第34話 乱闘騒ぎ

「、、、これ終わらなくないか?」


「ははっ、大丈夫だよ。何とかなる」


 夏休みまでの残り数日

 僕と紫苑は生徒会の職務に追われていた。

 本来は夏休み中も学校に来て生徒会メンバーで仕事を終わらせるのが普通だと先生が言っていた。

 でも、紫苑が夏休み中に学校に来くないという理由で夏休みが始まるまでに終わらせようとしていた。

 実際問題今ある仕事を終わらせたら紫苑の生徒会長としての仕事は増えることは無い。

 正真正銘の最後の仕事だ。


「でも、本当になんで紫苑は他の生徒会メンバーを入れなかったのさ」


「言ったでしょ?信用できる人間がいなかったんだって。海星は信用してるよ?」


「ウインクしても通用しないから。さすがに人が足りなすぎるよ」


「だめだったか。でももう少しで終わりそうじゃん!」


 、、、終わるわけない。

 紙の束があと10個はある。

 この感じだとあと三日はかかりそうだ。

 勿論下校時間限界まで毎日仕事をしたらの話だが。


「よし!頑張って行こ~」


「、、、はいはい」


 紫苑はガッツポーズをしてやる気を入れていた。

 ちなみに、もう仕事を始めて2時間経っていた。

 それも、もう三日はこの生活を続けている。

 あと少しで仕事が終わるというがやっぱりまだ先が見えない。

 次の生徒会長が大変そうだ。

 候補いないけど。


 ◇


「会長!いますか!?」


 僕たちが膨大な量の仕事をこなしていると勢いよく生徒会室の扉が開かれた。


「どうしたんですか?そんなに慌てて」


 少しびっくりした様子で扉をあけた男子生徒を見ながら紫苑は問うていた。

 最近僕も紫苑と一緒に生徒会室にいることが多いけど今まで生徒がたずねてきたことは一度もない。

 それはそうだろう。

 普通に学校生活をしていて生徒会に用がるなんてことはほとんどない。

 あっても部活動やその他の行事関連だろう。


「それが、少し先で女子生徒同士が喧嘩をしていまして、、」


「喧嘩?なら、生徒会室ではなく職員室に行くべきではないのですか?」


「はい。それはそうなんですが取っ組み合いの喧嘩になっていて止めれる人間がいないんです」


 女子同士で取っ組み合い?

 珍しいこともあるもんだな。


「はぁ。一体高校生にもなって何をしているのか。わかりました。急いでいきますので案内してください」


 紫苑はため息をつくと立ち上がった。


「僕も行くよ。そんな話聞いてじっとはしてられないし」


「わかりました。では一緒に行きましょう」


 紫苑の了承を得て僕たちは小走りで乱闘騒ぎが起きている現場に向かう。


「これは、」


 たどり着いた先には女子生徒三人が一人の女子生徒を囲んで暴行を加えている場面だった。

 これは喧嘩ではなくただのリンチだ。


「紫苑は今すぐに先生を呼んできて。僕はとりあえずあれを泊めてくる」


「大丈夫なのですか?」


「ああ。でも、急いで呼んできてくれ。あと、保健室の先生も」


「わかりました。気を付けてくださいね」


「もちろん」


 紫苑は足早に職員室のほうに走って行った。

 なるべく早く呼んできてほしい。

 でも、まずはこのリンチを止めないと。

 というか、なんでこんなに周りに人がいるのに止めないんだよ。


「ちょっと君たち何してるの?」


「あ!?なにあんた?」


「僕は天乃 海星。一応生徒会の手伝いをしてる人間だ。暴行事件が起こってるって聞いてきたんだけど」


「ちっ、誰だよチクったの」


 三人の女子生徒のうちの一人が睨みながら悪態をついてくる。

 その勢いに乗って他の2人も僕に罵詈雑言を浴びせてくる。

 それ自体は別にいいんだけど僕をなじりながらも真ん中にいる女子生徒を蹴る足を止めていないのがまた問題だ。


「とりあえずその足を止めろ。先に言っておくがすぐにここに先生が駆けつけてくるぞ?そんなところを見られたら一発で退学か停学を喰らうぞ?」


 脅しではなく警告だ。

 あとは、こうでも言わないと蹴る足を止めそうになかったからというのもある。


「ちっ、あんたら行くよ」


「あいよ~」


「わかった~」


 リーダーらしき生徒がそう声をかけると他の二人の女子生徒はそれに続いてこの場から離れて行った。


「大丈夫か?って何してんだよ」


「助けてくれてありがと。海星」


 さっきまで女子生徒に囲まれていて見えなかったけどリンチに遭っていたのは茜だった。

 一体何をすればあんなに派手にリンチにされるんだよ。

 でも、さすがに幼馴染がリンチに遭っているのは気分が悪い。


「とりあえず保健室行くぞ。そこで話聞くから。立てるか?」


「ごめん。ちょっと無理そうかも」


「そうかわかった」


 その返答を聞いてすぐに僕は茜を抱きあげる。


「え!?ちょっと海星?」


「なんだ?」


「なんだ?じゃなくてなんでお姫様抱っこなの?」


「立てないんだろ?さすがにそんなボロボロなお前を歩かせるのは気が引ける」


「でも、」


「うるさい黙れ。怪我人はおとなしくしてろ」


 腕の中でごちゃごちゃ言う茜を黙らせて保健室の方向に向かう。


「海星?どうしたんですか?」


「ああ紫苑。一応乱闘?というかリンチは何とかしたけどリンチされてた女の子が怪我をしていて歩けないらしいから今から保健室に連れてくところ。紫苑も一緒についてきてもらってもいい?後ろの先生も」


「わかりました」


「わかった。同行しよう」


 先生と紫苑の了承を得て保健室に向かった。

 一体何でこいつがリンチにされていたのか聞く必要がある。

 何より、あんな仕打ちを受けたとはいえ昔から一緒にいた幼馴染を傷つけられて不愉快で仕方がない。

 周りから聞いたことならまだ聞かなかったふりができた。

 前に会って謝られなかったらこんな風に思わなかったかもしれない。

 でも、今の僕にあれを無視するのは無理だった。

 絶対に落とし前はつけさせる。

 この時久しぶりに自分の中にどろどろとした感情が芽生えるのが分かった。

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