姫騎士メルルの遍歴

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姫騎士メルルの遍歴

 王国第12騎士団第7中隊ᚠ支隊所属の騎士メルルが最初に凌辱されたのは、無能な上層部の判断で雪中行軍したことにより大量の死者をだしたことで人々の記憶にも新しい冬戦役のときだった。


 素封家の一族に生まれたメルルは幼い頃から騎士になることに憧れ、渋い顔をする親を尻目に武芸はもちろん勉学にも励み、騎士団の入団資格である齢16になるとさっそく入団試験を受けた。数多のライバルたちを押しのけ首席で合格し、半年間の見習い期間を終えると、将来のエリート候補たちが集まるᚠ支隊に配属された。だが、最初の遊撃任務中に、支隊は運悪く繁殖期のオークにでくわし、対オーク装備を持っていなかったためなすすべもなく端から殺された。唯一女性だったメルルだけが生きたまま捕らえられ、ねぐらである洞窟に拉致された。


 一部の魔物が人間相手に繁殖行動をとるということは知られているが、かなり稀なケースである。魔族脳神経学者の研究によると、前頭葉の先天的な疾患により、他種族、特に人間に劣情をもよおすようになるのだという。人間以外だとエルフに交尾をせまったケースが報告されている。不運にもメルルたちを襲ったオークの群れはそのような異種間交配症だった。


 一般的にオークの交配は一週間ぶっ通しで行われ、その間休まる暇はない。そして交尾を終えたオークは蓄えていた食料を貪ったあと眠りにつき、目覚めると再び交尾をはじめる。そのサイクルが2ヶ月あまり続くうちに雌のオークの妊娠が発覚し、1ヶ月後には十分に育った赤子を産み落とす。そして、産むやいなや雌オークは雄オークを棍棒で殴り殺してしまう。なぜそのようなことをするのか。恥辱のためであるという説があるが、まだはっきりしたことはわかっていない。これが人間の場合だと、たいてい交尾の最中や出産時に母体は死んでしまうのでそのようなことはない。


 捜索隊が雪の降る森の中を裸でさまようメルルを発見したのは、支隊が襲われてから一週間後のことだった。その間になにがあったのかメルルはいまだに沈黙を貫いている。ただ、支隊がオークに襲われ自分だけが助かった、とだけ語った。


 半年間、メルルは診療所にはいり夏になる頃ようやく退院した。家族は除隊を勧めたが、頑として断りそのまま第3中隊に配属された。まだ意思はくじけてはいなかったのだ。そして、隊に合流するために早馬で渓谷を抜けている途中で、7匹のノームに襲われた。


 12歳児並みの知能はあるノームは、卑劣にも小路に罠を仕掛け、メルルは馬もろとも土中から跳ねでた網に捕らえられた。ノームたちは馬をただちに殺すと、網の中でもがくメルルを棲家としていた廃屋につれこみ輪姦した。7匹で代わるがわる犯したのち、家の外に捨て、いやらしい笑い顔で一瞥したあと扉を閉めた。


 ノームがなぜ人間の女性を犯すのかよくわかっていない。木の股から霊が凝り固まって生まれる精霊のようなものなので、繁殖が目的ではないことは明らかだ。ただのいたずら目的だとか、人間の尊厳に興味を持っているいう説がある。


 身も心も傷を負ったメルルは自力で歩き第3中隊に合流した。まだ意思はくじけてはいなかったので、そこで三ヶ月間兵役につき、肌寒くなってきた頃、メルルはまたも凌辱された。


 今度は不定形流動生命体、通称スライムだった。橋を守る闇騎士と1対1の決闘をしている最中で突風が吹き、橋から落ちてしまい、落ちた先がスライムの河だった。メルルは濁流と化したスライムに犯されながら流され、5キロ下流でようやく岸へと這い上がった。


 普通ならスライムに飲み込まれた人間は、たちまち消化されて哀れ養分となるのだが、不思議なことにこのスライムはメルルを性的に凌辱することを選んだ。メルルの全身を飲み込むと肌に触れる面を微細な繊毛状に変化させそこから刺激液を分泌し、特定箇所を適度に刺激した。いかなる塩梅でそのような曲芸が行われるのか、そこには何者かの意思を感じるのだが、スライムにこのような芸当を仕込んだ者の腕前を感嘆せずにはいられない。もちろん被害にあわれた女性には申し訳ないと思うし、調教のために犠牲になった人間の数もおそらく10人や20人では及ぶまい。その点にも哀悼の意を評したい。


 這い上がったメルルはしばし放心して寝そべっていたが、やがて起き上がってその場を立ち去った。やはり意思は強固だった。道行く親切な旅人に服をゆずってもらい、再び隊に合流した。


 それからもメルルはたびたび魔族にでくわし、そのたびに凌辱された。皇女直属の女性のみで結成された白百合騎士団の団長に任じられたときには、最初の護衛任務でゴブリンの群れに襲われ、皇女を含め団員たちが強姦の憂き目にあった(唯一風邪で休んでいた最年少騎士だけが無事だった)。騎士団は解散となり、責任を感じたメルルは除隊した。だが、意思は固く冒険心は失われていなかったので、つてを頼って冒険者ギルドに登録した。酒場でほとんどゴロツキといってもいいメンバーとパーティを組み、迷宮探索におもむいたときには地下10階で貴金属のベッドでくつろいでいるドラゴンに犯された。不良ユニコーンに襲われたこともあった。ユニコーンは処女厨として知られているが、そのユニコーンは不良だったので処女を散らせることを好み、あろうことか強姦も辞さなかった。メルルを後ろから突き飛ばし、昏倒させたあとで上から押しかかりすでに処女ではないことに憤ると怒りに任せて凌辱し、ことを済ませると高らかに響く蹄の音を残し去った。この不良ユニコーンはおりおりメルルの前に現れ、そのたびに凌辱していずこかへ消えた。体長が大人50人ほどにもおよぶトロールに襲われたこともあった。あまり知られていないことだが、トロールの生殖器は一般的な成人男性のサイズとほぼかわらず、その圧倒的な体躯に対して極小である。故に人間を犯すことができるのだが、そのことでトロールに短小などと揶揄するものなら、怒り狂い、町ひとつを破壊し尽くしたこともあるので言わぬが花である。手のひらサイズの精巧にできた人形を愛好する紳士も多いが、彼らならばトロールのことを羨ましく思うだろう。


 そんなメルルに転機が訪れたのは28のときだった。かつての強固な意思も体力の低下とともに弱まり、引退も考えていた頃だった。川で水浴びをしていたメルルは、3匹のサハギンに捕まり、川底の洞窟につれこまれた。またか、と嘆息したメルルだが、礼儀としていちおう抵抗の意思を表明し、何度も繰り返したフレーズ、「くっ殺せ」を言った。


 サハギンたちは三匹同時でメルルに挑んだ。一匹が仰向けに寝そべりその上にメルルが馬乗りになり、その後ろからもう一匹がメルルの後ろの穴につっこみ、さらにもう一匹が前から口に、という図である。魔物の陰茎を口に含むことは初めてではなかったので、その生臭さに耐えていたが、サハギンが絶頂に達したとき、メルルの喉と舌にある種の衝撃が走った。天啓とも言っても良かった。舌に含んだ精子の味を美味しい、と感じた。そして残った余韻は一通りの凌辱が終わったあとも消えなかった。メルルはすきをみてサハギンたちを殺すと、腹をさばいて精巣を食べてみた。


 ひと月のち、メルルは商人のおじのところに訪れ計画を告げた。おじは気難しいひとだったが、メルルの提案を聞くとすぐさま御触れを出して人を集め、狩猟隊を結成した。そして、メルルに率いられた傭兵くずれのガラの悪い一団はサハギンの群れを襲った。群れは皆殺しにされ、雄の腸から精巣がぬきとられた。恐る恐るおじはそれを口にしたところ、あまりの旨さに舌を巻いた。


 メルルとおじは相談して、サハギンの精巣を白子と名付け、はじめはバザールのすみっこで売ることにした。おじは自分の店を持っていたが、リスクを考えてのことである。さいしょは気味悪がって客はよりつかなかったが、メルルとおじの部下たちがさくらとなり実食することによって警戒心もとけ、しだいに買っていく客も増えた。その客の中にヨーデル伯爵がいた。健啖家であった伯爵はその味に惚れ込み、月に一度屋敷に届けるよう言い渡した。


 白子は飛ぶように売れた。メルルの狩猟隊は周辺のサハギンの群れを次から次へと襲撃した。伯爵が食道楽仲間の貴族たちに口を滑らせると、さらに注文は増えた。そしてついに王の耳に届くことになったところで、あたりにサハギンの影はまったく見えなくなってしまった。だが、欲に目がくらんだおじは前の十倍の規模の大隊を組み、投資家を説き伏せ軍艦と奴隷船を買い込み艦隊を結成すると、サハギンの国に侵攻した。


 三ヶ月後、メルルたちは奴隷船に5000匹のサハギンをすし詰めにして帰ってきた。白子はなまものであるため長期保存が効かないので、その場でさばくわけにはいかなかったからだ。だが、殺したあとの大量の死体の処理に困った。不思議なことに、精巣以外のどの部位も食べるのにはむいていなかった。塩漬けにしようが、味噌につけこもうが、その生臭さと苦味は消えなかった。


 メルルとおじは白子を長期保存するための方法を考案し、練り物にして焼き上げるという調理方法を試してみた。するとこれが大当たりし、またも飛ぶように売れた。メルルの強襲船は半年に一度サハギンの国に遠征し、そのたびに財は増えていった。そして、絶滅を危惧した少数の知能を持った上位サハギンは、海底王クラーケンを介してメルルとおじに条約締結をもちかけた。


 条約は100匹の健康なつがいのサハギンたちを譲渡するから、もうこちらにはこないでほしい、というものであった。サハギンの養殖に関してはおじとメルルも考えてはいたが、はじめは首を縦に振らなかった。おじは高圧的に弁舌をふるい、うしろで片手を剣にかけたメルルがにらみをきかせ、震え上がった上位サハギンたちは譲歩に譲歩を重ねていった。そして、サハギンの子どもたちが十分な大きさに育ち、養殖が軌道に乗るまで、毎年白子10トンをおじにわたす、というところに落ち着いた。


 おじは沖に網を張り巨大な生けすを作り工場を建てた。最初の5年は脱走事件などもあり、問題が重なりうまくいかなかったが、6年目から軌道に乗り始めた。竜の髭で編まれた網はサハギンごときではびくともしなかった。生けすで養殖される万を超えるサハギンたちから定期的に精巣がぬかれ、不能となった雄たちは条約に従い船に乗せられサハギンの国へ送られる。送られた者がどうなっているのか誰も知らない。


 メルルは今や50の峠を超え、事業はますます盛んである。数年前に爵位を授けられ、バロネス、レディメルル、あるいは簡素に姫様、とだけ呼ばれたりもする。おじはすでに他界し、メルルが経営の舵を取っている。おじは晩年、白子に魚醤と柑橘系の果実を絞ったものをかけ、それを肴に酒を飲むことを好んだ。メルルは若い頃の無理がたたったのか、身体を崩しがちで旅に出たりすることはもうあまりなかった。


 メルルはこの歳になっても未婚であった。言い寄られることは幾たびもあったのだが、ことごとく申し出を断った。姪はいぶかしがり、あるときなぜかと訊いた。「いろんな魔物に凌辱されたことはあるけど、人間の男性と閨をともにしたことはないの」と、いたずらっぽくメルルは笑った。


 暖かい風が頬をなで、柔らかい日差しのある日、久しぶりに気分のいいメルルは散歩にでかけた。丘を越えると身体もあったまり額から汗がにじみ、メルルは若い頃の冒険を思い出した。ふと、起伏の向こうに一頭のユニコーンを見つけた。ユニコーンはメルルを一瞥すると、鼻を鳴らし丘の向こうに消えていった。メルルは風の抜ける草原をいつまでも見つづけた。


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