第68話 終章:2
イクルとゲルドの声が。無重力空間の中に響き渡る。
無数の剣戟に合わせて、蹴りや体当たりを交じり合わせる。
空気振動の無い宇宙空間で、イクルとゲルドが会話をしているのは。
2人ともに、
それこそ、無重力と言う空間の中で。
身体の位置を、上下左右に関係なく。
縦横無尽に、剣戟と体術を混ぜて降し合う。
もしも、この闘いを見る者がいれば。
余りの激しさながらも、流麗にも見える2人の闘いに目を離せずにいただろう。
ガギンっ! っと言う音と共に、刀と剣が唾競り合いに為り。2人の動きが止まる。
お互いに、渾身の力を込めて、相手を押し合う。
僅かな時間、鍔迫り合いをした後に。 打ち合わせでもして居たかのように、お互いの武器を押し合って大きく距離を取る。
イクルは刀を鞘に納めて、右脚を前に出して腰を落とした構えで。
対するゲルドは、半身に構えて少しだけ腰を落として、右肘を限界まで後ろに引いて左手を前に突き出した構え。
イクルの構えは、【居合】の構え。
ゲルドの構えは、刺突の構え。
両者ともに、無言のまま
イクルとゲルド。 ほぼ同時に動き出す。
イクルは身体を
ゲルドは直線的に。
両者の身体が交差する。
「げぇおっ!!」
イクルの右肩が弾け飛び四散する。
頭部に至っても、もう少しで頭蓋に被害が及んでいただろう傷跡から血が
口からも血を吐きし。 それでも、痛む身体に鞭打ってゲルドの方に向きを変える。
ゲルドを見ると。 無傷の様で、ニヤリと口角を上げてイクルを見ている。
イクルは、左手に新たに刀を産み出す。
イクルとゲルド。 2人の武器や身に纏う服は、全て
何もない所から産み出すのではなく。
中空に漂う、微粒子や素粒子と言った物を集めて作り出している。
無から有を産み出すのは、例え神でも不可能。
左手に刀を持ち身構えるイクル。
通常時なら、一瞬で回復する肉体も。
ゲルドの
イクルは左腕だけで正眼に構える。
ゲルドは中段に構えをとる。
再び、2人が
2人が動く。
だが、2人の攻撃が交差する時は無かった。
2人が動くと同時に。
ゲルドの身体に右肩から左脇腹に線が走り。
ゲルドの下半身だけが、イクルに向かって数歩前に出ただけだった。
「ぐぼっぉお!!」
口から大量に血を吐き出し、切られた傷口からも大量の血と贓物が出てくる。
先ほど、2人が ぶつかり合った時に。 既に勝負はついていた。
ただ、イクルが切った切り口が、余りにも奇麗に切り過ぎたために。
ゲルド自身にも、イクル自身にも。 切った。切られた。と言う感覚が無かったのだ。
イクルは大きく息を吐き出すと、ゲルドの下半身の部分を刀で突きさす。
刀で刺されたゲルドの下半身が、光の粒子と為ってイクルに吸い込まれていく。
そのまま、イクルはゲルドの側に向かう。
「言い残す言葉は。」
「ふっ。 楽しかったぞ。 模造の神よ。」
「最後でも、それかよ。」
「ふふ。 止めを刺せ。」
「あぁ。 そうさせて貰う。」
イクルが、ゲルドの胸に刀を突きさす。
ゲルドの身体が、光の粒子と為ってイクルに吸い込まれていく。
ミーアの時には、存在値を取り込む事で。 取り込んだ者の経歴を知る事が出来た。
だが。 ゲルドを取り込んでも、ゲルドの経歴を知る事は出来なかった。
何故なら。
ゲルドは【無】によって、自己と言う存在が無くなっていたから。
恐らく、ゲルドにも。 無に取り込まれるまでに、様々な事柄がったのだろう。
だが、無に取り込まれた時点で、ゲルドと言う【元】に為った存在は消えた。
ゲルドの存在値を、すべて吸収したイクル。
だが、イクルの右腕は、いまだに回復しない。
それは、まだ全てが終わって居ない事を指していた。
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