・飛竜ファフナと第二次イチャラブデート - おお、あなたトモダチ! -

「おー、ファフナ、いいところにきたジャンよ! 超カッケー竿が入ってるぜー!」


 釣り具屋さんの店主はネズミ系の獣人さんだ。

 戦いに向いていなそうな小柄でホッソリとした人だった。


「おお、まことか!」

「これ見るジャンよ! ここのロックを外すと……ほらっ、竿が伸びるジャンよー! これ、イケてねぇーっ?!」


「おおおおーーっっ、なんだこれはーっ!? これ、どうなってるジャンよっ?!」

「マネすんじゃねージャンよ!」


 ファフナさんは伸びる竿に夢中になった。

 俺のことなんてそっちのけで、ネズミさんと一緒に竿に興奮した。

 なんか、仲間に加われなくて悔しい……。


「で、どうジャンよ、ファフナ? この前の特攻でよー、たんまりもらったんだろぉー? 買うジャンよー?」

「ふっ、我を舐めるな。そんな金、もう手元に残っているわけがなかろう! 全てこの胃袋の中よっ!」


「バ、バカジャンよ、おめーっ?!」


 欲しいけど買うお金はないそうだ。

 そこでネズミの人は、商談のターゲットを俺に向けた。


「おお、パルヴァス王子様っ、コルヌコピアの化身よ! 宿屋、繁盛しまくってるそうジャン?」

「商売上手だね、ネズミさん……」


「めっそうもないジャン!」

「その面白い竿、おいくらですか?」


「へいっ、金貨300枚のところ特別価格で、30枚でお売りするジャン!」


 このネズミさん、なんかうさんくさい……。

 商店街の儲けはザナームに入るという話だけど、それにしたって売り方が怪しい……。


「おい、本当はいくらだ? 正直に答えんとミルディンにチクるぞ」

「ファフナ、それ勘弁するジャンよ……!?」


「そうかー? ミルディンはお前が売り上げを過少申告していると疑っておったぞー? 我に銀貨1枚で売れ」

「鬼かおめぇーっっ?!」


 恐ろしいことに冗談で言っているようには聞こえなかった。


「俺が買うよ。いくらで売ってくれる?」

「おお、あなたトモダチ! コルヌコピアの化身様! では金貨10枚で売るジャンよーっ!」


 まさかの97%OFFだった。


「買うのかっ!? 買うなら貸してくれっ、使ってみたい!」


 そしてまさかの貸してもらうコースをご希望だった。


「クシシシシッ、ファフナはやっぱバカジャンよー?!」

「なんだとーっ、バカで何が悪いっ!」


「これ、デートジャン? 彼氏が買うって言ったら、彼女にプレゼントするやつジャン?」

「んなぁ……っっ?!!」


 借りる気満々だったファフナさんは、『彼氏彼女』という描写に顔を真っ赤に染めた。

 本当にかわいい人だった。


「プレゼントするよ」

「毎度ありジャーンッッ!! 今後ともごひいきにジャン!!」


 お金を払って、面白い釣り竿を受け取った。

 それから店内ではなんなので店の軒先に出た。


「わ、我は貸してくれるだけでかまわんぞ……? 残念ながら、そなたの彼女ではないからな……受け取れん……」

「そう?」


「さすがに貰うには高すぎるぞ……」

「確かに。……じゃあ貸してあげる」


「本当かーっっ?!! 今からかっ、今すぐ貸してくれるという意味かっ!?」

「うん、しばらく預けるよ」


 釣り竿をファフナさんに預けた。

 後はこのままなし崩し的に、貸したことそのものを忘れればいいだけのことだ。


「我も大きなロッドを持っているのだがなーっ、そういうのは邪魔くさいのだっ! 特に我は飛び回るからなっ!」


 釣り竿を抱いてファフナさんは踊り回った。


 かわいい……。

 まるで子供みたいだ……。

 ミルディンさんがあれだけ厳しくも溺愛するのも、この姿を見たらわかる。


「でも釣りって男の子の趣味だよね。もう少し女の子らしい物はいらないの?」

「ふんっ、バカめ! 興味ないな」


「でもドラゴンと言ったら、金銀財宝――」

「宝石が食えるか? 食えん」


「まあ、そうだけど……」

「絵や本で腹が膨れるか? 膨れん」


「本も楽しいよ?」

「我は興味ない」


 そう答えながらドラゴン娘が伸縮自在の釣り竿をビュンビュン振り回した。

 今は道が空いているからいいけど、このままだと被害が出そう。


「それは一度たたんで、買い物の続きをしよう」

「む……買い物か……。今すぐ釣りに行きたい気分だ……」


「それはダメ」

「な、なぜだ?」


「俺が台本通りでないとダメなダメ人間だから」

「そ、そうか……。その台本の結末は、いったいどうなって――あ、いや、やはりいいっ、全てそなたに任せる……っ!」


 逃げられたら困る。

 今は語らずに、プレゼントを色々と送って外掘りを埋めるフェーズだ。


「あ、本屋がある。俺、あそこ入りたい」

「うむ、死ぬほど退屈そうだがよいぞ」


「ありがとう、すぐに済ませるよ」


 店に入った。

 ファフナさんはカビ臭い本屋の匂いに鼻をつまんだ。


 店主はだらしない格好の神族さんだった。

 珍しい来客を見てもさっと流して、読書を再開するような変わった人だった。


「う、うう……うううう…………」

「ごめん、もう少し我慢して。あとちょっとだから」


「うー……ううー……臭い、陰気臭い、愛想がない、つまらない……っ」


 本をいくつか見繕った。

 さすがに値が張ったけど、宿屋コルヌコピアの利益からすれば些細な額だった。

 読み終わったら店に置くのもいいだろう。


 それと絵本を見つけた。

 これならファフナさんでも楽しめそうだ。

 絵が面白いのを1冊選んで、レジに持って行った。


「はい毎度、またおいで」

「そうさせていただきます」


 ネズミの人とは正反対の、全く愛想のない店主さんだった。

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