第67話
「ただいま~」
少し前まで住んでいた家だからやっぱりそんなに変化は感じられない。
事前に連絡した通りの時間に紫苑と二人で実家の玄関をくぐった。
「おかえりなさい。あと初めまして。海星の母の
「は、初めまして!か、海星さんとお付き合いさせていただいている藤音紫苑と申します」
生徒会長モードとは少し違うけどいつもより丁寧に話していた。
目の前にいた母さんは紫苑を見て立ったまま固まっていた。
きっと紫苑が想像以上に可愛くて硬直しているのだろう。
「まあ、本当に可愛いわね~。良いのかしらこんな息子で」
「こんな息子とはどういうことだよ」
確かに僕はそんなに褒められた人間ではないけど実の母親に言われるとちょっと傷つく。
「いえ、私は海星君がいいので。他の男性には興味がありません」
「ぞっこんなのね。海星こんないい子絶対に離しちゃだめよ?」
「言われなくてもわかってるよ」
勿論紫苑を手放す気なんて僕には毛頭ない。
母さんににこっと微笑みかけて首肯した。
「っと、いつまでもこんな場所で話してちゃだめよね。ささ上がって頂戴」
「お邪魔します」
母さんに案内されるままに僕たちは家の中に足を踏み入れた。
「おお!海星久しぶりだな」
「うん久しぶり父さん。元気にしてた?」
「もちろん元気だったさ。それにしてもまさかお前がこんなに可愛い女の子を連れてくるなんて、お父さんちょっと泣いちゃいそうだ」
そこまで大げさに言わなくても良くないかとは思ったけど確かに今までの僕は茜以外を家に連れてきたことが無かったからそう思われても文句は言えないかもしれない。
それに二人は気を使って茜の名前を出さないでいてくれるのだから本当にありがたい。
「初めまして。藤音紫苑と申します」
紫苑は母さんにやったときと同じように挨拶をしてお辞儀した。
相変わらずの綺麗な所作に一瞬目を奪われたけど気を取り直して両親に向き直って姿勢を正す。
「それで二人とも話があるんだけどいいかな?」
「まあ、海星が連れてきたんだから何か話があるとは思っていたわよ」
「え!?そうなの?マジ?俺そんなんなんも考えてなかったんだけど?」
落ち着いた母さんとは対照的に父さんは焦りまくっていた。
相変わらずの父さんに心が温かくなるのを感じながら息を吸う。
「僕はここにいる紫苑と将来的に結婚しようと思ってる。紫苑の両親には挨拶を済ませたし了承も得てる。今日は二人に紫苑のことを紹介したくて連れてきたんだ」
「ふふっ。やっぱりあなたは私たちの子供ね。そう思わない?お父さん?」
「昔の話は持ち出さないでくれよ母さん」
なにやら昔に何かあったらしく僕たちを置いてイチャイチャしている。
紫苑の前で恥ずかしいから本当にやめてほしい。
「んん。俺たちとしては二人が決めたことなら否定する気はない。藤音さんは本当に海星でいいのかい?」
「はい!私は海星君意外とお付き合いする気はありません」
紫苑は堂々とそう言い切ってくれた。
本当にうれしいしこれからも紫苑を全力で支えようと思った。
「ならいい。母さんもそれでいいよな?」
「もちろんですよ。二人が決めたことなら私たちが口を挟むことでもないでしょうし、藤音さんが左手につけてる指輪を見たら決意が伝わってきますからね」
どうやら母さんは早々に指輪の存在に気が付いていたらしくニコニコ微笑みながら紫苑の指輪を凝視していた。
「ありがとうございます」
「ありがとう父さん母さん」
「別に礼を言われるようなことじゃない。まあせっかくの顔合わせだし母さんがおせちを用意してるから食べて行ってくれ」
「わかったありがとう」
「ありがとうございます」
2人でお辞儀をする。
紫苑は嬉しそうに微笑んでいてその目じりからは少量の涙が流れているのがうかがえた。
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