第31話 と、ある男の その後:1

先輩に連れられて、店の近所の喫茶店で食事を取る事に為った。


そこで、出会ったのが、前田まえだ 翔子しょうこさん。


俺と同じ年で17歳。


短めのポニーテールで、前髪はアップにしてる。


翔子さんには、目立つ部分が2か所ある。


1つ目は身長。


とにかく高い。 俺の身長は182センチあるのに、翔子さんの目線は少しだけ下と言った感じだ。


後で聞いたら、176だと言われた。


2つ目は胸。


とにかく大きい。男女問わず、過半数は見事な大きさに視線が行くと思う。


高い、デカイ、美人と3拍子揃って、目立つ女性だ。



ある日。いつもの様に、翔子さんの居る店でモーニングセットを頼み。


最近ハマっているゲームの攻略本を見ていた時だった。



「いっくんも、ときめいてメモリアルやってるんだ?」


「もって。 しーちゃんも、やってるの?」


「うん。 おもしろいよね。」


「あ、うん。 ってかホントにやってるの?」


「うん、うん。現在、紗希ちゃんを攻略中なのです!」


大きな胸を張り答える翔子ちゃん。 ってか、また大きくなってるような・・・。


美味しいコーヒーと、美人な翔子さんの顔をみたくて。


ほぼ毎日通った甲斐もあり、お互いに愛称で呼び合えるくらいには仲が良くなっていた。


そして、俺が見てた攻略本は【ときめいてメモリアル】。ジャンルは、恋愛シュミュレーションゲーム。


登場する人物は、15人中14人がヒロイン。


男1人は、主人公にヒロインの情報を流してくれる悪友ポジションだ。


そう、今の時代で言う所のギャルゲーだったのだから。


女性の翔子さんが、プレイしてるのに驚くのも無理は無いと思う


「おーい? いっくん?」


「あ、ごめん。」


「で、いっくんは誰を攻略中なの?」


「俺? 俺は彩子さんだね。 あの気まぐれさが良いね。」


「お~。いっくんは、あ~ゆうのがタイプっと。」


「いや、いや。実際に、あんな子が居たら大変だって。」


苦笑しながら答える。


「じゃぁ、実際のタイ。いらっしゃいませ。」


新しく入って来た客の対応で、離れていく翔子さん。



「実際のタイプみかぁ・・・。」


そう言われて、思い出すのは、初恋の女性。廣垣ひろがき桂子けいこさんの顔。


当時、カビと仇名を付けられて、髪の毛に白い粉のような物が出ていた俺の頭。


それを気にせず、俺の頭を撫で繰り回して、移らないと言ってくれた女性ひと


この年になって。 カビと言われていた頭の白いやつも、実はアレルギー体質だったのが分かった。


親は、俺に無関心だったので、アレルギー反応の事など気にもしていなかったようだ。


妹は、どうやら体質ではなかったので、症状は出てなかったみたいだけど。



__________




翌年。 俺と翔子さんは家族になった。


年末の忘年会で酔っ払い、翔子さんのアパートで泊まる事になってしまい襲われた。


そう、俺が襲われたんです! 翔子さんに! 激しかったです!


しかも、一発で妊娠してしまって、なし崩し的に籍を入れる羽目に。


いま思うと、アレって絶対に計画的だったと思う。


しかし、産まれてきた子は未熟児だったために、その命を産まれて間もなくして散らしてしまった。


あの時の翔子さんの落ち込み様は、見てる俺の方も辛かった。



___________




22歳の時に、再び翔子さんが子を宿した。


無事に産まれてくれた。


男の子だ。


名前は霧晴きりはると名付けた。



そして、この年に。 俺にとっての転換期が訪れる。


___________



霧晴きりはるの生まれた年に、俺の店のオーナーが夜逃げする。


元々、博打癖があったのか。 派手に使っていたらしい。


あちこちに借金をしてたらしく。


しかも、うちのオーナーと、翔子さんの店のオーナー同士が男女の関係だったらしく。


翔子さんの店のオーナまで、一緒になって夜逃げしたと。


更に最悪な事に、いずれ俺が自分の店を持つため貯めていた金まで使いこまれていた。


武彦たけひこ父さんの知り合いだったので、俺も安心して全てを任せていたのが悪いと言えば悪いのだけど。


翔子さんに至っては、翔子さんの名義でオーナーが金を借りていたらしく200万以上の借金が。


そういや、何かとオーナーたちが話をしてきて、ハンコを押せとか言ってた記憶が、今になって浮かび上がってくる。


特に翔子さんは、家出の身だったので。 親身に為ってくれたオーナーを信じ切っていたのだろう。


給料は未払い。 寮の家賃も滞納していたので、今月中には追い出される。


借金有り。金は手持ちの2万だけ。


更に、生まれて間もない子供。


翔子さんは、頑なに家には帰りたくないと言ってるし。


俺としても、武彦たけひこ父さんに頼りたくない。


頼れば助けてくれるとは思うけど、子供まで作って助けてくれと言うのは、何か違う気がすると思う。



さすがに家で何かを作って食べる気分じゃなかったので、なけなしの金でファミレスで食事を取っていた時だった。



「おや? 小鳥遊たかなし君じゃないか。 こんな時間にどうした?」


俺たちのテーブルの横に立っていたのは、店の常連さんの男性。


「今晩わ、高橋さん。」


高橋たかはし 誠一せいいちさん。


俺がコッチの店に来た時からの常連さんで、ほとんど毎日の様に店に寄ってくれている人だ。


配管・鍛冶・溶接業関連の仕事をしていて、そこの社長さん。


「店に行ったら閉まってたし。 今日は何かあったのか?」


俺は、高橋さんに、事のいきさつを説明した。



「それは災難だったねぇ。」


高橋さんの言葉に苦笑いで返すしかない俺。



「そうだ。1つ提案があるのだけど。」


「提案・・・ですか?」


「君、うちで働く気は無いか?」


「えっ!? 俺、調理師ですよ。 溶接とか全然知りませんよ?」


「誰だって、最初から出来る人なんていないさ。 君だって、最初から調理をしてたわけじゃないだろう?」


「はい。」


「うちの業界も、実力主義だ。 学歴じゃなくて、仕事が出来る奴が稼げる。 どうだ? 働いてみないか?」


「でも、借金もあるし。 住む所も・・・。」


「住む所は、うちの家族寮に入ればいい。 借金は、俺が肩代わりしよう。 だから、うちで働いて、俺に借金を返す。どうだ?」


「何で、他人の俺たちにそこまで?」


「なに。これでも、人目を見る目は或るつもりなんでね。


職種は違えど、いままでの君を見てきて思ったことだ。


1つ言わせてもらうとね。


人と言うのは、意外と見ている物なんだよ。 それが内外に関わらずに。」


そう言って、霧晴の頬を人差し指で優しく撫でる高橋さん。


「それに、こんなに可愛い子供が出来たんだ。 子供の為に頑張ろうとしない親は殆ど居ない。 君は、頑張る方だと俺は思うけど。」


笑顔を向けて言う高橋さん。


「ぜひ、お願いします。」


テーブルに頭を擦り付けるように、高橋さんに向かって言う。

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