冒険者の仕立て屋さん・プロット集

ヤナギメリア

プロット集①

 武器、または魔術などを用いて身を守り、未踏の地へと踏み入っていく者たち。この世界で最も愚かで、好奇心と、欲望、ロマンを求め続け、旅の果てに、本当にどんなモノにでもなってしまう者たち。

 自らの昏む死すら時に欲する、欲深くて、欲深くて、欲深い者たち。

 それが、それこそが、冒険者だ。


 冒険記

 クック・ヤン 著


 洞窟の奥まで行くと、家が何件か入りそうな広い場所に出て、水も奥から流れてる。

 間違いなく外に近い。悪運だけは天下一な私も、この時ばかりは自分の運に感謝した。


 壁伝いに覗くと、そこに斜めに穴が空いていて、夜空が見えた。


「出口だ…!」

「待って!、何か…?、死ん、でる?」


 駆け出そうとした彼を引っ張って、止めた。

 右の端に結構腐った、毛むくじゃらの熊の死体が2つ、折り重なるように死んでる。

 風に乗って、妙な匂いがすると思っていた。腐った柔らかい、リンゴのような臭い。

 病か呪いの匂いだ。よく知っている匂いだ。嫌というほどに、知ってしまっている香りだ。


「これ何か、ヤな感じがする、早く行こう、クックくん」

「やな感じって?」

「…女のカン」


 彼に、また嘘を付いた。彼に嘘を付くのはもう何度目だろうか。

 心が痛む。魂が軋む。辛い。キツイ。

それが何より。笑ってしまうほど、終わっていて。


 とっても、キモチイイ…。


 今私は、とても気持ちの悪い笑みを、浮かべているんだろうなと思いながら。ひっそりとほくそ笑んだ。


「………………?」


 純朴な彼は少しだけ怪訝そうに、私の顔を見た。

あ~…堪んないなあ、その顔ぉぉ…。

 喩えだけど。高い壁から突き落としたくなって、ムラッムラしてしょうがない。

 耐えろぉ私ぃ。彼は出会ったばかりなのだ!

 それに…。


「その、クックくん、あんまり見ちゃ悪いよ、…愛し合って、死んだみたいだからさ」

「え?、あ、そ、そういう………?」

「皮が剥がれてる、…のかな?、手だけ合わせて、行こうね?」

「うん」


 死んじゃってた熊たちに黙祷を捧げて、私らは横穴に近づいた。幸いにも穴のサイズは、十分に私らが通り抜けられる大きさだね。

 穴の近くまで行くと、足元に木片みたいなものが散乱してる。

 釘も飛び出てる。えらい危ないな。これ。


「だめだ、吊り梯子が切られてる…」

「ふっふっふ、こんな事もあろうかと…!」


 カバンから少しほつれた鈎付きのロープを取り出した、何度か投げつけて上手く引っ掛けた。

 やったー!、初めてにしては上手くない?アタシ。


「先に登って、僕ならなんとか、これぐらいなら飛べるかもだから」

「分かった!」


 ふっふっふ、柔道で鍛えた腕前を見せてくれるわー! サボり魔筆頭だったけど。

 あ、下でがんばって受け止めようとしてくれてる。カレシにするなら、こんな子が良いなぁ。

絶対に、できないけどね。


 鍛錬場の縄の半分も無いもん、簡単だね!

 クックくんも、おっかなそうに登ってきた。


「わっ!、あぁぁ!」

「クックくん!」


 登ってる最中にロープが切れかかって、慌てて翼をバタバタさせながら彼は登りきった。

 最後は必死に水中を泳ぐようにちょっと飛んで、岩の端になんとかしがみついて、引き上げた。


「ぷっ、あははははは!、クックくん必死だねぇ!」

「酷いなぁ、笑わないでよぉ」

「ごめんごめん!、ほら、湖が見えるよ!」


 どうやら緩やかな傾斜の場所に出ていたようだ、ゴツゴツしている丘の上で、街道や、遠くにある大きな山の遺跡群を一望することができた。


 えらい高いな、朝霧と湖に雲海が掛かってる。

 獣人の目だとよく見えるけど、クックくんはどうなのだろう?


「人はいない、…よね?」

「たぶん、うろついてるのはもっと街の近くなんだと思う、よくわかんないけど」


 空はかなり白っぽくなってる、夜明け前の深い蒼色を押し上げてる。

 周囲の様子は誰かが居た形跡もないみたい、どうやらこの道で逃げてきたのは、私ら二人だけのようだね。


 ……2人だけの世界、か。

 いっそ、世界に彼と私だけなら良いのに。それなら後腐れなく、何だってできる。

 理不尽すぎることなんて、ぜんっぶ放り投げて、笑って、笑って、笑い抜いて。

 何だって無責任に、できちゃうのになぁ…。


 そんな風にクソほど卑屈になっていると、唐突に、風が吹いた。

 私の鬱屈した思いは、ただ一陣の光に吹き飛ばされた。


 朝日だ。


 目を奪われる。アタマが勝手に音を歌い出す。


「《本当にいい景色は、歌を感じるモノよ》」


 母様が昔、語ってくれた、愚かで愛おしい魔法が、心の底から奏で出す。


 登りつつある太陽が湖と溶け合い、光の道を作ってる。

 赤と青に分かたれ、混じり、紫となり、満たされた世界だ。

 ただ見つめるだけで恐れすら抱く、触れ得ざるべき物。


 美しい、大自然の原風景。


「キレイ…太陽と同じ高さみたい…!」

「…イイ」


 きっとこれが、アタシたち2人の原風景。

 私たち2人の、始まりの冒険譚。

 まだ傷つくことも、傷つける事も知らなかった。


 遠い遠い、自らの生を祝福した。竜の宝物。


 泡沫の、夢だった。





 ☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


少しでもこのプロット集が、読者様のご参考にしていただけるなら幸いです!


他にも「冒険者の仕立て屋さん」シリーズはあるので、是非御一読頂ければ嬉しいです♪

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