アフターストーリー

after 1 海星の受難

 これは僕と紫苑が結婚してから二か月ほどが経過したある日のことだ。

 紫苑が大学に行ったから帰るときは必然的に一人になってしまうわけなんだけど、最近は全く一人で帰っていない。

 何故なら、、、


「いや~奇遇だね!海星」


「いや、お前最近そういって毎日一緒に帰ってるじゃないか」


 そう。茜がわざとらしく後ろから駆け寄ってきて結局途中まで一緒に帰ることになっているのだ。

 前にその現場を大学から帰っている紫苑に見られてそれはもうこっ酷く怒られたものだ。

 一週間くらい機嫌を直してくれなかったときはさすがに焦った。

 だから、個人的にはあんまり一緒に帰りたくはないのだが


「え~いいじゃん!そんなにケチケチしないでよ」


「いや、ケチケチしてるわけじゃないんだが」


 実際問題ケチケチしてるわけじゃないけど紫苑を不安にさせるのも考え物だ。

 僕にとって今の茜はただの幼馴染でしかないけど紫苑の立場からすると茜は元カノなわけで、そんな人と彼氏が一緒に帰っているのはだめだろう。

 彼氏というかもうすでに旦那だった。


「じゃあいいじゃん!別に何かしようってわけでもないんだしさ」


「まあ、そうなんだがなぁ」


 馬鹿正直に一緒に帰るのはやめてくれって言うのもなんだしなぁ。


「というわけで!今日も一緒に帰ろうよ。途中まででいいからさ」


「わかったよ。途中までな」


 茜は諦めが悪い奴なので一度言いだしたらこちらの話を聞いてくれない。

 僕は諦めて途中まで一緒に帰ることにした。

 ただ、このことはしっかり紫苑に報告しようと心に誓う。

 次は何を言われるかわかったもんじゃない。

 次こそは不倫だと騒がれでもしたら大事だ。


「ただいま~」


「おかえり海星。今日の学校はどうだった?」


「どうだったといわれてもいつもと変わらないよ。紫苑がいないからすっごく退屈だけどね」


 いつもと同じように授業を受けてたまにある定期テストをこなして家に帰る。

 全く変わり映えのない日常。

 唯一の楽しみといえば家に帰って紫苑とイチャイチャすることくらいだろうか。


「あはは~私も海星が居なくて寂しいよ。大学もちょっと慣れてきたけどやっぱりまだ疲れるかな。それに突然苗字が変わったから色々聞かれることも多くて」


「それはあるだろうね。でも、告白とかされなくて済むんじゃないの?」


「それが、全然そんなことなくて。入学してからもう10回は告白されてるよ」


「え!?」


 苗字が変わっておまけに左手の薬指に指輪までしてるのに告白するとかどんだけだよ。

 流石にちょっと引くわ。


「海星は告白とかされないの?」


「全然。新入生以外は僕と紫苑が付き合ってるってこと知ってるだろうし新入生とはそもそも関わりが無いから全然ないね」


「よかった~でも、秋風さんはどうなのよ」


 紫苑はすっと目を細めてそんなことを聞いてきた。

 やっぱりこの前に一件を気にしてるらしい。


「それが実は今日も途中まで一緒に帰ってました」


 勢いよく頭を下げる。

 悪いことをしたわけじゃないんだけど紫苑を不快にしているかもしれないと思いすぐに謝罪をする。

 こういう面では尻に敷かれてるのかもしれない。


「はぁ!!なんでまた一緒に帰ってるのよ!!」


「いや、それが今日も一人で家に帰ってたんだけど茜が後ろから来て一緒に帰ろうってついてきたんだよ」


「なんで断らないのよ!!」


 少し語気を強めながら紫苑は詰め寄ってきた。


「いや、断りはしたんだけど強引に押し切られちゃって。ごめんなさい」


「むぅ~確かに幼馴染だから断りにくいのもあるんだろうけどさ。私がいるんだから他の女の人に目移りしたらヤダよ?」


 紫苑は上目遣いで僕のことを見つめながら抱き着いてくる。

 結婚してから知った一面ではあるんだけど紫苑は意外とさみしがりな所がある。

 いや、結婚する前から知ってはいたんだけど結婚してからより一層それが顕著に表れるようになったというか。


「もちろんそんなことしないよ。僕が見てるのは紫苑だからさ。そんなの心配しないでくれ」


 紫苑を抱きしめ返しながら安心させるようにつぶやく。


「うん。ごめんね我儘なお嫁さんで」


「いいや、我儘なんてそんなことは無いぞ?僕はそんな紫苑が大好きだから気にせずに甘えてくれていいし言いたいことがあったら言ってくれ。そのほうが僕も安心できるし夫婦としても健全だろ?」


 言いたいことが言い合えない夫婦は不健全だと思う。

 だから、僕は紫苑とは本音で言いたいことが言い合えるような関係を続けていきたいと思っている。


「ありがとね海星」


「お礼を言われるようなことじゃないって。これでも僕は紫苑の旦那なんだからさ」


「そうだね。頼りになる旦那さんだ」


 紫苑は少し顔を赤くしてからかうように言った。


「でも、茜は何がしたいんだろうな?僕にはちょっとわからないけど女性目線ではどう思う?」


 この際ずっと気になっていたことを聞いてみた。

 あんなひどい振り方をしておいてなんでこうもかかわってくるのかわからない。


「やっぱり海星に未練でもあるんじゃないの?じゃなかったらそんなに関わろうとしないだろうし」


「そんなことあるのか?だってあんなに海星に執着してるんだから」


 執着か。

 僕は茜に執着されてるんだろうか?

 自分では全くわからなかった。


「そうなのかな~だとしたらやっぱり距離を置いたほうがいいのかな?」


「どうだろう?でも私としてはそうしてくれると安心できるけど」


「じゃあ、そうしようかな。今僕は結婚してるわけだしあんまり一緒にいるべきじゃないだろうしな」


 未練があって執着してるというなら距離を置くべきだろう。

 だってもし本当に茜が僕にそういった感情を抱いているのだとしたら僕はその気持ちに答えられない。

 何を言われても答えるつもりはない。


「うん。今度あったら言ってみるよ。アドバイスありがとうね紫苑」


「このくらいなら全然大丈夫だよ!夫婦なんだから助け合わないとね」


「ありがと。大好きだよ紫苑」


「私も!」


 しばしば二人でイチャイチャ過ごすのだった。


 でも、これで僕の今後の方針は決まったな。と密かに考えるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る