・泥鱗の芋将軍 - 芋芋芋、芋好き過ぎ将軍と作付けしよう -
ここは直径13キロメートルの球体世界。
そのうちの3分の1足らずを進んだところに、パンタグリュエルの住処がある。
カチューシャさんはそのさらに先を目的地とした。
こうなると目的地にだいたいの憶測が付く。
なぜならここは球体世界。
6.5キロメートル歩けば世界の裏側にたどり着いてしまう。
「着いたっす! ここが自分、芋将軍の芋畑っす!」
「えっ、カチューシャさんの?」
「ザナームに加わったときに、ミルディン殿のお言葉に甘えてこの辺りをお預かりしたっす」
目的地は世界の裏側だった。
そこに柵に囲まれた土地が用意されていた。
あの柵の内側全ての管理をカチューシャさんは任されているそうだ。
「まさかあれ、全部カチューシャさんが耕したとか、ないよね……?」
農業には詳しくないけど、個人が管理する広さとは思えなかった。
「おお、なんでわかったっすかー?」
「え……っ?!」
「自分、辺境の芋将軍っすから。二日に一日は土いじりしてないと、なんか落ち着かないっす……生きてる実感がないっす……」
「すごい……」
あっけに取られて辺りを見回した。
カチューシャさんの開墾中の畑も圧巻だったけど、この辺りにはそれ以上に目立つものがたくさんあった。
1つは湖。オルヴァールの裏側には美しい湖があった。
その湖水は上水路に繋がり、オルヴァール中の畑や住宅地に運ばれている。
2つ目は塔。
湖の中心には塔がそびえていた。
その塔の頂上からは水が湧き出し、光がうっすらと虹を描き出している。
宝石世界オルヴァールの水源地は神秘的な人工物だった。
そして最後の3つ目は、塔に続く大きな橋と、その先にある広場。
その広場には大きなエメラルドが地中から突き出ていた。
「あれ、何……?」
「知らないっすか? ここの人たちはみんなあそこから外と出入りしてるっす」
「ど、どういうこと……?」
「ミルディン殿は
単語だけは知っていたけど、こんなに荘厳で美しい財宝だとは知らなかった。
そうだとすると、ここはオルヴァールの裏側どころか、こここそがオルヴァールの中枢ということになる。
巨人パンタグリュエルがあそこで暮らしているのは、侵入された際にここが最前線になるからなのかもしれない。
「あの水、ポータルの力を使ってくんでいるのかな……?」
「細かいこと好きっすねー」
「気にならない?」
「全然気にしないっす」
「そ、そう……」
カチューシャさんがこちらにクワを突き出した。
俺はそれを受け取って、農具の意外な重さに驚いた。
「さ、ワーカホリック気味の王子様、一仕事してもらうっすよ」
「俺に手伝わせてくれるの?」
「むっふ、パルヴァスはそういうところいいっすねー。旦那にしてこき使いたくなるっすよー」
「ははは、宿屋さんもいいけど、農家さんもいいかもね」
見よう見まねでクワを振ってみた。
イメージと違って、狙ったところに全然落ちない。
「おおっ、思ったより使えな――おほんっ! しょうがないっす、自分が直々に教えてあげるっす」
「ありがとう、カチューシャさん! ……わっ、わあっっ?!」
カチューシャさんに後ろから抱きすくめられた。
カチューシャさんはおっぱいが大きい。
肩のあたりに彼女の温かくて大きな弾力を感じた。
「おやおやー、ませてるっすねぇー♪ 触りたいなら好きなだけ触っていいっすよー♪」
「するわけないよっっ!!」
「大丈夫っす、自分も楽しませてもらってるっすから」
「た、助かるけど……っ、困るよぉ……っ」
大きな膨らみが気になりすぎて、ちっともレクチャーが頭に入らなかった……。
・
デートとはとても言えないかもしれないけど、誘ってくれたことに感謝せずにはいられないほどに土いじりは楽しかった。
カチューシャさんはなんでも親切に教えてくれた。
いちいち気を使わなくていい気さくな性格が心地よかった。
耕した畑に種芋を植えた。
自分が耕した畑で、自分が植えた種芋がいつか芽吹くと思うとワクワクした。
労働としてはとてもハードだけど、確かなやりがいがあって、気付くと昼過ぎになっていた。
休憩を提案すると、カチューシャさん手作りのサンドイッチがリアカーの底から飛び出してきた。
マスタードの入ったチーズサンドが特に美味しかった。
カチューシャさんはとても素敵な女性だ。
素朴で、着飾らなくて、それに胸も度量も大きい。
たった二日でザナーム騎士団に溶け込んだという武勇伝は伊達ではなかった。
「さて、一息入れたところで、もうちょこっとがんばるっすかーっ!」
ハードな肉体労働を止めると、急にだるくなった。
「パルヴァス……?」
お腹がいっぱいになると、途端に眠気が襲ってきた。
名前を呼ばれてもまぶたが開かなかった。
「くぅぅ……っ、なんと無防備な……っ」
デートなのに寝てしまうなんて最悪だ。
「自分、こんな弟が欲しかったっす……欲しかったっすよ……っっ」
けど生理的欲求にはとても勝てそうになかった。
心地よい木漏れ日と、湖からの爽やかな風が悪かった。
「スリスリ……お、おお……! なんという玉の肌……っ」
温かくて気持ちのいい夢を見た。
「ファフナが羨ましいっす……。自分も卵生だったら、後先気にせずに衝動に身を任せられたのに……スリスリ……」
なぜだか足がくすぐったい変な夢だった。
「ぐふっ、ぐふのふ……っ♪ 今なら伝説の変態、
激しい鼻息を耳元に感じた……。
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