婚約破棄された悪役令嬢は光魔法で未来を切り開く~ブチギレやけくそソーラービィイイイム!!!!!!~

ジロー=ユビキタス

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

「やっべーですわ~やっべぇですわ!!王子をブッ殺してしまいましたわ!!」

 王子の死体を見下ろす少女は頭を抱えていた。




 ごきげんよう!私はヴァイオレット・カーマイン・アガット。キラメキ魔法学園に在籍する貴族令嬢ですわ!こっちは死体の王子!夜中に彼からお呼ばれされて、ルンルンでお部屋に向かったら婚約破棄をお願いされてもうビックリ!ビックリしすぎて、ちょっと本気で殴ったら首がもげて王子が死にましたわ!

 苦労して婚約者ダービーを勝ち抜きましたのに!勝ち馬が死ぬなんて聞いてませんわ!

 

 まぁ、死んでしまったものは仕方がないわね。状況を整理しましょう。

 私がいるのは学生寮3階にある王子の部屋。この学生寮には私と死んだ王子を除いて生徒が11人、護衛の騎士様が2人の合計13人がいるはず。深夜だから随分と少ないですわね。

 寮の1階は調理場や娯楽室など主に共用のスペースがあり、2階は女性3階は男性の生徒の部屋に分けられてますわ。寮の出入口は1階の正面玄関と調理場にある裏口のみ。この建物、火事が起きたら2階より上の生徒死にますわね。まぁ今はどうでもいいですわ。

 

 これから私がとるべきベストな行動はなにか?

 ①王子を蘇生する。幸か不幸かこの寮には聖女様がいますわ。生命の奇跡を司る彼女なら王子の蘇生が可能でしょう。首がもげてるけど、たぶんイケるはずですわ。私も王子を殺したくて殺したわけではありませんの。全てが元通りになるのならアリですわね。

 しかし、王子が復活したとしても私が王子を殺した事実は消えないですわ。王子と聖女様のどちらかが私の犯行を漏らせば、恐らく私は処刑されますわね。うん、却下ですわ。というか、そもそも王子が生き返っても婚約破棄されるから元通りにはなりませんわね。却下ですわ却下ですわ!

 ②逃亡する。この時間帯なら夜の闇に紛れて簡単に逃げ出せますわ。問題は逃げ出すと私が容疑者になることですわね。私が犯人だと言ってるようなものですわ。そうなると私は指名手配犯として二度と表舞台には上がれなくなりますわね。保留。

 ③誰かに罪を被せる。これが1番ベストですわね。方法を思いつかないことを除けば。誰がいいかしら?

 叶わぬ恋を苦にしての心中。あ、これいいですわね。お相手は聖女様にしましょうか。彼女、王子と仲がよかったから嫌いでしたの。動機的にも私の感情的にもオールクリア。一石二鳥ですわ!

 案外何とかなりそうですわね!天才ですわ!善は急げですわ!聖女様をブッ殺しますわ!



 ブイン、ブイン。

「他愛もないですわ」

 聖女様の首を刎ねた私は魔法で生み出した光の剣を納めた。光魔法『ライトセイバー』は音もなく敵を斬り裂く、暗殺にうってつけの魔法ですわ。ごめんなさい嘘ですわ。スッゲェ光るし音も出ますわ。

 なにはともあれ、王子の部屋まで連れ出した聖女様をサクッと殺すことに成功しましたわ。王子の生首を見て硬直したスキを狙ってスパッと両断。ビックリしますわよね生首。私も王子の首がもげたときビックリしましたもの。

 あとは、2人の死体を調理場のデカイかまどにブチ込んで燃やせば終わりですわね。これで死因を誤魔化せますわ。炎は全てを解決しますの。かまどで焼身自殺とかだいぶ意味不明なのだけど......まぁ死ぬほど追い込まれた人間はどこかおかしくなるものですし問題ないでしょう。でも遺書とかは作ったほうがいいのかしら?内容考えるの面倒くさいですわね。



「ヴァイオレットさん、なにしてるの?」

 運びやすいように死体を荷造りしていると背後から声をかけられた。驚いて後ろを振り向くと、開けっ放しのドアの向こうに見知った顔の男子生徒が立っていた。間合いは2歩分。やれますわ!

「なあ、それって王子とせいじょ――――――」

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 閃光の如く放った突きが男子生徒の喉を貫く。

「ザコで助かりましたわ」

 喉を潰した光の剣を引き抜くと、口から血を吐き崩れ落ちる彼の首を刎ねた。ブイン、ブイン。



「ドアを閉め忘れましたわー!!そして死体が増えましたわー!!」

 我に返った私は頭を抱えていた。どうしましょう、計画がおじゃんですわ。3人で焼身自殺はさすがに通りませんわよね......3人はどういう集まりですの?

 ザコ様が王子と聖女様殺しの犯人というストーリーはどうかしら?2人が殺された日にザコ様が失踪する。これで疑いの目はザコ様に向くはず。ザコ様の死体は細かくしてトイレに流せば見つかりませんわ。でも犯人が見つからないのが逆に問題ですのよねえ。

 なぜザコ様は2人を殺したのか?どこに消えたのか?事件の答えが見つからないと捜査が長引きますわ。この国の刑事兵は優秀ですもの、捜査が長引けば長引くほど私に辿り着く可能性が高まるでしょうね。それは避けたいですわ。どうしましょう?

 後で使えるかもですしザコ様の死体はクローゼットに隠しておきましょう。



 妙案が思いつかない私は窓を開ける。

「夜風が気持ちいいですわね」

 風の動きに合わせて、眼前に広がる森の木々がザワザワと音を奏でている。あ、そうですわ。こんな言葉がありましたわね。

「木を隠すなら森の中、死体を隠すなら死体の山の中」

 小さな事件はより大きな事件で覆い隠すのですわ!この寮内の方々を全員ブッ殺して建物ごと燃やす!これですわ!

 寮の生徒の中に炎の魔法使い様がいらっしゃっるから、あの方に罪を被っていただきましょう。理由はそうですわね。王子たちからの嫌がらせに耐え兼ねての復讐、というのはどうかしら?お可哀そうですわ!いじめに気が付けなかった私を許してくださいまし!裁判では死刑回避にならない程度に弁護してさしあげるから強く生きてほしいですわ!



 皆殺しにするために私がやるべきことを考えてみましょうか。

 ①1人も逃がさない。今夜この寮にいる方々は全員口封じのために殺しますわ。どこから情報が漏れるかわかりませんもの。情報漏洩怖いですわ。

 外に出られないように正面玄関と裏口を封鎖しませんと。

 ②夜明けまでに全員を無力化し学生寮を燃やす。炎の魔法使い様に罪を被せるために全てを燃やす必要がありますわ。

 朝を迎えると寮の運営をしてくださる使用人や料理人の皆様が出勤されるから、それまでに全てを終わらす必要がありますわね。

 ③外部へ連絡させない。通報された場合、町の警備兵がこの寮に来るまで最速で10分ぐらいかしら?1人や2人でしたらあまり問題ありませんが、軍隊で来られると厄介ですわ。これは避けたいですので、電話線を切断する必要がありますわね。

 ④炎の魔法使い様は生かす。アレ?①の条件と矛盾してますわね。どうしましょう?

 間をとって半殺しにしておきましょうか。喋ることができないように喉を潰して利き腕も切断しておきましょう。彼女に襲われた為の正当防衛ですわ。

 


 殺す順番も考えないとですわね。学生寮内で生きているのは生徒が9人、護衛の騎士様が2人の計11人。騎士様は最優先ですわね。正面から戦いたくないですわ。寮の正面玄関にいるはずですので、入口封鎖のついでに殺しましょう。

 次に殺すべきは宰相様のご子息様と騎士団長様のご子息様ですわね。お2人ともご両親から優秀な頭脳と卓越した戦闘力を受け継いでいて厄介ですわ。さっさっと殺してしまいましょう。残りの7人はザコだからどうでもいいですわね。1対7になっても負ける気がしませんわ。

 さて、具体的な方針も決まったことですし、ちゃっちゃかブッ殺しますわよ!

 


 今度はきちんとドアを閉めて、3階の王子の部屋から1階にある調理場にきた私は『ライトセイバー』で裏口のドアノブを切断した。ブイン、ブイン。これで簡単には外に出られませんわ。

 調理場から正面玄関に移動した私は護衛の騎士様2人の元へ駆け寄った。

「夜遅くまでご苦労様ですわ」

「ヴァイオレット様こんな時間にいかがされましたか?外出はできませんよ」

 黒髪短髪の騎士様が訝しむように問うてくる。失礼ですわね、やましいことなんてありませんのに。

「今晩はずいぶんと冷えますので、お二人にコーヒーを入れてきましたの」

 私は調理場で用意したマグカップを2つ差し出す。熱いから早く受け取って下さらないかしら。

「ありがとうございますヴァイオレット様!いやーすみませんね。こいつは真面目で堅物なんですよ。お嬢様が入れてくれたコーヒー嬉しいなあ!謹んで頂戴いたします!」

 長い金髪を後ろで束ねる騎士様がフォローするように会話に入ってきた。正反対な見た目と性格のギャップが映えるいいコンビですわね。私はマグカップを渡す振りをして熱湯を彼らの顔面にぶちまけた。

「――――――!?」

 両手からマグカップを手放し『ライトセイバー』を展開した私は2人の首を刎ねた。ブイン、ブイン。

「情けないですわ。こんなにもあっさりと殺されてしまうなんて、私たちに何かあったらどう責任を取るつもりなのかしら」

 私は呆れと怒りを覚えながら正面玄関のドアノブを切断した。残り9人。



 騎士たちの死体を正面玄関横の管理人室に運び終えた私は次の行動に移る。電話線を切断しますわよ。

 部屋の中にある大きな制御盤。電話線はきっとこの中ですわね。制御盤の扉を開くと、中には大小様々色とりどりな電線コードやチューブが詰め込まれている。

「どれが......電話線......ですの?」

 やべぇですわ!ぜんっぜんわかりませんわ!騎士様を殺す前に聞いておけばよかったですわ!でもまぁ、違う電線コードを切ったから爆発!なんてこともないでしょうし、全部切っちゃいましょう。

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。アラ?

「真っ暗になりましたわ......」

 これ、マズいですわね。就寝するにはまだ早いお時間。学生寮内が停電状態になっているとしたら......寮内すべての方々に異変をお知らせしてしまいましたわ!



 暗闇の中、管理人室から抜け出すと2階へ繋がる階段から2つの光が近づいてくる。懐中電灯ですわね。誰かが管理人室の様子を見に来たようですわ。

 会話しながら歩いてくる2人を物陰に隠れながら窺う。

「停電なんて珍しいね」

「どっかのバカが制御盤ぶっ壊したんじゃねーの?」

「そんなバカいないだろ。いや、ヴァイオレット嬢ならやりそうだな」

 酷いこと言いますのね!ぐうの音もでませんわ!声から推察するに男子生徒のザコが2人。楽勝ですわね。キルゾーンまで3、2、1、ハイ。

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 物陰から飛び出し光の剣で首を刎ねる。光の剣を振り抜いた勢いで回転しもう1つの首を狙う。ブイン、ブイン。

 アラ?空振りましたわ。暗くて狙いが定まらないですわね。私の悪口を言ったクソ野郎はどこかしら?

「ヴァイオレット嬢!なんで――――――」

 声の発生源に向けて光の剣を突き込むと今度は手応えがあった。やりましたわ!

「口は災いの元でしてよ」

 私はカッコイイ決め台詞をキメながらクソ野郎の首を刎ねた。ブイン、ブイン。残り7人。



 クソ野郎どもの死体を隠したいところですが上の階が騒がしいですわね。女子生徒の悲鳴が聞こえますし、王子の部屋で死体が見つかったのかもですわね。

 学生寮内が停電→王子の身を案じ取り巻きの方々が王子の部屋へ集合→死体発見。こんな流れでしょうね。

 マジで軽率でしたわ~。1人ずつサイレントキルする計画が滅茶苦茶ですわ~。どうしましょう?

 皆さんと合流した方が良いかもですわね。王子殺しを疑われるでしょうけど状況証拠しかないから拘束されることはないでしょう。

 逆に考えるのよヴァイオレット。これは1度に大勢をブッ殺すチャンスですわ。タイムパフォーマンス最高ですわね!時代はタイパですわ!



 『ライトセイバー』ブイン、ブイン。光の剣を懐中電灯代わりして2階まで上がると声をかけられた。

「ヴァイオレットさま~!!」

 可愛らしい声のする方から炎の魔法使い様が駆けてくる。あらあら、まあまあ、最高ですわね!

 ごへっ!?容赦なく突っ込んできましたわ!危ねえですわ!光の剣を持った相手にむやみに近づいてはいけませんわ!咄嗟に光の剣を納めなかつたら殺してましたわ。

「ごきげんよう。1人で何をしているのかしら?」

 私は炎の魔法使い様の小さな身体を抱きしめながら聞いた。

「ごきげんじゃないですぅ〜あのあの...急に真っ暗になって!それでヴァイオレットさまを探してたんです!あのブインブイン光るやつだしてください!暗いですぅ~怖いですぅ~」

 私の『ライトセイバー』は蛍光灯じゃなくってよ。それより声がバカデカいですわ。至近距離から喰らうクソデカ萌えボイスの破壊力は凄まじいですわ。

「落ち着いて聞いてください。寮内に殺人鬼が潜んでる可能性がありますの。1階で騎士様と生徒が殺されていましたわ」

 炎の魔法使い様がヒュッと息をのむ。なにそれ可愛いですわ。

「現状を把握したいので、どこに誰がいるのか教えてくださるかしら?」

 炎の魔法使い様が私の言葉にコクリと頷く。なにそれ可愛いですわ。



「それでは、貴女は私の部屋に隠れて下さい。絶対に出てはいけませんよ」

「わかりました。ヴァイオレットさま、お気をつけてください」

 炎の魔法使い様を部屋に残し私は3階へと向かう。彼女の話でだいたい把握できましたわね。状況を整理しておきましょう。

 今生きているのは私と炎の魔法使い様を除いて6人。

 要注意人物は宰相様のご子息のメガネ様と騎士団長様のご子息の脳筋ゴリラ様のお2人。あとはザコですわね。6人とも3階にいるみたいですわ。とりあえず合流して......あとは流れで全員ブッ殺しますわ!



「よお、ヴァイオレット。待ってたぜ」

「貴女を拘束させていただきます」

 出会って5秒で即拘束されそうですわ!

 3階に来る私を待ち構えるようにメガネ様と脳筋ゴリラ様が王子の部屋の前で待っていた。

「お待ちになって!なぜ私が拘束されるのですか!?」

 マジでなぜですの?そのメガネ腐ってるんじゃありませんの!?今すぐそのメガネを叩き割って差し上げたいけれど、距離があるせいで殴れませんわ!

「それより、大変ですの!1階で騎士様たちが殺されてますわ!」

 私はお2人の隙を突くために1階の悲惨な状況をお伝えして動揺を誘う。

「それやったのもこの部屋の中の3人をやったのも全部お前だろヴァイオレット」

「そ、違う、そこの王子たちも1階の騎士様も私は殺してませんわ!」

 しょ、証拠を出しなさいな証拠を!ゴリラの言いがかりなんて許しませんわ!

「あ、もういいですよ。今のやり取りで確信しました。彼女が犯人です」

 は?何言ってますの?メガネ叩き割りますわよ。

「理由を聞いてもよろしくて?」

「まずは1つ質問です。なぜ貴女は王子たち3人が死んでることを知っているのですか?」

 そりゃ私が殺したから知ってますわよ......とは言えないですわね。

「私が第1発見者だからですわ。死体を発見してすぐに1階に向かいましたの。貴方たちとはすれ違いだったようですわね」

 私に論争レスバを挑むとはいい度胸ですわね。言葉の弾丸でそのメガネごと顔面論破ガンメンロンパして差し上げますわ!

「いろいろ質問を考えていたのですが、1つ目で詰みましたね...質問2つ目です。なぜ第1発見者の貴女が王子の部屋に死体が3つあることを知っているのですか?」

 そりゃ私が殺したから...アレ?この部屋にあるのは王子と聖女様とクローゼットに隠したザコ様の死体で3つ。あ、やっべぇですわ!

「気が付いたようですね。仮に貴女が第1発見者だった場合、3体目の死体の存在は知らないはずなんですよ。我々が見つけるまでクローゼットの中に隠されていましたからね」

 ドヤ顔がうぜぇですわ!

「さっき炎の魔法使い様に聞きましたの!」

「フレアさんのことですか?彼女は3階に来ていないので殺人が起きてることすら知らないはずですよ」

「だったら彼女が犯人ですわ!こ、これは彼女の仕組んだ、こりゃ罠粉バナナですわ!」

「あの~フレアちゃんは今日の授業が終わってから、私とずっと一緒だったから殺すのは無理かなって」

 脳筋ゴリラ様の背後から声がかかる。誰ですの貴女は!?モブみたいな顔で会話に入るの辞めていただけるかしら!

「もう1つぐらい根拠をだしておきましょうか。死体の切断面が綺麗なんですよ」

「普通の剣じゃあんな傷口にはなんねえな」

 メガネ様の言葉をドヤ顔ゴリラ様が補足する。勝ち誇った顔をやめてくださいな。この頭脳戦の勝利は隣のメガネ様のものですわ。

「普通こんな芸当はできない。でもヴァイオレットさん、貴女なら......できますよね?」

 見事です。王子と聖女様を失っても、冷静沈着に状況を把握し犯人にたどり着いた。素晴らしいですわ。でも、こんな格言を知ってるかしら?

 勝って兜の緒を締めよ。勝利を確信した瞬間、人は隙だらけになりますわ。まぁ私の光の剣は兜ごと切り裂きますけれど。

「えぇ、できますわ。私の『ライトセイバー』でしたらね!」ブイン、ブイン。

 私の腕から発射された光の剣がメガネの首に突き刺さる。間合いの外だからって油断しましたわね!本邦初公開!この『ライトセイバー』飛びますわ!残り6人。

 

 私の両腕から発射された光の剣の片方はメガネ様に命中!グッドキルですわ!しかし、脳筋ゴリラ様に向けた方は避けられましたわ。やりますわね。

 脳筋ゴリラ様を通りすぎた光の剣は後ろにいたモブ顔女様の首を刎ね飛ばす。アラアラ、射線上にいると危ないですわよ?

 私は脳筋ゴリラ様を殺すために駆け出した。残り5人。


『エクスカリバー!!』ニョキ、ニョキ。

 脳筋ゴリラ様が叫ぶと虚空から聖剣が生えてくる。遅いですわ!すでに私の間合いでしてよ!

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 両手に再展開した光の剣は地を這うように脳筋ゴリラ様の両膝を刈り取る。デカい奴は膝から崩せ。我が家の家訓でしてよ!

「よめてんよ!」

 マジですの!?ジャンプして避けやがりましたわ!

「死ねやこら」

 頭上からデッカイ聖剣が振り下ろされる。回避ィ!回避ですわ!!前転ゴロゴロ転がり回避ィ!すぐさま体勢を整える。やべぇですわ~このゴリラ強いですわ~。



 さっきの攻防でお互いの立ち位置が入れ替わりましたわね。ということは、今私のそばにあるのは王子の部屋ですわね。中には残りの生徒が3人と死体が3つ。ひらめきましたわ!

「ごめんあそばせ!」

「ヒィ!?」

 ドアを蹴破り部屋の隅にお目当ての女子生徒を発見。

『大地の聖霊よ――――――ひでぶっ!』

『いや!いや!はすたあ――――――えひゃいっ!』

「お邪魔でしてよ!」ブイン、ブイン。

 何かを召喚しようとした男子生徒2人の首を刎ね飛ばす。残り3人。

「ヴァイオレット!」

 怒声を上げるゴリラ様が部屋に踏み込んできた。意外と素早いですのね!牽制するために足元に転がるモノを蹴り飛ばす。

 「マジかよお前!?」

 聖女様の首ホーリーシュートが脳筋ゴリラ様に向かって飛んでいく。思わず足を止め避ける彼の横を通った聖女様は、窓をブチ破り夜の暗闇に消えていく。ありがとう聖女様。貴女のおかげで私の策が成りましてよ!



 部屋の隅で女子生徒を確保した私は脳筋ゴリラ様に告げる。

「止まりなさい!彼女がどうなってもよろしくて!?」

 効果はテキメンですわ。私が光の剣を突き付けている女子生徒は脳筋ゴリラ様の恋人。最高の人質ですわ!

「どこまで腐ってんだオメェはよぉ!!」

 めっちゃキレてますわ!?大丈夫ですの?額の血管が何本かブチ切れてませんこと?

 とりあえず、人質を利用してゴリラ様の視界外まで逃げたいですわね。一旦隠れてからのスニーキングキル。これですわ。

 

 

 しばらく牽制しあっていると脳筋ゴリラ様がトチ狂ったことを言い始めた。

「ユリア、俺のために死んでくれるか?」

 は?なに言ってますのこのゴリラ?

「わかったわ。貴方のために死んであげる」

 え?マジですの?あ、ガチですわこれ。ゴリラ様が大技を放つ構えしてますわ!恋人を殺すなんて正気じゃないですわ!

「ちょっと冷静になって下さいまし!命を粗末にしてはダメですわ!」

「「お前が言うな!!」」

 息ピッタリのお似合いのカップルですわねチキショウ羨ましいですわ!どーしましょう!?3階の窓から飛び降りるのとゴリラ様の一撃どっちの方が痛くないかしら?肉壁があるから1発ぐらい耐えきれるかしら?光の剣を発射して技が放たれる前に殺す?いや、今の彼は死にながらでも攻撃してきそうですわね!

 よし、耐えますわ!頑張ってくださいませゴリラの恋人様!彼氏の一撃を受け止めてくださいまし!!

『束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流』

 パクリですわ!どこかで聞いたことある詠唱ですわ!

『受けるがいい!エクス......』ボー、ボー。

 光輝く聖剣を振り上げた脳筋ゴリラ様が唐突に炎上した。彼は燃えながら微動だにしない。

 アラ?てっきり振り下ろした聖剣からビームが出るものだと思ったのだけれど......突然焼身自殺するなんて斬新な必殺技ですわね。

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 光の剣を打ち込むとゴリラ様だった炭の塊は粉々に砕け散った。

「あ、そういうことですわね!」ブイン、ブイン。

 呆然とするゴリラの恋人様の首を刎ねた私は部屋の外へ駆け出した。残り1人。

 

 

 廊下に出ると炎の魔法使い様と目が合った。

「ヴァイオレットさまの言ったとおり、本当にコイツがみんなを殺したんですね」

 彼女は憎しみを含んだ目で脳筋ゴリラ様だったものを睨みつける。彼は己の責務を果たしただけですわ。お可哀そうに。

「ありがとう。貴女がいなかったら私も殺されるとこでしたわ」

 2階で炎の魔法使い様に会った際、念のために伝えたデマカセが土壇場に効きましたわ!彼女は私の勝利の女神ですわね。私がこの国を支配した暁には銅像とか建ててあげますわ!でかしましたわ!可愛いですわ!ナデ、ナデ。

「あ、そうでした。貴女って利き腕どちらかしら?」

「え?右ですよ?」

 ブイン、ブイン。



 朝日に照らされた学生寮がメラメラと燃えている。

「やりきりましたわ...疲れましたわー!!」

 ひと夜の大量殺人を無事に終えたヴァイオレットは燃え盛る寮を眺めながら凝り固まった身体を伸ばす。派手に寮が燃えているため、すぐに警備兵が到着するだろう。

 のんびりと警備兵を待っていたヴァイオレットは人の気配に振りかえり驚愕した。

「あり得ませんわ...」

 学生寮の周囲に広がる森から少女が1人、こちらへ歩いてくる。

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 ヴァイオレットが放った光の剣が少女の胸に突き刺さる。しかし、彼女の歩みは止まらない。

 「なぜ貴女が生きていますの。!」

「躊躇なさすぎでしょヴァイオレットちゃん。でもこの程度じゃ生命の奇跡を司る私は殺せないよ」

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 再び放った光の剣が聖女の首を刎ねる。しかし、彼女の歩みは止まらない。

「だから無理なんだって」

「そうみたいですわね。貴女ってどうすれば殺せるのかしら?後学のために教えて下さる?」

 落ちた首を拾い上げながら聖女は答える。

「そうだねー。調理場に大きなかまどがあるじゃない?アレで灰になるまで焼いたら殺せたかもね」

「だったら今日は聖女様で焼いたピッツァで優勝ですわね!」

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 10本の光の剣を束ね、螺旋状に圧縮し聖女へ放つ。光の渦が聖女の半身を削り取る。しかし、彼女の歩みは止まらない。

「もう諦めなよヴァイオレットちゃん。キミの敗因はただ1つ。私を怒らせちゃったこと」

「アラ、お怒りですの?今から謝罪したら許して下さったりします?」

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 100本の光の剣が編み込まれ、巨大な聖剣を形作る。ヴァイオレットは聖剣を天へ掲げ、綴る。

『束ねるは成り損ないの煌めき、輝く虚光の濁流。その憎悪で星を喰らえ!』

 死を形容した光を振り下ろす。

ライト......セイバァァァアアア裏切られた失望の剣!!」

 閃光が奔流し聖女を飲み込む。しかし、彼女の歩みは止まらない。

「ブチギレだよ。やけくそだよ。もう許さないよ。だから諦めて死んでね!」

 周囲の光が吸われるように、聖女に集まっていく。

「ごめんあそばせ!私、諦めが悪いところだけが欠点ですの!」

『ライトセイバー』ブイン、ブイン。

 1000本の光の剣が合体し、積み上がり、光の巨人が現れた。名前は光獣ピカチュウである。

「いけ!光獣ピカチュウ!ライトセイバーですわ!!」

 巨人が聖女に拳を振り下ろす。ブイン、ブイン。

 身体に光を溜め込み発光する聖女は眼前に迫る巨人の拳に指をさし呟く。

『ソーラービーム』バシュッ、ゴー。

 聖女から溢れでた光が全てを飲み込んだ。



 299X年。世界は聖女の光に包まれた。海は枯れ、地は裂け、夜は二度と訪れることがなく、全ての生物が死滅したかのように見えた。だが、人類は死滅していなかった。

「ヒャッハー!汚物は消毒ですわ〜!」

 ブイン、ブイン。

 この世界の未来は明るい。



おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄された悪役令嬢は光魔法で未来を切り開く~ブチギレやけくそソーラービィイイイム!!!!!!~ ジロー=ユビキタス @gromaxex

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ