第16話 落としもの!?

その日、俺は珍しく仕事を休み。


家から、少し離れたところを流れる、川辺で寝転がってボーっとしていた。


因みに、俺の仕事は。


王都に多くある飲食店で、出汁ダシの取り方や、調理の仕方を教えたり。


時には、店の手伝いなどもする事だ。


朝の9時出勤で、16時ころに終了。


休憩時間は、暇な時に15分を2回。


これで、他の人の稼ぎと同じくらいの銀貨が5枚。


一見安そうだけど、食材事情は軒並み安く。高いのは衣服と魔道具くらいだ。


家の家賃はタダで、メイドさん付き(俺、専属では無いけど)。


ましてや、俺の場合。 城からの援助金も出ているので、本来は働く必要はないくらいだ。


なので、俺の近所での評判は、立派な家に住んで、メイドを雇い、若い娘を囲っている癖に、安い賃金で働いている変わり者。


と、言う認定を受けている。



「何やってんのよ?こんな所で?」


俺の寝転がる頭上で、ソニアが俺を見下ろす形で見ている。


「見えてるぞ。」


「良いわよ別に。 減るもんじゃないし、枯れ果ててる人に見られても恥ずかしいと感じないし。」


そう言って、何事もなかったかのように、平然とした表情で俺の横に座るソニア。


「それ、一国の姫さんが言っても良いのか?」


隣に座るソニアに、ちらりと目線を向けて言う。


「そんだけ、アンタは特別なのよ。」


「それは光栄だね。」


「ふんっ・・・。」


そっぽ向くソニア。 耳が赤いのが隠せてないがな。


一応、恥ずかしいのを無理して強がっているのね。 可愛いじゃないか。



「うわあぁぁあああぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」


突然、叫び声が聞こえたかと思うと。


バッシャーーーーーン!!


物凄い音を立てながら、川に水飛沫が立ち上がり波紋を広げた。



「イクルッ!」


ソニアの声が上がる前には、俺はすでに行動していた。


靴と上着を脱ぎ棄てて、そのまま川に飛び込む。



落ちて来る時に、一瞬見えたが。 川に背中から叩きつけられるように落ちていた。


あの落ち方だと、水面に背中を強打して肺の中の息を吐き出してる。


この川、川幅は10メートル前後なのに、中央付近だけは水深があって、一番深い所で10メートル以上はある。



川の中を潜水して見渡す。


居たっ! やっぱりっ! 息を吐き出してしまったのか、必死に水面に上がろうとしているが、パニックに為ってるのか上手く泳げていない!


一度、水面に頭を出して、息を吐き出して、再度吸い込んで再び潜る。


ガパァ! っと水中で息を吐き出すのが見えた。


やばいっ! 肺の中の空気を全部吐き出してしまった様子だ!


急いで、その人に近づいて片腕でつかむと、水面に向かって泳ぐ。


「ぶはっ! はぁ、はぁ!」


「イクルっ!」


ソニアが名前を呼んでいるが、それに答える余裕が俺にはない。


岸に向かって、横泳ぎの要領で、落ちてきた人を抱えながら何とか岸に手をかける。


すると、いつの間にか、ソニアの側に居た2人の男性が、俺と落ちてきた人とを岸に引き上げてくれた。


あぁ、ソニアの護衛の隠密さんだね。 できれば、俺の代わりに飛び込んで落ちてきた人を助けてほしかったよ。


ソニアの護衛が、ソニアの側を離れる事が出来ないのは知ってはいても、理解するのと感情は別もんだっ!


「はあ。はぁ。はぁ。はぁ。」


たった、これだけ動いただけで息も切れ切れだ。


地面に四つん這いになりながら息を整えながら、落ちてきた人物を見る。


黒髪にパーカー、下はジーンズ。


「息をしてないっ!」


ソニアが、落ちてきた人の胸に手を当てて、俺を見ながら言う。


くっそぉ! まだ働かせる気かよっ! 今年で52だぞっ!


年寄りを酷使するなよっ!


慌てて、落ちて人物。転移者の横に行くと、胸部の中間に両手を当てて強く押し込むっ!


「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!」


心肺蘇生。とにかく間断なく、出来るだけ早く強くっ!


正直、滅茶苦茶しんどいっ!


1分間で、100回以上が目安だったはず。


いっそ、横で眺めている隠密さん達のどちらかに変わってもらいたいっ!


この星の人たちは、怪我をしたら基本的には回復魔法での治療だ。


なので、心肺蘇生法とかは知らないっ!


「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!」


思いっきり押し込むのだから、俺の呼吸も粗くなってくる。


まだ、水を吐き出さないっ!


心配そうに俺を見るソニア。 いっそ代わると言ってくれっ!


「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!・・・」


やばっ! 限界だっ!


「かはっ! ぶっ! おっ! おおぉぉぉ!」


「吹き返したあぁ~~!」


歓喜の表情で、ソニアが俺を見る。



「おおぅ・・・。 あと・・・任せた。 ・・・休む。」


そう言って、その場で仰向けに為って息を整える俺だった。

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