ」
「いただきま……って、うまっッ!! 今日は甘い玉子焼きか!!」
「大袈裟だね」
本当に美味しそうな顔をして褒めてくれるから、何となく気恥しくなる。その気恥ずかしさを誤魔化すように右手で左の首の辺りを掻いてしまう。
「いやいや……て、朝もこんなやり取りしたな。ま、いいや。行ってくる!!」
僕が返事を戻すよりも先に、幸介はけして表情が変わることのない僕を補うように、二人分の笑顔を向けてから教室を出て行った。
唯一の友人がいなくなった後、そのまま無言で弁当を食べ進めて、五分としないうちに食べ終えてしまう。朝の続きを読もうと考えて、弁当箱と入れ替えるようにカバンから小説を取り出す。
書店で頂いた紙製の栞で挟んでいたページを開くと、ふと今朝も感じた視線に気付く。
(まさかな?)
そう思いながらも、ゆっくりと顔を上げ前方窓側の席へ視線を向ける。
幸介に釣られて大勢のクラスメイトたちが退室している為、視線を遮る人影はない。
窓側一番前の席で体を横に向けた体勢で着席しており、顔を僕へ向けている上近江さんと目が合う。
幸介はいない。僕の周囲に人はいない。
僕が右手に持つ小説を見ているわけでもない。
やはり、視線と視線がしっかり重なっている――。
たまたまかもしれない。
教室に残る人たちの会話が止まったことで教室が静かになる。
そのことで時間が止まったかのような感覚に陥った。
けれど、上近江さんが視線を外すと同時に、クラスメイトたちの会話も再開されたことで、時間が動き出す。
時間が動き出すの言葉を表すかのように、上近江さんも動きを見せた。
席を立ち、音を立てたりせず丁寧に机の下へ椅子を入れ、両手でスカートのしわを伸ばす。
(綺麗だな)
本日二度目となる感想を抱いていたら、上近江さんがまたもや視線を合わせてきた。
合わせてきただけじゃない。
真っすぐに僕の方へ向かい歩いて来る。
上近江さんが取る行動の意図が掴めず、驚き固まることしかできない。
一体、何を言われるのか。どんな用事があるのか。
頭の中では軽い混乱に陥らされていたが、上近江さんが僕の元へ来ることはなかった。
途中『
拍子抜けのような、安堵したような気持とさせられ、行き場をなくして僕の視線は、手に持つ小説へと落ちていく。
「……読む気分ではなくなったな」
誰に聞かれることもない独り言が漏れた後は、
気分を変える為に教室から出て、手洗いを済ませる。
それから自動販売機が設置されているベンチスペースへ移動する。
運の良いことに誰も居なかったので、そのまま腰を落とし教室での出来事を考える。
接点など同じクラスということだけ。
上近江さんが僕に何か用事があるとも思えない。
考えられるとしたら、僕ではなく幸介に何か伝えて欲しいことがあるのかもしれない。
何かと話題になりやすい二人でもあるから、可能性としては高そうに思える。
考えはまとまった。それにこれ以上考えた所で仕方ないことでもある。
そう結論付けて、教室へ戻るのに腰を浮かせるが。
「……もう少しだけ時間を潰してから教室に戻るか」
中途半端に浮いた腰を再度落とす。
目を瞑り、浮ついた気持ちを整えてから教室へ戻ることを決めたのだ――。
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