猫の知らせ
矢寺
猫の知らせ
人のような猫ね。
目つきが悪くて細長い。綺麗な黒色で芯が強くて撫でる時に手のひらが痛くなる。猫らしい青い瞳かと思えばちょっぴり違う。あかい。ひどくあかい。
でも暗闇ではわからない。目も色も真っ黒に見えてしまってどこに行ってしまったのか。
私が布団に体を挟み込んだ時。貴方はふすまを音をたてないように優しく猫の手で開ける。
閉じもせずにいそいそと、足取りをはやくするように体を丸めて横に眠りにつく。あかりは決して消してくれない。器用な手があるのだから私を起こさずに消して欲しいものだわ、と枕ととろけあいながら考える。
壁にかけた時計がかちかちと呼吸をして、足が深海魚のようになった時に、貴方と私は一緒にもぐる。
猫なのに水が好きな貴方。人なのに水が嫌いで沈んでしまう私。
潜在的な意識は瞼のおもさで押さえつけられる。
そうしてようやく私と貴方は対等になれる。
目が覚めると貴方は私の横に居ない。
ふすまの隙間から光が差し込んでいる。猫1匹分が通れる隙間。きっと貴方は外へ行ってしまったのね。落ち込む隙間も与えられず光とは逆のふすまの奥から電話が鳴る。
布団を体から剥がして、のそりと立ち上がる。喉がふわふわと揺れていて、まだ夢の中にいるうな。
じりりりりり、
と火災報知器のようになる受話器へ足を歩ませ、手に取った。
「もしもし、どちら様ですか」
「警察のものです。川尻さんの奥様であられますでしょうか。」
「はい」
「旦那様が交通事故で、…、警察署にお越しになってください。担当の…」
貴方は猫のような人。上半身だけひかれてしまって、しんでしまう。猫のように脆い人。
「いいえ、あの人は今ここにいます」
貴方は今私の前にいる。あら、髭をそっていたのかしら?血が出てるわ…でもこんなに真っ黒。暗闇の血は黒く見えると聞いたけれど、こんなに黒かったかしら。
『ざーーーーーーーーーーーー』
「この年で詐欺電話だなんて。酷いわ全く。貴方、ご飯にしましょう。」
私をちらりと見上げて、おしりを向けて台所へ向かう。
本当にあなたって人は。猫のような人ね。
猫の知らせ 矢寺 @kujira_1999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます