・イチャ付くだけで最強バフ、発動!

 朝ご飯、美味しかった。

 ファフナさんの好物ばかり入っていた。

 分厚いハムチーズサンドに、カツサンド。ジャーキー、煮干し、裂きイカ。青リンゴまで入っていた。


「すまぬ、昨晩あまり眠れなくてな……」

「俺もだよ。明日デートだと思うと、なかなか寝付けないものなんだね」


「デートじゃろうか、これは……」

「うん」


 お腹がいっぱいになるとファフナさんは目を擦り始めた。

 この前コギ仙人とご一緒した席で、不思議なこの世界を見下ろした。


「そこの斜面、昼寝にちょうどいいんだ。少し寝ない?」

「なん…………じゃと……?」


 細くなっていた彼女の目が覚醒した。

 相手の言うことが信じられない、という様子だ。


「ファフナさんとあそこで一緒にゴロゴロしたい」

「んなぁぁぁぁっっ?!」


「ダメかな?」

「そ、そんな、そんなこと……わ、我は……」


「一緒に横になって少し寝るだけだけだよ」

「ほ、本当か……? 本当に、それだけか……?」


「それだけだよ」


 嘘だ。コギ仙人に教わった通りにする。

 彼女には悪いけどこっちはもう覚悟が決まっている。


「行こう! 何もしないから、ほら行こうよ」

「ほ、本当じゃろうな……?」


「本当だよ、何もしない」

「わかった……行く……。我もそなたと一緒に、ゴロゴロしたい……」


 彼女を斜面に連れて行った。

 一緒にそこに座って、恥ずかしがる彼女を横たわらせた。


 あらためて予行演習の効果を実感した。

 一度体験していると、心の余裕がまるで違う。

 ありがとう、コギ仙人。


 俺は仰向けを止めて、横寝でファフナさんの方を向いた。


「なぜ……こちらを向く……?」


 そうエッチの師匠に教わったからだ。


「ファフナさんもこっちを向いてくれる?」

「り、理由は……?」


 エッチでパワーアップ計画を実行し、死の運命を乗り越えてもらうため。


「正面からファフナさんを見たい」

「わ、我は嫌じゃ……っ」


 それは困る。

 だって台本から展開が外れてしまう。


 だから俺はファフナさんの奥の手を引っ張った。

 強引にこちらに振り向かせようとした。

 彼女は抵抗しなかった。

 されるがままにこちらへ振り返った。


「貴様……嘘を吐いたな……。何もしないと、言ったではないか……」


 弁解の言葉が思い付かないので、次のアクションに入った。

 コギ仙人がそうしたように、俺は距離を詰めてファフナさんの顔に顔を寄せた。


「なぜ、こんなことをする……?」

「ごめん」


 コギ仙人の小さな手がそうしたように、ファフナさんの肩を抱いて引き寄せた。

 仙人はその後、短い手で俺の身体を下方へと撫でた。


 それと同じことを実行した。


「ぁ……ぅ……やぁ……っ」


 コギ仙人がしたように往復させて何度も身をさすった。

 もふもふのだるだるのコギ仙人と全然違う。

 腰からお尻にかけての起伏がなんだか癖になりそうだった。


「や、止め……て……なんで……ぅ、ぁ、ぁぅぅ……っ」


 これはワンコ。

 胸と背丈の大きなただのワンコ。

 この声はワンコによくある甘え声。

 止めてなんて言っていない。


「やだ……やめ……そこは…………ヒャァッッ?!!」


 もう片方の手で次のステップも実行した。

 コギ仙人は俺のこの部分を短い手をこうしていた。


 少女のようにか弱く、くぐもった声がファフナさんから響いた。

 そして最後に――


「ま、待て……」

「ごめん。でも他にないんだ」


「待て待て待て待て……っ、そ、それはまずいっ、それだけはダメだ……っっ」

「嘘じゃないんだ、本当なんだ。これで成長の限界を越えられるんだ」


「わかったっ、信じる……っ、信じるから、それは、止め、て…………んぅっ?!」


 祝福の接吻をして、コギ仙人に教わった全てを完了した。

 そこまでやり切ると、いたいけな女性に強引なことをした罪悪感に襲われた。


「何か、変じゃ……」

「大丈夫?」


「身体が……」

「熱い?」


みなぎるっっ!!!!」

「わあっっ?!!」


 されるがままだったファフナさんが片手だけで飛び上がった。

 彼女は空に滞空し、驚いた様子で己の手足を観察する。


「何か妙な力を感じるっ!! な、なんじゃぁ、これはっ?!」

「あ、そうだ。マージーカールメガーネッッ!! だっけ、シャキッと」


 コギ仙人にもらった気の狂ったデザインの眼鏡をかけた。

 すると『ピピピピピ……』と眼鏡からおかしな音が鳴る。


 音の感覚は段々と縮まり、最後に『テテーンッ』と鳴ると、謎の文字列が視界に現れた。


――――――――――――――――――――

新たな補正を検知


【LV】

 LV上限187/187

   → 187/188

【特殊補正】

 ディバインシールドLV500

 (※合計50000ダメージまで無効化)

 (訓練された戦士の攻撃=6ダメージ)

【補足】

 軽度の発情状態

 恋に発展する可能性を警告

 責任を取れるか要確認

――――――――――――――――――――


 文面の意味を理解するのにしばらくかかった。

 数字の桁がおかしくて、すぐには理解しきれなかった。


 こんな奇跡みたいなことってあるのだろうか。

 奇跡のバリアー・ディバインシールドがファフナさんを覆って、彼女の生還を約束していた。


 信じれない。

 でも、これで全てが変わる。

 初手で最強の戦士を捨てる罪深い作戦は、栄光が約束された奇跡の反撃作戦に変わる。


 もうミルディンさんが気に病むことない。

 ファフナさんは必ず生還するのだから。


「気味の悪い眼鏡をかけて、気味の悪い笑顔を浮かべるそなたが心配じゃ……」

「ファフナさんっっ!!」


「な、なんじゃっっ?!」

「俺っ、やったよっ!! これで運命が変わるんだ!!」


「何を言う……。スケベなことしただけで変わる運命などあるか」

「ある! これ見てっ、これっ!」


 俺はファフナさんに事のあらましを伝えた。

 ディバインシールドLV500という、奇跡の加護が君にはあるのだと。


「困った……」

「何が?」


「我は死ぬ気だった……」

「死ぬ必要ないよ」


「馬鹿者っっ、死ぬとわかっていたからやりたい放題できたのじゃっ!!」

「う、うん……?」


「今日まで積み重ねてきた膨大な恥をっ、そなたのせいで我は全額支払わなければならんっっ!! うああああっっ、どうしてくれるぅぅーっっ?!!」


 ファフナさんは顔を真っ赤にして天へと昇り、エメラルド製の天蓋に激突すると、いずこへと消えてしまった。


 なんかわかるような、わからないような……。

 人って複雑だなぁ、と思った。

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