短編集
異人さん
プランツドール ~上~
「お客さん、少しうちのお店見に寄ってみませんかね、きっと気に入るものがあると思いますよ」
そう突然呼び止められ、うつ向いていた頭をゆっくりと声の方に向く、するとそこには70代ぐらいのお爺さんがこちらに向かってニヤニヤと根招きをしていた
普通であれば路地裏のこんな夜中の誘いなんて無視するはずの俺は何故かその爺さんに足を向け後をついていく、それは俺の心が弱っているからだろうか、それは俺に失うものが何もないからなのだろうか....分らない、分らないけれでも付いていく、怪しい爺さんの丸まった背中を虚ろに眺めながらただただ
あーどうかこのまま家に帰れなくなりますようにと願うばかりだ
どれくらい歩いたのだろうか10分…いや20分は歩いただろう、まだ着かないのかと口を開いたら
「着きましたよお客さん」
辿り着いた先には古びたアンティークショップがあり、何だか怪しげな雰囲気を醸し出していた
促されるままに中に入る、いかにもな内装に古びた家具や薄暗く埃っぽい店内を横目に見ながら店の奥に進む爺さんはレジのカウンターをくぐり抜け、目の前にいくつかの商品を並べ始めた、全て並び終えた事を確認するため指差し確認をしていると何かが足りないと店の奥に行ってしまった
しばらく待つも帰ってくる様子はなくどうしたものかと考える、このまま立った状態で待つのも時間の無駄なので店内を見ることに
歩き回れば意外と目を引かれるものが沢山あり、並べられている品々を眺めていく
4つ目の猫の置物や奇妙な形のティーセット、壊れたソファーなどが置いてある
(こんなの誰が買うんだ…)
店内をぐるっと一周した所であるものが目に入ったそれは一際目立つ大きな木製で作られたショーケースに入れられていた、周りの品物は埃を被っているのにも関わらず
それは綺麗に大事にされている様子だった
(これは…子供?…)
中を覗くと4,5歳の子供が眠るように座っていた、そのせいか顔がうつ向いておりよく見えないがそれでもとても綺麗な顔をしていることは分る、鼻が高く頬も褐色の肌にも映えるピンク色で唇もリンゴのように赤い、髪はキラキラ輝く赤茶色のふんわりとパーマがかっていた
洋服はシンプルなYシャツと黒の半ズボンとサスペンダー、足には白の靴下と茶色の革靴、ざっとその子供を見終わった
ところできづく
(こいつは人形だ)
薄暗い部屋と褐色の肌で関節部分にある溝に気付かなかった、もう少し近くで見ようと一歩踏み出したところで
「お客さん!あんたにぴったりのしろもんありましたよ!」
がさごそと音を立てながら来るのはこの店の主で、何を持って来たのかを確かめる為またカウンターの方に足を向ける
(この爺さんボケてるんじゃないのか)
そこには大きな鏡を見せニコニコと笑っている爺さんがいた、鏡なんて洗面台にあるもので十分だしそれでもこんなにも大きな鏡は必要ない、ジト目で睨みつけると、爺さんは俺ではなく後ろの斜め下の方に目を向ける
「ほうお客さんなかなかにお目が高い、うちの目玉商品を選ぶとは」
うんうんと頷く爺さんになにを言っているんだと後ろを振り向くと、そこには先ほどまでショーケースに入っていたはずの人形が俺に縋り付いていた
うわっと驚きその人形を放そうとしてもピッタリ引っ付いて離れない
「お客さん、駄目ですよ購入前にうちの商品ぞんざいに扱ってもらっちゃ、ほれこの瓶に息を吹きかけておくれ」
しのごのしている俺に突然ガラス瓶が突き付けられ、何を言うでもなく引っ込め蓋をする、この爺さんは何をやっているんだ
「これでお会計は終了ね、必要なもんは後で家に送るから心配なさんな」
いろんな疑問が浮かんでは消え何もかもが分らないまま俺たちは爺さんに背中を押され店の追いやられる、無理やり追い出された外の景色は数時間前まで俺がいた路地の景色でどういうことかと後ろを振り向くとそこには
あるはずの店のドアはなくただ薄汚れたコンクリートの壁があっただけだった
(これはどういうことだ、何が起きて…本当に何だったのだ)
俺は動揺しながらいまだに張り付いている人形を見下ろすと、そいつは不安そうに大きな紫色の目でこちらを見つめていた
ともかくこの子を此処へ置いていくにもいかず、そいつを担ぎ上げ取り合えず家へ帰ることにした
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