来訪Ⅱ

1

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!???? 何だ何だ何だ何だ何だ!!!!!!!!??????」

 深夜、地球が割れたかのような轟音と地震で、眠っていた僕は跳ね起きた。震度6が生ぬるく感じるような異常な揺れに、部屋の雑貨は雪崩を起こし、アパートがミシミシと嫌な音を立てる。

 立つこともできず伏していると、やがて地震は収まった。家の中はミキサーにでもぶち込んだようにぐちゃぐちゃだ。

「くっそ、何が起きたんだ………?」

 何とか立ち上がりめちゃくちゃになった部屋を見回すと、あることに気づく。

「ジュラ………?」

 ジュラが居ない。散乱した物の下敷きになっているのかと思い探したが、この狭い部屋の中にはジュラは居ない。

「ん、風………?」

 頬に風を感じて、僕は窓側を振り返る。窓は開け放たれていて、カーテンが夜風を受けてはためいていた。

(寝る前窓は閉めたはずだったが………?)

 窓は大口を開けて暗い夜景を映しているが、次の瞬間———


窓から見える遠くの山が、突如発光し始めた。


「なッ………!!!」

 山は淡い赤色に発光し、闇夜にそのシルエットを表出させている。山からは天に向かって光の柱が伸び、そのあまりにも現実離れした光景に僕は理解が追い付かない。

 あの山は、先日僕とジュラが散歩に行った山だ。町はずれにあるが、ジュラによればあそこには巨大な恐竜の化石が眠っているという———。

「い、一体何が起きて………」

 混乱する僕の脳はしかし、一つの直感を導き出した。

 大地震、居ないジュラ、開け放たれた窓、発光する山、そして、ジュラの秘密。

 ジュラは、まず間違いなく、あの山にいる。そして、この騒動の原因となっている。

 そう思い至った瞬間、僕は行動を起こした。急いで服を着替え、自転車の鍵を取り出し、家から飛び出した。すぐさま自転車にまたがり、あの山めがけてペダルをぶん回す。

 何が起きているのかさっぱり分からない。しかし、あそこへ行かなければならない気がした。そして、ジュラが今まで隠していた秘密の答えも、そこにある気がした。夜道の赤信号を全無視して、僕は自転車を飛ばす。



 さすがに山を自転車で駆け上がることはできず、自転車は麓に止めてきた。

 僕は今度はダッシュで山を駆けあがる。山の中は謎の光で明るく、さながら昼の様だった。

 光の柱は、どうやら山頂から伸びているようだった。山頂に近づくにつれ赤色の光は濃くなり、空も異様な色彩に染め上げられていた。

 軽装で山に来たために腕やら脚やらを枝葉に切られてしまったが、そんなことはお構いなしに無我夢中で走って山頂にたどり着いた。

「ハッ、ハッ、ハァ、ハ………」

 山頂は不自然に開けていた。膝に手を付き、肩で息をする僕の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。

 山頂は、隕石でも落ちたかのように荒れ果てていた。中心部がクレーターのように陥没し、草原はめくり返され岩肌が露出していた。それなりに生えていた木々は爆心地を中心にして全てなぎ倒されている。クレーター全体が発光しており、明らかにこの星のものとは思えない、異質な世界が作られていた。

 そして、クレーターの中心部には、異形の影が二つ、互いに向き合っていた。

 僕は岩肌剥き出しの傾斜をズザザザザと滑り降り中心部へ向かう。

 異形の一方が僕に気づき、こちらを振り返る。

「ハクア!? 何故来た! 人払いの結界を敷いていたはず………!」

「ジュ、ラ———?」

 異形に声をかけられ、僕は静止する。なぜなら、ジュラのような声で僕を呼んだその生き物は、僕の知るジュラとは圧倒的に異なっていたからだ。

 まず、その姿は人間ではなかった。四肢こそあるが、真っ先に目につくのは、背中から生えた大きな翼と尻尾だ。背面の上部からは二対の巨大な翼が生え、腰元からは太い尾が伸びている。白く流線形の身体には空色の文様がくっきりと浮かび上がり、鮮烈に輝いている。手足の計16本の指先には巨大な鉤爪が備えられ、口から覗く牙もより鋭利に尖っていた。身長も巨大になっており、少年のようだった今までの体躯と比べて三倍以上もあるように見える。そして何よりも異常なのが頭。可愛らしい顔は根本から失われ、代わりに首から上には、肉食獣のような頭部があった。以前の姿と共通しているのは、その白い肌と青い瞳だけだ。

「お前、ジュラなのか………?」

「ほぅ………本来の姿を現さずに潜伏していたのかな………?」

 僕の質問に答えたのはしかし、もう一方の異形だった。合成音声のように歪んだ低音で。

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