4話

 パーティ会場からネリーが去り、ブライアンが逃げ、野次馬たちが騒いでいる頃……。



 会場から少し離れたホテルの一室で3人の令嬢が集まっていた。


「「「かんぱーい!!!」」」


3人はグラスに注がれたワインを笑顔で口にした。


「アシュリー、バーバラ。協力してくれて本当にありがとう」


お礼を述べたのは言うまでもなく、キャサリンだ。


「あら、お礼なんていいのよ。だって私達親友でしょう?」


赤毛の女性――アシュリーがにっこり微笑む。


「そうよ。私達、あの男の話を聞いたときからずっと懲らしめてやりたいと思っていたのだから」


ワイングラスをクルクル回すのはダークブロンドの髪の女性、バーバラだ。

3人は高等部からの親友であり、ブライアンとは面識が無い。


「元々ブライアンは、私のことを可愛げがないだとか性格がキツイと言って一度も尊重してくれたことはなかったわ。その上、半年ほど前から子爵家のネリー嬢に熱を上げるようになって周囲ではすっかり噂になっていたしね。ブライアンは婚約者である私を捨ててネリー嬢を選んだって」


バーバラとアシュリーは黙ってキャサリンの話を聞いている。


「彼が私と婚約破棄をしようと考えている話も周囲の噂で知ったのよ? 別に、私としてはあんな男どうでも良かったけど……」


そこでキャサリンはワインを手にした。


「それにしたって、別の女性を好きになったから捨てるなんて私のプライドが許さなかったわ。婚約破棄は受け入れるけど、あの2人を喜ばすような真似はしたくないもの」


「勿論よ! 性格が悪い上に婚約者のあなたを蔑ろにしたのだから!」


「あんな男、懲らしめて当然よ」


アシュリーとバーバラが興奮気味に頷く。


「だけど、あんなにうまくいくとは思わなかったわ。あのパーティーで婚約破棄を告げてくるとは思ったけど、あれだけの人が集まってくるなんて」


すると、キャサリンの言葉にバーバラとアシュリーが顔を見合わせる。


「あぁ、あれ実はね……」

「私達が集めたのよ」


「え? どういうこと?」


その言葉にキャサリンは身を乗り出した。


「あのね、キャサリン達がいた場所を指さして修羅場が始まったみたいよって私とアシュリーが大きな声で話したのよ」


「そうしたら、出席者達が興味を持ってあなた達のところへ集まったというわけ」


その言葉に目を見開くキャサリン。


「そうだったのね!? だからあんなに人が集まったのね……フフフ。それにしても、本当にブライアンは馬鹿ね。パートナー絶対同伴の場で、あんな失態をしでかすのだから。あのパーティーには有力貴族たちが大勢集まっていたわ。きっとブライアンの評判は地に落ちたわね。ネリーとの仲も壊れたし、いい気味だわ」


「キャサリン、ブライアンはあの女性に捨てられたわ。もしあの男が復縁を迫ってきたらどうするつもり?」


「許してあげるのかしら?」


アシュリーとバーバラが交互に尋ねる。


「許す? そんなはず無いでしょう。だって向こうから婚約破棄を告げてきたのだから。追い返してやるに決まっているでしょう」


「そうよね。キャサリンなら他にも素敵な男性が現れるわよ」


「私もそう思うわ。だってキャサリンは美人だし、頭も良いもの」


バーバラとアシュリーはワインの酔いも手伝ってか、興奮気味に語る。


「フフ、ありがとう。2人とも、でも正直に言うと、私は結婚には興味ないわ。だって職業婦人になるのが夢なのだもの。そう、例えば……悪い男を懲らしめる私立探偵……とかね?」


そして、キャサリンはクスクス笑った。

その笑みは、とても美しく……どこか悪女のようにも見える。


「だったら、その時は私を雇ってくれないかしら」


「私も雇って欲しいわ!」


友人2人が手を上げる。


「ええ、勿論そのつもりよ。だって私達3人が手を組めば最強だものね。さて、それじゃ今夜は私の婚約破棄をお祝いして飲み明かすわよ!」


「ええ!」

「賛成!」


こうして3人の令嬢は夜が更けるまで楽しい時を過ごすのだった。



その数年後――


キャサリンは言葉通りに探偵業を始めた。

勿論、従業員は……言うまでも無い――



<終>

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残念ですが、その婚約破棄宣言は失敗です 結城芙由奈 @fu-minn

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