第34話 三大陸合同会談:2

第四回 三大陸合同会談



魔王の世代交代が行われて、僅か三か月後。 突如、魔人族が各大陸に侵攻し始めた。


これには、各大陸の王家も自治領も慌てふためいた。


普通、戦争と言うものは。


兵士たちの兵糧や、武器などの資材。


それに、それらを動かす金が必要に為る。


だから、普通に考えると。 半年から1年は準備期間が必要に為る。


また、その準備期間で。 動きが分かるので対策は可能なのだが。


今回は、対策をする前に攻め込まれてしまい。


各大陸で被害が相次いでいる。


亜人族、獣人族の2つの部族は、割と早くに纏まりを見せたが。


逆に、一番まとまり無いのが。


そう、言わずもがな。 人族だ。



侵攻開始、僅か6ヶ月で。 亜人族、獣人族、各領地の5分の1を。


人族の大陸に至っては、3分の1を魔人族に取られていると言うのに。


自分の領地に被害は出ていないからと、派兵と支援物資を渋る、バルト共和国とスラブ帝国。


現在進行形で、領地に被害を出しながら魔人族と交戦中のレクサス王国。


今の所、戦火に全く影響を受けていないのは、人族の大陸中央の大部分を占めるホーデン王国と。


ホーデン王国の東に位置する、スミニ王国。


スミニ王国と言っても。 その面積は、ホーデン王国の6分の1の面積で、ホーデン王国とは何十世代も前から同盟関係を結んでおり。


現在のスミニ王国の統治者である、スミニ王はホーデン王の弟。


なんでも、スミニ王女に一目惚れして、スミニに婿養子として行き。 スミニ王に気に入られて、そのまま王になったとか。


ホーデン王の隣に座っているのが、現在のスミニ王でホーデン王の弟のスカトロ陛下。



そして、アキト。 そろそろヤバイな。 顔が真っ赤になってきている。


まぁ、この状況下でも、如何にして自分の国の損害を押さえて、相手国に対して有利に立とうとする人族の代表者たちを見てればね。


正直、俺も胸糞が悪い。


執政者としては、正しい姿勢なのかも知れないけど。


この人たち、すごく大事な事を勘違いしている。


「いいかげん」


ガンガンガン!


アキトが切れそうになったので、お玉と鍋を叩き合わせる。


当然、皆の視線はアキトではなくて、俺に注目される。


「さっきから、気にはなっていたが。誰なのかね君はっ!?」


レクサス王国の代表者。 カローラ宰相。


「陛下。発言の許可をいただいても。」


「許可する。続けよ。」


右手を胸に当てながら頭を軽く下げ、ホーデン王に許可を貰い言葉を続ける。


わたくし 勇者アキトの同郷・・の者で、アキト達の保護者をしております。


イクル・タカナシと言うものです。」


アキトと俺。 交互に視線が集まるが、アキトは黙ったままだ。


「まずは、皆さま。 お茶にいたしましょう。 美味しい物を飲んで口にすれば。 違う言葉が見つかると思いますので。」


そう言って、パンパンと2度、手を打ち鳴らす。


ワゴンテーブルの載せられた、ポットに入れたお茶と、茶菓子が持ち込まれて、代表者たちの前に並べられた。


「毒などは入っておりませんので、ご安心ください。」


そう言って、ホーデン王の椀を手に取り口に運んで飲み込む。


冷たい お茶が喉を潤してくれて気持ちいい。


そして、ホーデン王の前に椀を戻す。


ルカさんが、椀に お茶を注ぎ直す。


そして、ホーデン王は、俺が口に付けた椀を気にする様子を見せずに口に運んで飲み干した。


この行動に、獣人族以外の代表者たちから驚きの声が上がる。


「見ての通りに、陛下とは懇意の仲でして。 公儀の場以外では、良く陛下の愚痴に付き合わされております。」


そう言って、肩を窄める。


「ささ。 まずは、お茶で喉を潤してください。」


「おっ!うまいなコレ!」


言い終わるか終わらないかのタイミングで、獣人族 西部都市の代表。 白虎のホワイトタイガートーマが菓子を食べながら言う。


「あら。ホント美味しいわね。 甘すぎないし、かといって物足りない甘さでも無いわ。 それに、ヒンヤリして不思議な感じだわ。」


エルフ族と、グラスランナー族の代表。 エルフのサライ。


「見た目が煎餅せんべいなのに、柔らかいのう。 それに、甘い癖に酸味が効いておる。 これなら甘いものが苦手な儂でも食べれるわい。」


獣人族 東部都市代表、黒山羊のブラックゴートガイラン。


「酒の摘みにはならんが。 たしかに美味いわ。」


ドワーフ族と、ノーム族の代表。 ドワーフのグリコ。


「あこれ!僕たちが集めた蜜を使ってるっ!」


フェアリー族と、ホビット族の代表。フェアリーのナナイ。


「新作か?」


これは、ホーデン王。


「はい。 塩煎餅であんを挟み。餡の中に柑橘系のゼリーを入れております。


煎餅とゼリーは、保冷庫の中で3時間ほど冷やしております。


固い煎餅を、敢えて湿気を含ます事で、また違った食感を楽しんでいただけます。」


他国の重鎮達が、口に含んでいって安心したのか。


人族の代表者たちも、お茶に菓子を口に運んでいく。



「お喜び戴き光栄です。 さて、落ちつたいた所で陛下。」


「続けろ。」


「は。陛下の許可も頂いたので。 ますは、こちらの資料を。」


俺の言葉と共に、メイドさん達が紙を配っていく。


紙には。


156822/1256


 18639/210


239786/3468


 2658/468


126489/2363


  520/48


  328/0


  138/0


  437/12  ・・・・・・・・・・。


この他にも、かなりの数字が表記されている。




「さて。 この数字が、何の数字か分からない・・・・・事として、敢えてお尋ねしますが。


この数字は、何の数字だと思われますか?」


当然、誰からの声も上がってこない。



「まず左側の数字ですが。 これは、魔人族侵攻によって滅ぼされた町と村。


そして、人族の大陸で最初に侵攻を受けて滅んだニセカンダル連合国の住人の数です。


先に言って置きますが。 この数字は、住民登録されていて分かっている数字で在って。 未登録者の数までは含まれておりません。


そして、右側の数字ですが。


右側の数字は・・・・。 生存者の数です。


なお、この生存者の数字は、一般市民達だけの数字で。 かつ、市民登録されていた者の数字なので、多少の誤差はあると思いますので御了承を。


戦いで散っていった兵士としての者たちも入れると、相当数の死者を出しているのが御理解を頂けると思います。」


部屋の中で、ザワザワと声が流れる。



「市民たちは抵抗したのか?」


質問したのは、レクサス王国のカローラ宰相。



「いいえ。 隠密たちの話では。 抵抗どころか、逃げ惑う人々を襲っていたそうです。」


「なぜ助けなかったのですか!」


バルト共和国外務大臣アンナ・ヴィッチ。


「奇な事をおっしゃいますね。アンナ外務大臣殿。


たった、数人の隠密に、どうしろと?」


「っ。」


「彼らとて、救いたいと思う気持ちはあったでしょう。 同じ人族・・なのですから。


しかし、彼らが生きて帰って来たからこそ。 この情報が私たちの手元にあるのです。


この情報を持ち帰るために、20人送った密偵の6人は死亡、4人は捕まって生存不明に。 そこは御考慮いただきたい。」


「感情で口を挟んだ事を謝罪します。」


頭を軽く下げるアンナ。


「そちらの隠密の練度が足りなかっただけでは無いのか。」


厭味ったらしく言ったのは。


スラブ帝国外務大臣次官。 アブノ・マール。


「そうですね。 スラブ帝国の密偵に比べると、練度が足りなかったのかも知れません。」


そう言って、ルカにアイコンタクトを流すと。 ルカがアブノ外務大臣次官の前に1枚の用紙を差し出した。


差し出された用紙に目を通して、アブノ外務大臣次官が俺を睨みつける。


「何を驚きになっているのでしょうか? そちらの密偵の名前を書いているだけですよ。


当然。 そちらも、こちらが送り込んでいる密偵の数と名前くらいは押さえておられるのでしょう。」


「ふん!、当たり前だっ!」


「それは何より。 うちも、最低でも50人は各国に送り込んでいますので。」


この言葉に、人族の代表者たちの表情が一気に険しくなる。


どこの国でも種族でも。 密偵と言うのは放っている。


それでも、人族代表たちが驚いているのは、自分たちが把握していた人数よりも多いと言う事だったのだろう。


「いやぁ、練度が低いので。 もっと見つかっているのかと思ってましたよ。 いやいや、安心しました。


練度が低くても、結構やっていけるものなのですね。 はははっ。」


最後は、アブノ外務大臣次官の方を見て、思いっきり小馬鹿にしたように笑ってやったよ。


お~お~。 顔を真っ赤にしちゃって。 外務大臣次官の癖にポーカーフェイスも出来ないのかね。


この後、獣人族、亜人族と続けて、魔人族の侵攻で被害を表記した用紙を配る。


そこにも、同じように住んでいた住人のおおよその人口と、侵攻後に生き残った人数を表記していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る